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特集 CEO2024 ファッション編

【マッシュHD 近藤広幸社長】主要ブランドが絶好調「数字」に捉われず価値を追求

PROFILE: 近藤広幸/マッシュホールディングス社長

近藤広幸/マッシュホールディングス社長
PROFILE: (こんどう・ひろゆき)1975年8月6日生まれ、茨城県出身。98年にグラフィックデザインを手掛けるスタジオ・マッシュを設立、99年にマッシュスタイルラボに社名変更。2005年にファッション事業部を立ち上げ、ビューティ、フード、スポーツ&ウェルネスなどに事業を拡大。12年にマッシュホールディングスを設立し、現職 PHOTO:TAMEKI OSHIRO

マッシュホールディングスは2023年8月期、ファッション事業の主力ブランドの「ジェラート ピケ」が300億円、「スナイデル」が200億円、「ミラ オーウェン」が100億円、「リリー ブラウン」が50億円と、それぞれ節目の数字を踏み超えた。創業から25年。マッシュグループを国内ウィメンズ市場のリーダー的存在に育て上げた、近藤広幸社長の次なる一手とは。 (この記事は「WWDJAPAN」2024年1月29日号からの抜粋です)

“ハッピー”を作る熱意を原動力に

WWDJAPAN(以下、WWD):23年は創業25年という節目の年だった。

近藤広幸社長(以下、近藤):ファッション事業では主力ブランドが軒並み節目の数字を超え、手応えを感じられる1年だった。誕生から15年目を迎えた「ジェラート ピケ」が300億円の大台を突破した。武器になったのはコラボレーション。特に、「ポケモンスリープ」との協業は、ポケモンになりきれるかわいらしいルームウエアで大きな話題を作れた。単に売り上げという“数字”目的では、実現しなかった協業だ。これまでも、おうちの中での時間をハッピーにしたいという思いを熱意を持って伝えてきたからこそ、相手先さまと手を携えることができてきた。今後は、海外でもブランドの魅力を伝え、新たな成長のエンジンにしたい。

WWD:「リリー ブラウン」(以下、リリー)と「ミラ オーウェン」(以下、ミラ)の両ブランドが、ともに売上高が前期比22%増と好調だ。

近藤:それぞれのブランドの強みと届けるべき価値に立ち返り、力強く息を吹き返すことができた。「リリー」は、売上高がコロナ前のピークを超える54億円と絶好調。21年夏のリブランディング後、“ヴィンテージ フィーチャー ドレス”というコンセプトに回帰しながら、トレンドを加味したモノ作りを進めたことが結果につながっている。売上高が100億を超えた「ミラ」も、“ネクストベーシック”“ロープライスラグジュアリー”というブランドコンセプトに立ち返り、生地から縫製、パターンまで、価格に対するモノの良さを改めて追求したことが、好成績につながった。数字は確かな手応えとなり、社員の自信と日々の仕事に向かうビタミン剤になっている。

WWD:ブランドを育てる上で大切にしていることは。

近藤:ブランドコンセプトを大切にしつつ、まずは売上高25億円に到達すること。市場での存在感とそれを支えてくださるファンが生まれ、ブランドとしてやるべきことが明確になってくるフェーズだ。だが数字にとらわれすぎると大事なものを見失う。売上高を大きくすることがすべてではなく、「何を届けたいか」がはっきりしていなければお客さまはついてこない。

「ミラ」は当初より売上高200億円を目標に掲げている。規模を拡大すれば、スケールメリットによりさらに値ごろで質の良い商品を届けられる。ブランドの価値を追求する上では理にかなっているし、スタッフもさらなる高みを目指して燃えている。一方、「リリー」はむやみに店舗を増やしてしまうと、ブランドの個性が薄まってしまうだろう。50億円を達成した今、どういったベクトルに向かっていくべきなのかを見極めている。

WWD:メンズ事業の進捗は。

近藤:メンズ事業の合計売上高は「バブアー」などのライセンス事業を含めると、72億円。そのうち、当社のオリジナルブランドである「ジェラート ピケ オム」と「アウール」が同30%増の55億円だ。オリジナルブランドだけで100億円を目指したい。メンズ事業の成長とともに、ブランドの入れ替わりが少ない百貨店メンズフロアの景色を変えたいという思いがある。実際、お客さまの潜在需要は大きい。ブランドがしっかり独自性を発揮できれば、有力な選択肢の1つになれる。

WWD:飲食事業も初の営業黒字となった。

近藤:フード事業は売上高34億円。次の目安となる50億円に向けてさらに進化していく。当社初となるフード業態、「ジェラート ピケ カフェ」の立ち上げから10年。苦労することもたくさんあったが、“ウェルネスデザイン”を掲げるマッシュグループにとって、飲食はなくてはならないものだと信じて続けてきた。かつてビューティ事業の黒字化にも、7年を費やした。今回も「諦めの悪い」僕たちが、覚悟を持って、粘り強く貫いた成果だと思っている。

WWD:資本提携を結んだ米国の投資ファンド、ベインキャピタルとのシナジーによる海外戦略は。

近藤:ここ数年はコロナの影響で守りに徹してきた部分が大きい。特に今後の海外戦略の足がかりとなるであろう中国は、これまで従業員の雇用を守ることに必死だった。今年はやや古びてしまった既存店舗の改装投資に力を入れる。現地のお客さまには、改めてブランドの世界観と魅力を思い出していただきたい。

WWD:24年8月期は売上高が前期比8%増の1230億円を見込む。

近藤:前年比のクリアは指針として分かりやすいが、成長を追い求めるあまり「何のために仕事をしているのか」が抜け落ちては、やるべきことがブレてしまう。ブランドを通してお客さまを常に喜ばせたいという気持ちは変わらない。変わりゆく社会を忠実に捉え、答え合わせをしながら、情熱を持ってモノ作りをしていく。24年はパリ五輪の開催もあり、明るいムードになる。世の中の気分を盛り上げる商品を作り、お客さまの元気や幸せを後押しする支援を続けたい。

会社概要

マッシュホールディングス
MASH HOLDINGS

1998年、グラフィックデザイン会社として設立。2005年に「スナイデル」を立ち上げファッション事業に参入。「ウェルネスデザイン」のスローガンの下、ビューティやフードにも裾野を拡大。23年8月期売上高は前期比11%増の1134億円。営業利益は非開示だが、98億円の黒字だった前期からは増益し、3期連続の増収増益を記録している

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TEXT:RIE KAMOI