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ガリアーノ節炸裂!「メゾン マルジェラ」“アーティザナル”の脳裏に焼き付くショー【2024年春夏オートクチュールまとめ】

メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」は1月25日、パリで 2024年“アーティザナル”コレクションのショーを開き、オートクチュール・ファッション・ウイークの大トリを飾った。「ショー」と書いたものの、通常のランウエイショーとは全く趣向が異なる。1年半前も映画と舞台を融合したスペクタクルで観るものを圧倒したジョン・ガリアーノ(John Galliano)は、今回も独創性あふれるシアトリカルな演出で観客を魅了した。

夜のパリで繰り広げられるミステリアスな物語

雨が降る肌寒い夜のパリで開かれたショーの舞台は、セーヌ川にかかるアレクサンドル3世橋のたもと。橋の真下にある川沿いの小道に並べられたカフェテーブル&チェアと1920年代のブラッスリー(酒場)を再現したセットが組まれた屋内会場に分かれて、観客は着席する。壊れた照明や曇った鏡、たくさんのグラスや皿が置き去りになったカウンターなど、廃墟のように古びた空間にはどこか不気味な雰囲気が漂い、ショーが始まる前から何かが起こりそうな期待がふくらむ。しかし、なかなかショーは始まらない。キム・カーダシアン(Kim Kardashian)ら大物セレブも到着し、もうスタートするだろうと思ってから待つこと約20分。オンタイムから1時間押しの20時を回った頃、ようやくショーは幕を開けた。

まず客席から立ち上がり酒場の隅にある螺旋階段へと向かったミュージシャンのラッキー ラブ(Lucky Love)が、ゴスペル隊と共に「Now I Don’t Need Your Love」をエモーショナルに熱唱。続いて、ブリット・ロイド(Britt Lloyd)監督によるミステリアスなフィルム・ノワール風のショートムービーが壁面の鏡に流れた。そこで描かれたのは、コルセットをきつく締め上げるフェティッシュなシーンやタンゴを踊る男女、宝石泥棒、そしてパリの街を走って逃げる男。その映像から飛び出してきたかのように、モデルのレオン・デイム(Leon Dame)がコルセットにテーラードパンツをまとって川沿いの小道に姿を現し、酒場へとたどり着く。

アデル(Adele)がカバーしたジョージ・マイケル(George Michael)の「Fast Love」や、マックス・リヒター(Max Richter)が改作したヴィヴァルディ(Vivaldi)による「四季」の「春」とマッシヴ・アタック(Massive Attack)の「ティアドロップ(Teardrop)」をマッシュアップした楽曲が流れる中、モデルたちは時に客席の前にあるテーブルやビリヤード台に腰をかけたり、辺りを見回したり、立ち止まってポーズを決めたりしながら、ゆっくりと歩く。男性はマッチを口にくわえ、壊れた傘をさしながら震える仕草を見せたり、身を隠すようにコートを頭まで被り体をかがめたり。女性は寒さに耐えるように腕をクロスさせて体を包み込むものもいれば、壊れた操り人形のようにぎこちなく歩くものもいる。そのドラマチックな動きは、コレオグラファー(振付師)のパット・ボグスラウスキー(Pat Boguslawski)が監修したものだ。そして、パット・マクグラス(Pat McGrath)が作り出す陶器の人形のような艶のある肌に、ダフィー(Duffy)によるボサボサの髪を大きな帽子のようにまとめ上げたヘア。そんな所作や風貌が、ガリアーノが思い描く作品の世界観を具現化している。

誇張されたシルエットと15の技法で描く個性

写真家ブラッサイ(Brassai)による夜のパリの人間模様を覗き見るかのようなポートレートに興味をそそられたというガリアーノが目指したのは、「服装に反映される個性を形作る慣習や出来事を描くこと」。プレスリリースには「服を着るという儀式は、自己を構成する行為。体をキャンバスとして、私たちは内面を表現する外面、つまり感情の形を作り上げる」とある。それを服でどう表現するのか。「感情的な形を物理的に表現する」ためのベースになるのは、コルセットとウエストニッパーでウエストを極端に絞り、腰下や臀部を誇張した丸みのあるシルエット。そこに、ガリアーノは「メゾン マルジェラ」独自の15のテクニックを駆使したアイテムを重ね、キャラクターを描き出す。その制作には1年以上を要したという。

