PROFILE: 坂下秀憲/ミルボン社長
ミルボンは美容室向け化粧品メーカーの最大手であり、グローバル展開や化粧品事業への進出をいち早く遂行するなどヘア業界をけん引する存在だ。1月1日に、BtoBtoC型のオンラインストア「milbon:iD」を立ち上げた坂下秀憲氏が社長に就任。デジタルを活用し、美容師に寄り添った次世代サロンの提案に力を注ぐ。(この記事は「WWDJAPAN」2024年1月29日号からの抜粋です)
美容室とともに
新しい経済圏を作っていく
WWDJAPAN(以下、WWD):社長就任で変えること、変えないことは?
坂下秀憲社長(以下、坂下):23年10月に社長就任を発表した時は美容業界内外から多くのメッセージをいただいた。その一つ一つに意気込みなどを添えて返信したが、共通して記した言葉が「ミルボンをミルボンらしく」だった。その言葉に多くの社員が賛同してくれること、好業績の中でバトンを渡されることに感謝している。新社長になったから変わるのではなく、時代の変化に合わせて変わっていく。ミルボンは創業以来、そうして成長してきた。
WWD:今のヘア市場をどう見ている?
坂下:人口は2008年にピークアウトしているのに、ヘア市場は今も緩やかに伸びている。なぜなら就業人口は増え、この10年でヘアカラーが一気に広がったからだ。弊社が取引先約1000店舗を対象に調査したサロン経営指数を見ると、美容室のカラー客比率は50%近い。カラーをすれば、トリートメントなどのサロンケアサービスが伸びる。弊社は店販のことを、知識や知見をともなっているから“知販”と呼ぶが、サロンケアが伸びると知販が伸びる。ただ、就業人口がピークアウトする今後、これまでと同じ成長は見込めない。
WWD:その時代の変化に対する施策は?
坂下:これまでヘアカラーやサロンケアは普及の時代だったが、これからは価値を高めていく時代。付加価値の高い提案をすることで、美容室でのサロンカラーの概念を変えていきたい。弊社の調べでは、ファッションカラーをしたお客さまの約66%は「メイクを変えたい」と思っており、実際に変えた人の約60%は「アイブロウを変えた」と答えている。サロンカラーをヘアカラーに限定せず、ヘアカラーから眉、そしてメイクへとつなげていく提案は、美容室でしかできない。
WWD:そこまでやり切れる美容室は、まだ少ない。
坂下:忙しい美容師は、既存のオペレーションを変えることが難しい。われわれの提案を全部やろうとすると、どうしてもカウンセリングの時間が長くなる。それをどう短縮して、サロンワークをスムーズに進めながら、価値のあるサービスを提供できるか。今カウンセリングの研究を進めている。
WWD:23年は、ヘアドライヤー「エルミスタ(ELMISTA)」やサプリメント「アラナス(ALANOUS)」など、新カテゴリーの商品発売も続いた。
坂下:今後も新ジャンルへの挑戦は継続する。10年先・20年先に幾つの成長ドライバーを持っているかが重要で、これが将来的に美容室での新たな売り上げを作っていくことになる。新しい事業全てが大成功とはならないかもしれないが、それはミルボンがやらなければ作れない市場であり、やるべき挑戦だ。
WWD:公式オンラインストア「milbon:iD」の進捗は?
坂下:20年6月にスタートし、登録者数が21年は17万人、22年は45万人、23年は67万人となった。スタート時の予想より1年半前倒しで、25年には100万人を突破しそうだ。「milbon:iD」が一般的なオンラインストアと違うのは、契約美容室がストア内にECサイトを出店し、ミルボン商品をお客さまに販売。売り上げは美容室に計上され、サイト運営や物流業務を弊社が受託するもの。そのため、美容師がお客さま一人一人に購入するためのIDを手渡している。導入した美容室は知販の売り上げが確実に上がっており、1回の購入数は2.9品、平均客単価は約1万3000円にもなる。「milbon:iD」を立ち上げたときの調査では、美容室のお客さまの知販購入率は約15%、そしてリピート率は約40%だった。低めの数字の理由は「シャンプーを買うタイミングが美容室に行くときではなかったから」。つまり、60%のお客さまを、底に穴が空いているバケツのごとく取り逃していたということ。その60%を小さくする役割を「milbon:iD」が担う。
WWD:全体的に好調のようだが、課題は?
坂下:「milbon:iD」含め業界全体のデジタルシフトを進めていく必要がまだまだあると感じている。弊社では全国の300人からなる営業部隊“フィールドパーソン”がそれぞれ担当する美容室に出向き、デジタル活用をサポートしている。美容室と共にDXを進めていきたい。
WWD:サロンカラーの価値を高め、知販の購入を上げる中心となるのは、ミルボンと美容室が協働展開する“スマートサロン”だ。
坂下:その通り。昨年スタートした、お客さまが手軽にサロン専売品を手に取り体験できるスマートサロンは、現在23店舗。美容室の賛同あっての話だが、24年は100店舗を目指している。店内の“DAGASHI(ダガシ)”と呼ぶコーナーでは、サンプルサイズの商品をトライアル価格で購入することができるが、それを入れると知販購入率は50%に上る店もあるなど、成果は確実に出ている。今後、全国100都市くらいに広がっていけば、美容室がお客さまにも新しい購入チャネルだと認識され、美容室の楽しみ方が変わり、ここを柱にいろいろな活動ができる。先々、美容室とともに新しい経済圏を作っていければと思う。
会社概要
ミルボン
MILBON
1960年、業務用ヘア化粧品の専売メーカーとしてユタカ美容化学が創立。65年、社名をミルボンに変更。2001年、東証一部に指定。04年にはニューヨークに連結子会社を設立するなど、積極的なグローバル展開を行う。17年にはコーセーとの合弁会社コーセー ミルボン コスメティクスを設立。23年12月期第3四半期の売上高は前期比5.4%増の341億5000万円となった
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