ファッション業界のご意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。作業服からカジュアルウエアに進出し、急成長を遂げてきたワークマンの業績にブレーキがかかっている。2024年3月期は2期連続の減益の見通し。原因は円安など外的要因だけでないと小島健輔氏は主張する。ビジネスモデルに生じたズレとは何か。
バロックジャパンリミテッド、TSIホールディングスに続きワークマンも業績予想を下方修正し、アパレルの業績下方修正が広がる気配だが、その背景は外部要因に加えてマーケティングやマーチャンダイジング、出店政策など内部要因も指摘される。業績失速の構図は事業環境や顧客との「すれ違いの構図」と言ってもよいのではないか。
なぜ業績の下方修正に追い込まれたのか
ワークマンは2月5日、2024年3月期の業績予想を下方修正した。チェーン全店売上高は1758億8800万円と前回予想から2.8%、営業総収入は1349億9300万円と同1.2%、営業利益は234億4000万円と同8.9%、経常利益は239億5500万円と同8.6%、当期純利益は160億3000万円と同8.7%引き下げ、小幅増収ながら前回予想から一転して2期連続の減益となる。
下方修正は第3四半期累計(4〜12月)の計画未達を受けたもので、チェーン全店売上高は計画に45億円(3.1%)届かず前年同期比2.5%増にとどまり、既存店売上高は同2.1%減少、客数も同4.7%減少した(客単価は2.7%、商品単価は4.4%上昇)。12月単月では既存店売上高が前年同月比15.4%減少、客数は同15.5%も減少し、決算までの修復は困難と見たと思われる。
「ワークマンプラス」への改装店は、1年目は売り上げが伸びても2年目以降は減少、既存店売上高も4.3%減少、「#ワークマン女子」新店は初年度は勢いがあるが2年目以降の落ち込みが大きく、既存店売上高は11.8%も減少している。それでも「#ワークマン女子」新店の売上寄与度は一番高いから(開店初年度売上高平均は3億円弱、SC店舗は5億円を大きく超える)、積極出店を継続することになる。祖業「ワークマン」の既存店売上高も2.5%減少しているのは「職人離れ」を推察させる(ロイターによる下方修正の記事を転載したヤフーニュースには、職人たちの批判コメントが殺到していた)。
同社の決算説明会資料では「暖冬でアスレジャー向け防寒商品が伸び悩む一方、プロ向けは堅調」と説明しているが、部門別に見れば「ワーク・アウトドアウエア」売上高は前々期から減速して今第3四半期は前年を割り、「作業用品・レインウエア」も同様に減速して今期は前年を割り込んでいる。「レディス・ユニフォーム」だけは減速しても2ケタ増、「インナー・ソックス」も減速ながら2ケタ近い伸びを維持している。PB(プライベートブランド)別に見れば、最もハードな「イージス」が急失速して前年同期比76.0%に沈み、ワーク&アウトドアの「フィールドコア」も急減速して1ケタ増に落ち、ワーク&スポーツの「ファインドアウト」は前期に急失速して水面を割り、今期はかろうじてその水準を維持している。
コロナ明けによるアウトドアブームの冷却という環境要因があったとはいえ、職人客に特化したローカル立地のFCビジネスから一般客(「ワークマンプラス」)、さらにはメトロエリアの女性客(「#ワークマン女子」)を狙っての出店立地とマーチャンダイジングの一気呵成のドメイン転換がいくつもの「すれ違い」を生じさせ、運営スキルやマネジメントではギャップを埋めきれなくなったと見るべきだろう。
ホットなファッション性を高めたアスレジャーアイテムがクールなメトロエリア(大都市圏郊外)客の嗜好とすれ違って失望を買い(「#ワークマン女子」既存店売上高の落ち込み)、プロ向け品ぞろえの縮小や滞店時間の長い一般客の増加に失望して長年の顧客だった職人層が離れても(「ワークマン」既存店売上高の減少)、ホームセンターに慣れ親しんだローカル中高年層の支持は変わらない、というのが今のワークマンの実態と思われる。「#ワークマン女子」既存店売上高の落ち込みを痛感したからこそ、ローカルの小商圏(人口5万人以下の自治体)に顧客層もカテゴリーも限定しない大型店(500平方メートルの「ワークマンプラス2」)を多店化するという方針に転じたのではないか。
2期連続減益の背景にあるもの
チェーン全店売上高(−2.8%)や営業総収入(−1.2%)の修正幅に比べて営業利益(−8.9%)の修正幅が大きかったのは、いくつか理由がある。
第3四半期累計で前年同期から金額で18.2%、営業総収入対比で1.9ポイント、チェーン全店売上高対比でも1.8ポイントも上昇した販管費の増加分については、「#ワークマン女子」SC店舗の増加に伴う店舗運営業務委託料(SC店舗は販売代行であって直営ではない)と地代家賃(SC店舗は定期借地権のロードサイド店に比べ売上対比賃料負担率が3倍近い)が大きく、運賃と減価償却費が続く。上昇したとはいえ、いずれもアパレル業界の水準を大きく下回っており、ローコストなローカルのロードサイドから高コストな都市圏のSCへ出店立地を上ることで生じる必然的なコスト増と受け止められる。
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