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特集 CEO2024 ファッション編

【ユナイテッドアローズ 松崎善則社長】新規事業の開発で新たな価値を届ける

PROFILE: 松崎善則/ユナイテッドアローズ社長

松崎善則/ユナイテッドアローズ社長
PROFILE: (まつざき・よしのり)1974年2月22日生まれ。98年4月にユナイテッドアローズに入社。ユナイテッドアローズ渋谷店からキャリアをスタートし、店長職やBY本部長などを経て、2018年4月に上席執行役員に昇格し、同年6月に取締役常務執行役員に着任。20年11月に取締役副社長執行役員に就任。21年4月から現職 PHOTO:SHUHEI SHINE

粗利益率がコロナ前の水準に回復したユナイテッドアローズ。既存事業の利益構造の改善を進めつつ、今年注力するのは事業領域の拡大だ。テーマは「お客さまからの共感」。ファッションを軸にしながら、ゆくゆくは顧客の生活全般に携わることを目指す。新規事業開発専門の部署を立ち上げ、新たなアイデアの種を着実に育てていく年になる。(この記事は「WWDJAPAN」2024年1月29日号からの抜粋です)

複数のプロジェクトを始動させる
チャレンジングな一年に

WWDJAPAN(以下、WWD):26年3月期を最終年度にした中期経営計画では事業領域の拡大を掲げている。

松崎善則社長(以下、松崎):2024年は、新規ブランドの開発に力を入れて今までと違う価値をお客さまに提供するチャレンジングな年にしたい。来年度中(25年3月期)に複数のプロジェクトを始動させる予定だ。

WWD:1月には第1弾として、コスメブランド「ユナイテッドアローズ ビューティー(UNITED ARROWS BEAUTY)」を立ち上げた。

松崎:2年前に実施した社内公募で、複数人から上がった意見だったのでまず形にした。当社の課題である次世代へのアプローチにもつながることを期待したい。

WWD:セレクトショップ業態のコスメブランドは、販売接客の面でハードルが高いとも聞く。

松崎:今回は気分が上がると同時に日常使いできる、ちょうどいい価格帯を意識した。ECを軸に販売する計画で、売り場での販売スタッフの詳しい接客トークよりもパッケージやECでの商品説明である程度伝わるような売り方を考えている。今年は既存の主力事業以外でも積極的に増収を目指すが、コスメはすぐに大きくなるとは思っていないのでじっくり育てていくつもりだ。

WWD:業容拡大する上で、参考にしている企業は?

松崎:LVMHの衣食住を網羅するポートフォリオの広げ方はすてきだと思う。当社もセレクトショップと親和性のある分野にはどんどん出ていきたい。既にマンションの内装監修やリノベーションサービスを提供しているが、そこからの派生や生活雑貨を広げる可能性もある。

WWD:23年は粗利益率が過去9年で最高水準に回復した。

松崎:目指す方向にきちんと進められた。コロナが明けて想定以上にお客さまの来店回帰が強くなる中、セールで来店を促進するよりも、商品の正しい価値をいかに伝えて定価でお求めいただくかに注力してきた。それが顕著に結果に現れた。24年も引き続き、定価販売比率を上げることを目標にしていきたい。

WWD:一方で、課題として残ったことは?

松崎:供給量を抑制しつつ、売り逃しを防ぐこと。デジタルツールをうまく活用していかなければいけない部分だ。暖冬や為替など外的要因に出遅れの要因は求めていない。私たちの使命は、それでも欲しいと思ってもらう商品を作り続けることだ。

WWD:売上至上主義から脱却し量より質で勝負する方向なのか?

松崎:売上高は当社に対する支持のバロメーターなので、そこを減らしていく考えは全くない。ただ、在庫を積み上げて売り減らしていくような商売の仕方では、回り回って自分たちが苦しくなるだけだ。その意味でも商品の本来の価値を伝え、認めていただきながら売上高を増やす。当たり前のことだが、これまで経験則で進んできてしまった部分もある。そこを丁寧に見直してきた。23年は商品の改善を伴って値上げをしたが、結果的にきちんとプロパー販売比率が高まった。商品の価値を伝えられた手応えがある。

WWD:商品の改善とは具体的には?

松崎:オリジナル商品をセレクト商品に負けないレベルに高めることだ。たとえば、1万円のドレスシャツであれば畳み幅の変更や生地選び、色の表現の仕方など細部にわたる。工夫をちゃんと伝えるためにも販売スタッフの丁寧な接客があらためて重要だ。

WWD:コロナ以降、接客に求められることに変化は?

松崎:コミュニケーションを求めるお客さまが増え1人あたりの接客時間は増えた。マインドの変化を踏まえて、各店には「これまで以上に接客が重要だ」と日々伝えている。その中、「スタッフ オブ ザ イヤー2023」で当社の仲希望さん(「ユナイテッドアローズ 新宿店」勤務)がグランプリを取れたことはみんなのモチベーションになった。

WWD:顧客と密接につながっていくためにこれから仕掛けていくことは?

松崎:多面的に取り組んでいく。新規事業開発に加えて、中期の柱の一つであるデジタル戦略では、会員プログラムをリニューアルした。店舗やオンラインストアに多く接していただければいただくほど還元率が高くなる仕組みだ。購入金額に対してはもちろん、商品のお気に入り登録やレビュー投稿でもマイルの対象になる。お客さまとのタッチポイントを創出すると同時に、それをきちんとデータ化して情報集約し、的確な商品をお勧めができるようなデジタル化を進めていく。大きなテーマは変わらず、いかにお客さまの共感を得られるか。お客さまとともに、新しい価値を作っていくイメージで進んでいきたい。

会社概要

ユナイテッドアローズ
UNITED ARROWS

1989年10月設立。90年7月、原宿にセレクトショップ「ユナイテッドアローズ」1号店を開く。2002年3月東証二部、03年東証一部に上場、 22年東証プライム市場へ移行。主なグループ会社にコーエンなど。23年3月期の連結業績は、売上高1301億円、純利益43億円だった。従業員数は3915人

問い合わせ先
ユナイテッドアローズ
03-5785-6325