「ヴァレンティノ(VALENTINO)」は1月24日、2024年春夏オートクチュール・コレクションを発表した。古城を背景にした壮大なショーから半年、ヴァンドーム広場にあるゴールドの装飾とシャンデリアで飾られたクチュールサロンを舞台に、親密なショーを開いた。
意表を突く配色や異なる質感の組み合わせ
クチュールサロンは、メゾンが「技術の価値を決め、創作を称える文化的な環境。美を目撃し、人間らしさを体験する場所であり、まさにオートクチュールの核」と定義する空間。そんなメゾンにとって特別な場所でピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)が見せたのは、伝統を重んじながらも時代に合った価値とニーズを反映したモダンなコレクションだ。
ファーストルックは、大きなフラップポケットを配したバーガンディーのミニマルなジャケットに、裾にオーストリッチフェザーをあしらったパウダーピンクのシフォンブラウス、そしてフューシャピンクのテーラードパンツのスタイル。淡いウォーターグリーンのクレープで仕立てたテーラードジャケットにネオンイエローで彩られたジョーゼットのタンクトップ、フォレストグリーンのタフタを用いたサーキュラースカートといった着こなしや、アズールブルーのブークレコートにゴールドのラメが輝くタンクトップ、深い赤のウールクレープパンツを合わせたルックもある。今シーズンは柄やモチーフが控えめなせいか、ピッチョーリの強みである意表を突く配色、そして異なる質感を持ったアイテムの組み合わせが一層目を引く。
現代生活を映し出す多様なアイテム
昨シーズンは日常を反映した“インディゴジーンズ”を総ビーズ刺しゅうで再現して見せたが、今季はコレクション全体を通して、現代の生活を映し出したアイテムで構成。オーバーサイズのテーラードジャケットやマスキュリンなコートから、Tシャツやシャツ、タートルネックトップス、オーバーオール、フラップポケットをあしらったり片足にだけ深いスリットを加えたりしたワイドパンツ、バミューダショーツ、ベビードールドレス、マーメイドスカート、フルイドなマキシドレスまでをそろえ、クチュールならではの素材や装飾、仕立て、シルエットで仕上げている。なかでもクチュールとして新鮮だったのは、ワークテイストのジップアップジャケット。ただし、フードの縁にはたっぷりと羽を飾り、ターコイズのタフタで仕立てたボールガウンのようなバルーンスカートと合わせて、実用主義とファンタジーを掛け合わせている。
また、“間近で見せることによってオートクチュールの真意を伝える”という意図を込めたショーでは、職人たちのアイデアと技術を生かした手仕事もしっかりと肉眼で捉えることができた。フェザーやファーのように見えるフリンジは、カールさせたシルクのピースやうねった細長いスパンコールをびっしり縫い付けたり、レザーとカシミアをボンディングした生地に無数の細かい切り込みを入れたりして表現。クロコダイルのような模様は、パテントレザーの小さなピースを並べて再現している。
ピッチョーリが語る職人への想い
ショーのフィナーレには、ピッチョーリと共にアトリエの職人たちが姿を見せた。「ヴァレンティノ」のショーではお馴染みの光景ではあるが、ここでピッチョーリが米「WWD」に語ったコメントを紹介したい。「私はアトリエにいる全員を知っている。それぞれの名前も知っているし、それぞれの生き方も知っている。私にとって、彼らは “手”ではない。フランス人が彼らを 『プティ・マン(フランス語で“小さな手”の意)』と呼ぶのが嫌いだ。それは、彼らが血の通った人間であり、服にそれぞれの生き方を投影していると感じるから」。そして、一人ひとりの職人が異なる取り組み方や個性を持っていることに対して、「自分の経験、自分の生き方、自分の人間性を自分の取り組んでいることに投影しなければ、魂を感じることはできない」と話す。そんなアトリエへの想いや信頼関係が、ユニークな作品づくりを支えている。「ヴァレンティノ」のクチュールショーがエモーショナルなのは、そういった背景がにじみ出ているからかもしれない。