メンズの中心となるのは、ひねりを効かせたテーラリングやコート。一見、ツイードやヘリンボーンといったクラシックなメンズウエアのような素材はウールクレープにトロンプルイユ(だまし絵)プリントを施したもので、その下にオーガンジーやフェルトなどの薄手の生地を何層にも重ねることで軽やかなコートやジャケットを作る。中には雨粒に見立てたクリスタルをあしらったり、裾が水で濡れたようなシリコン加工を施したり、トップレイヤーにチュールのベールを重ねておぼろげな雰囲気を演出したものもある。またキャラクターの感情を服に込めるために用いたのは、”エモーショナル・カッティング(Emotional Cutting)”と呼ぶ無意識のジェスチャーを衣服に取り入れるカッティング。顔を隠すために上げるコートやジャケットのラペルや、水たまりを避けるためにたくし上げたパンツといったデザインに生かされている。

一方、ウィメンズは、ウエストからヒップにかけてのシルエットを際立たせるドレススタイルやスカートスーツが主役だ。内側のコルセットや陰毛をリアルに再現したスキャンダラスなボディースーツがあらわになる透けたドレスは、“シームレース(Seamlace)”というレースなどの断片をなめらかにはぎ合わせてフォームを作る技法や、ウエアの下から上へと装飾的なディテールが退化するさまを表現する“レトログレーディング(Retrograding)”の技法で仕立てたもの。ボロボロの段ボールのような風合いをプリーツ状にしたシルクオーガンジーで表現したケープコートやスカート、表裏にして一部をカットすることで構造をむき出しにしたジャケット、ほつれや穴など、退廃的な美学を感じさせるデザインもある。

足元に合わせたのは、「クリスチャン ルブタン(CHRISTIAN LOUBOUTIN)」とのコラボレーションによるレッドソールの“タビ”。蹄(ひづめ)を想起させるプラットフォームとプロテーゼで強調されたかかとが特徴的なウィメンズのパンプスやニーハイブーツから、メンズ向けのレースアップのダービーシューズやショートブーツまで7型を提案した。また、女性はトップハンドルバッグ“スナッチト”を携えたり、陶器や木のように仕上げたレザーのネックピースをまとったり。男性は泥棒風のアイマスクやハンチングを身につける。

終盤は、青と白のストライプのコットンポプリンで作るドレスやスカート。白の部分を折りたたんで縫い合わせることで彫刻的なフィット&フレアシルエットを生み出している。ラストには女優のグェンドリン・クリスティー(Gwendoline Christie)が登場し、ストライプのコルセットと半透明のラテックスドレスでショーを締め括った。

鳴り止まぬ拍手と足音

30分にわたり繰り広げられたシアトリカルな大作は、まさに“ガリアーノ節炸裂!”といった印象。フィナーレに登場したモデルたちは、素晴らしいパフォーマンスを称える盛大な拍手で迎えられた。そして、ガリアーノは最後まで姿を見せることはなかったものの、彼の登場を待ち侘びる観客の拍手と歓声、そして木の床を踏み鳴らす足音はしばらく止むことはなかった。それは、脳裏に焼き付くようなファッションショーを目の当たりにすることが減り、マーティングや商業的な側面を感じるショーが増える中、心を震わせるクリエイティビティーの結晶に飢える観客たちのピュアなリアクションに他ならない。創業者時代のメゾンをよく知る人は、「メゾン マルジェラ」らしくないと言うかもしれない。しかし、ファッション界にはやはりガリアーノのようなドラマチックなストーリーテラーが必要だ。

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