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イタリアの名門毛織物トップ、カノニコ氏が語る「ミラノ・ウニカ」「24年の高級品市場」「AI」

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アレッサンドロ・バルベリス・カノニコ=ヴィターレ・バルベリス・カノニコ代表取締役

PROFILE:ミラノ工科大学工業工学修士号取得。1663年創業のイタリア高級紳士服地業界最大手のひとつ、ヴィターレ・バルベリス・カノニコの13代目当主。2015年5月より「イデア・ビエッラ」会長、2020年2月から「ミラノ・ウニカ」会長を務める

ヴィターレ・バルベリス・カノニコ(VITALE BARBERIS CANONICO、以下VBC)は、エルメネジルド・ゼニアやロロピアーナなどがひしめくビエッラの毛織物企業の中にあって屈指の名門企業の一つ。昨年で創業360周年を迎え、13代目の当主であるアレッサンドロ・バルベリス・カノニコ(Alessandro Barberis Canonico)社長は、2020年からミラノ・ウニカの会長を務めてきた。

4年間の会長在任中にはコロナ禍に見舞われ、21年9月展が中止に追い込まれるなど、多くの困難に見舞われた。だがコロナ収束後は、個性派揃いのイタリア企業を見事な手腕でまとめ上げ、今回の「ミラノ・ウニカ」では出展者数が609社と過去最高を記録した。最大の理由は、これまで「プルミエール・ヴィジョン」に出展していたプラートを中心とする有力な企業を呼び戻せたことだ。今回は基調講演でAIを打ち出し、日本企業37社を集積したパビリオン「ジャパン・オブザーバトリー(JAPAN OBSERVATORY、以下JOB)」の10周年を大きく取り上げるなど、アイデアと気配りにも長けている。今回で任期を終える、カノニコ氏に「ミラノ・ウニカ」のこれまでと今後について聞いた。

コロナ禍から見事に復活、さらに成長軌道へ

WWD:「ミラノ・ウニカ」の会長期間中はコロナ禍やウクライナ紛争など大変な時期だったが、コロナ後は見事に立て直した。

アレッサンドロ・バルベリス・カノニコ(以下、カノニコ):振り返ってみると、3つのポイントがあった。一つはこれまでと同様に、あるいはそれ以上に「クオリティー」を重視したこと。「ミラノ・ウニカ」は出展に際してレベルの高さを要求してきた。これは今年10周年を迎えた「ジャパン・パビリオン」を率いるコモダさん(=古茂田博/日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)事務局長)にも繰り返し伝えてきたことだ。われわれが重視するのは「数ではなく質」。このことが世界中のブランドやデザイナーに魅力となっている。

2つ目はウイメンズに強いプラート地区のテキスタイルメーカーの出展を増やせたこと。コロナが収束後、プラート地区に足を運び、「ミラノ・ウニカ」は質を重視していること、見本市としての魅力を更に高めるためにもプラート地区のテキスタイルメーカーも力を貸してほしいことを繰り返し伝えてきた。とはいえ、どの企業も実力も個性も高いイタリア企業が多いので「はい、そうですね」というわけにはいかない(笑)。粘り強く、この2つのことを伝え続けたんだ。

3つ目はサステナビリティだ。サステナビリティに特化したトレンドエリアを設けるなど、様々な取り組みを行った。2018年2月展で53社に過ぎなかったトレンドエリアへの参加企業は、今回で出展者の半数以上の342社にまで拡大した。正直言って、ここまでのスピードで拡大できるとは思っていなかった。サステナビリティと言っても、単に素材をリサイクル糸に切り替える、ということだけではない。われわれは製造業であり、温暖化対策や水の消費量を抑えるためには大きな投資が必要になる。場合によっては数億円以上もかかる投資はすぐにできるわけではない。投資のタイミングだって企業によってもそれぞれある。決して性急に進めようとは思っていなかったが、実際には思っていた以上のスピードで多くの企業が取り組んだ。

この3つが「ミラノ・ウニカ」の魅力高め、さらにイタリアのテキスタイル産業全体の競争力を高めた。サステナビリティに関しては今後10年間で、限りなく100%にまで高まると思う。

WWD:サステナビリティで世界の繊維産業も大きな過渡期にある。生産枚数の減少で産業規模が縮小する、という見方もある。イタリアの繊維産業への影響は?

カノニコ:そうした考え方は全くのナンセンスだ。こう考えてほしい。数十ユーロの服とカシミヤの2000ユーロのカシミヤのコート、この2つのマーケットは切り分けて考えるべきだ。価格の安い服なら買ってすぐに廃棄するかもしれない。でも2000ユーロのコートなら誰だって大事に、そして長く着るでしょ?私が今日着ているスーツだって15年前のものだよ。天然素材のウールは環境にも優しい。後者の立場であるイタリアの繊維産業にとっては、あまり意味のない議論だ。それにサステナビリティはもっと広く、深いものだ。きちんとした労働環境を整え、環境に配慮した製造工程にシフトし、温暖化を抑える。これらは高級品市場のサプライヤーであるわれわれが当然守るべきものだ。

24年の高級品市場の見通し

WWD:システマ・モーダ・イタリア(SMI)によると、23年のイタリアの繊維産業の総売上高は前年比2.5%減だった。24年をどう見る?

カノニコ:23年の減少にはいくつかの要因がある。一つはコロナ明けの22年の反動増で、衣服製造の長いサプライチェーンの各段階で流通在庫が積み上がってしまっていた。もう一つは中国市場の失速も大きい。もう一つは欧米、特に米国市場が金利上昇の影響で物価が上がり、消費マインドが若干冷え込んだ。ただ、流通在庫はかなりの部分で解消しており、私の実感では、7月以降はまた増加に転じると見ている。

WWD:24年はラグジュアリーコングロマリットの失速など、高級品市場が厳しいとの見方もあるが。

カノニコ:もちろんラグジュアリーコングロマリットは大変重要な顧客だが、われわれが捉えている高級品市場はもっと広い。例えばエルメネジルド・ゼニアやブルネロ・クチネリを見てほしい。2023年も絶好調だし、今年もおそらく変わらず好調を続けるだろう。いわゆる狭い意味での「ラグジュアリー・ブランド」も、服はそこまで悪くないようにも感じている。米国市場も大統領選挙の後には消費が間違いなく上向くし、これまで上がってきた金利もいまは落ち着きを取り戻しているし、旅行客の増加でインバウンド消費もさらに増えるだろう。少なくとも我々の考える高級品市場はそれほど悪い年にはならないと見ている。

日本企業を後押しする理由

WWD:日本企業を集積した「ジャパン・オブザバートリー」を積極的に後押ししてきた。

カノニコ:テクニカルなテキスタイルに強い日本は、イタリア企業を保管する存在で、その存在は「ミラノ・ウニカ」の魅力を高めている。コモダさんから「10周年で何かできないか?」と聞かれたときには「もちろん!」と即答したよ。初日のパーティの主役を日本にしたのは、当然の成り行きだ。

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