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特集 CEO2024 ファッション編

【アダストリア 木村治社長】小売業からプラットフォーマーへ、24年はその準備の年

PROFILE: 木村治/アダストリア社長

木村治/アダストリア社長
PROFILE: (きむら・おさむ)1969年生まれ、茨城県出身。90年に福田屋洋服店(現アダストリア)に入社し、店長などを経験。2001年に独立してワークデザイン設立。同社は07年にドロップ(トリニティアーツの前身)と経営統合し、11年にトリニティアーツ代表取締役社長に就任。16年にアダストリア常務、18年副社長を経て21年取締役社長、22年から代表取締役社長 PHOTO:SHUHEI SHINE

自社EC「ドットエスティ(.ST)」が好調で、アパレルECの勝ち組の代表格となったアダストリア。2024年も、「ドットエスティ」上の提供サービスを拡大し、アパレル小売業の枠を超えた成長を描く。約30ブランドを擁するマルチブランド戦略、積極的な海外投資、実店舗とECの両輪成長が独自性を生んでいる。(この記事は「WWDJAPAN」2024年1月29日号からの抜粋です)

「ドットエスティ」と実店舗の両輪で
過去最高業績を達成

WWDJAPAN(以下、WWD):2023年3〜11月期は過去最高業績を達成した。特に何が寄与したのか。

木村治社長(以下、木村):通期の24年2月期でも、売上高が前期比11.3%増の2700億円、営業利益が同56.3%増の180億円、純利益が同59.1%増の120億円を達成できる見込みで、過去最高を更新する。円安、原料高で厳しい1年だったが、価格見直し(値上げ)を行うと共に、無駄な値引きを抑え、「適時・適価・適量」方針のもと、商品企画や生産のあり方、在庫管理の徹底に常に努めてきた成果だ。21年に素材開発部を立ち上げて以降、自社独自の素材開発により一層力を入れていることも利益確保につながっている。種まきを行った新ブランドや新事業は、芽が出たものも、まだまだなものもある。ただ、マルチブランド戦略のもと、それら全てがデータとして蓄積されているということは財産だ。生産面では、中国もコスト上昇している中でASEAN生産も広げ、計画生産によってコストを抑えている。来期以降はインド生産もトライしていく。

WWD:24年に注力するポイントは。

木村:23年は好業績を達成したが、客数はコロナ前と比較してまだ完全には戻っていないし、厳しい状況は続くかもしれない。大量に生産し、大量に売るという価値観自体が時代と合わなくなっている。引き続き、客数増よりも重点目標である利益確保のために品質やデザイン価値を高め、その分価格を上げる。例えば「ハレ(HARE)」「ジーナシス(JEANASIS)」は、客単価が2ケタ増のペースだ。単に値上げするだけではお客さまの心は離れてしまうが、1点1点どう付加価値を高めるか考えているなら、お客さまとの信頼関係は崩れない。

WWD:自社ECの「ドットエスティ」が成長をけん引している。

木村:「ドットエスティ」は引き続き注力事業の1つであり、会員数は1710万人を突破した。店舗スタッフによる投稿コンテンツ“スタッフボード”の効果が大きく、お客さまと店舗スタッフとのつながりが非常に強まっている。国内約1300の実店舗を持っていることとECが、当社の成長の両輪としてうまく回っている。社内インフルエンサーが増えたことで、インセンティブや教育制度も強化した。「ドットエスティ」は22年春に他社にも開放し、現在8社9ブランドを扱っている。他社へのオープン化により、当社のポートフォリオで手薄な部分を補完できており、購買層も広がっている。23年はJR九州と組んで、“スタッフボード”の人気店舗スタッフが登場する旅行企画も「ドットエスティ」上で行った。そういった地方創生企画も可能であり、ほかにも多様な切り口が「ドットエスティ」では考えられる。23年10月にはフリマサービスも開始した。ゆくゆくはお客さま同士での売買やイベント共有なども可能にし、「ドットエスティ」でカバーするサービスを充実させ、ID(会員登録)の価値をさらに高めていく。“スタッフボード”は自社でシステム開発しており、今後はベンダーとして他社に販売も予定している。ここまでデジタルに投資ができている企業は業界の中でも限られており、投資できている企業がここからさらに伸びる。

WWD:海外事業では台湾が絶好調だ。

木村:台湾は昨年、事業開始20周年を迎え、ローカル化も順調、トップも現地人材だ。23年は22店出店し、現在64店。来期も積極出店して一気に勢いに乗る。コロナ禍中も出店し続けた中国本土はまだ回復途上だが、今後も投資を続ける。23年4月にはタイのバンコクにも「ニコアンド(NIKO AND...)」を初出店し、順調だ。フィリピンにも子会社を2月に設立し、24年に出店を計画している。

WWD:ブランド別では、「グローバルワーク(GLOBAL WORK)」が順調に伸びている。

木村:われわれの強みは、約30ブランドを展開するマルチブランド体制を採りつつも、主力の「グローバルワーク」「ニコアンド」「ローリーズファーム(LOWRYS FARM)」「スタディオクリップ(STUDIO CLIP)」の4ブランドでそれぞれ200億円以上、合計で1100億円超の売り上げがある点。これがあるからデジタルをはじめとした大型投資ができるし、社員の賃金も上げられる、サステナビリティも追求できる。この4ブランドはここからさらに成長させられる。「グローバルワーク」は現在の売上高が約500億円だが、1000億円規模を目指せる。国内は人口減で縦積みが厳しくなる以上、海外がますます重要になるし、会社全体としての成長ではM&Aも考えている。

WWD:コロナ禍中に、苦しくても投資をやめなかったことが花開いた。

木村:福田(三千男会長)が指揮を執っていた時代から、システムにも物流にも投資をしてきた。ファッションだけでなくライフスタイルブランドも手掛けていることで、当社には多種多様な大量のデータが蓄積されている。データ分析の担当者がDX部門にも、各ブランド内にも、マーケティングチームにもおり、分析内容を週次、月次、四半期といったターム別に落とし込み、改善している。データを分析し掛け合わせることで新しい事業につながる。ただの小売りから、新しいプラットフォーマーになっていく。24年はそのスタートの年だ。

会社概要

アダストリア
ADASTRIA

1953年に茨城県水戸市で福田屋洋服店として創業。93年にポイントに商号変更。2013年にアダストリアホールディングスとしてトリニティアーツなどをグループ化。15年にアダストリアホールディングス、ポイント、トリニティアーツを統合し、アダストリアに社名変更。主要ブランドは「グローバルワーク」「ニコアンド」など。2023年2月期は売上高が前期比20.3%増の2425億円、営業利益が同75.4%増の115億円だった

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