渋谷パルコ(PARCO以下、パルコ)は創業以来、世界中の気鋭クリエイターとコラボレーションしてきた。19年の改装後、パルコミュージアムを含む9つのギャラリーを設置。単なるファッションビルではなく、若者及び訪日観光客にとって日本のカルチャーを象徴する場所になっている。パルコとギャラリーNANZUKAは19年の改装以降、2階にオープンしたギャラリー「2G NANZUKA」やパルコミュージアムの展覧会、販促など多岐に渡りコラボレーションしている。手塚千尋パルコ宣伝部部長と「NANZUKA UNDERGROUND」などを運営する南塚真史NANZUKA代表に、ファッションとアートについて聞いた。
パルコは幅広い人とアートのコミュニケーションをする場
パルコミュージアムから劇場まで、文化的な活動はパルコにとって企業の存在意義の一つ。手塚部長は、「ギャラリーが多いのは、パルコに来るたびに新しい発見がある、そのような刺激を与えたいからだ。アートを購入する若い人が増えた。ファッションが好きな人はアートへの関心が高い」と話す。パルコミュージアムでは、見て楽しいコンテンツを提供し、ギャラリーでは新進気鋭のアーティストやクリエイターの作品を紹介している。南塚代表は、「パルコは、若い世代がファッション以外にアートに興味を持ち始める場。アートに関心がなかったような幅広い層とのコミュニケーションの場になっている」と語る。アートは、一定の富裕層とエリート層のものだったが、ファッションなどのコラボにより、民主化、大衆化が進んでいる。「日本におけるアート的デコレーション=ポピュラーアートの浸透力はものすごい。そうではなく、中身のあるアートを届ける必要がある。価値のあるアートを一般に届けるために、よりフレンドリーなアプローチを模索している。保守的なアート界からすると、商業的と見られることもあるが新しい層とのタッチポイントになり、販促効果も大きい」と同代表。NANZUKAが目指すのは、パルコとの取り組みなどを通じて商業目的だけで拡大してきたポピュラーアートに挑むことだ。
「ルイ・ヴィトン」が変えた企業とアーティストの関係
手塚部長と南塚代表は、2000年前半の「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」(以下、LV)と村上隆のコラボレーションが、ファッションとアートの関係性を象徴すると口をそろえる。このコラボレーションを機に、アートの大衆化が進み、ファッションとアートの蜜月は続いている。南塚代表は、「LV」と村上のコラボについて、「ファッションの価値を高め、アートの価値をより広く認知させることに成功した例。ファッションだけで新しいものを生み出すのは難しいが、アートは常に新しいものを産まなければならない。うまくアートを解釈して取り入れれば、新たなものが生まれる」と話す。「LV」と村上とのコラボは、アーティストにとって重要な著作権にも変化をもたらした。それ以前“著作権“は企業側にあるケースが多かったが、アーティストに残すべきだと言う流れができた。契約によりけりだが、アーティストがコラボ作品を自分の作品として発表し販売できるようになった。無名なアーティストがラグジュアリー・ブランドとコラボすれば、一気に広く知れ渡り、価値が上がる。ブランドにとっても新たな話題づくりになる。コラボは、ブランドにとってもアーティストにとっても“ウィン・ウィン”というわけだ。同代表は、「20世紀のアートは概念=コンセプトありきだった。今は、コンテクスト=文脈の時代で、作品から派生する影響も含まれる。ファッションは実用性が求められ、商業化するには、文脈が重要視される」と話す。ブランドがアーティストとコラボするのは、お互いの文脈を共有することで相互価値を高めるためだ。ラグジュアリー・ブランドの情報発信性や付加価値を生む力にアート業界は学ぶべきということだ。南塚代表は、「システムの中に自然に価値が生まれるのを待っているだけではダメだ。アーティストは、能動的に価値を生み出すことを考えるべきだ」と言う。
業界の枠組みを超えたコラボは加速するか?
手塚部長は、「アーティストに対する反応が、ブランド自体の方向性になっている。クリエイティブ・ディレクターの世代交代で、キム・ジョーンズ(Kim Jones)が『ディオール(DIOR)』のメンズ、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)が『LV』メンズを率いている。彼らは、ストリートアートに大きく影響を受けている」と話す。メゾンを率いるのは通常、ファッションを学んだデザイナーたちだった。それが、「LV」はメンズのクリエイティブ・ディレクターにミュージシャンであるファレルを選んだ。10年前のファッション業界では、想像できないことが起こっている。ファッションやラグジュアリー業界に求められる価値が時代と共に変化し、ファッションの専門知識よりも、ファレルが持つ感性や影響力が今、ブランドに必要と考えたからだろう。「現代アーティストがラグジュアリー・ブランドのディレクターになるなど、業界の境界を超えて起こりうるのか?それは、もはやクリエイターに適正があるかないかだと思う」と南塚代表。時代を映し出す鏡がアートであれば、それを一般に波及させる力を持つのがファッション。「LV」とファレルがタッグを組んだように、業界の枠組みを超えて、アーティストがラグジュアリー・ブランドのディレクションを手掛ける日が来るかもしれない。