「ディオール(DIOR)」は1月22日、2024年春夏オートクチュール・コレクションを発表した。創業者クリスチャン・ディオール(Christian Dior)の軌跡を描いたApple TV+のドラマシリーズ「ニュールック(The New Look)」が2月14日に公開を控える中、マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)はメゾンの歴史を振り返りながら、現代にふさわしいエレガンスを表現した。
イザベラ・デュクロによる巨大な衣服のインスタレーション
会場は、今季もロダン美術館の中庭に作られた箱型の空間。その壁を飾るのは、旅を愛するイタリア人アーティスト兼作家のイザベラ・デュクロ(Isabella Ducrot)が制作したインスタレーション作品「ビッグ オーラ(Big Aura)」だ。縦糸と横糸の交わりを示すような黒の格子模様の上に、平面的に表現された巨大な23着の衣服がズラリと並ぶ。それは、デュクロが研究対象にしているオスマントルコのスルタン(アラビア語で「権力者」の意)が着ていた装いを想起させるものであり、力の象徴である衣服を抽象的に表しているという。
一方、キウリにとっての「ビッグ オーラ」とは、再現しても決してオリジナルと同じものにはならないオートクチュールの世界において、それぞれの衣服が有するもの。芸術作品の独自性と真正性を反映するものと定義される「オーラ」をたどるため、彼女はファッションの本質と究極の卓越性を体現するメゾンのオートクチュールの伝統に目を向けた。
カギは独特な質感のモアレ生地と彫刻的なシルエット
コレクションの出発点となったのは、1952-53年秋冬にムッシュ・ディオールが発表した“ラ シガール”ドレス。その特徴である表面加工によって波打つようなテクスチャーで仕上げたモアレ生地と、複雑なカッティングで作り上げる体に沿いつつヒップを強調した彫刻的なシルエットを、いかに現代女性にとって着やすい形で表現するかに取り組んだ。「ディオール氏のアイデアをよりウエアラブルな方法で強調したかった。というのも、ディオール氏が手掛けたものは素晴らしいけれど、現代においてはとても着心地の悪いものだから。それはメゾンの遺産を異なる視点で探求することであり、そうすることでその遺産が今日も存在し得るものになる」とキウリは話す。
黒やブロンズ、クリーム、紺、赤などで彩られた独特の表情を持つ生地は、“バー”ジャケットにプリーツスカートを合わせたスーツルックやワイドなテーラードパンツから、ケープのような大きな襟が特徴のコート、ウエストにリボンを配したセミフレアスカート、アシンメトリーに仕上げたドレススタイルまでになり、現代的なムードを醸し出す。それだけでなく、今季はトレンチコートに見られるようなハリのあるコットンも多用。いずれも扱いやすい生地とは言い難く、ドレープやカッティング、タックによって生み出された美しい彫刻的なシルエットは、アトリエの技術力の賜物だ。
そんな生地の質感とシルエットで魅せるルックもさることながら、クチュールならではの手の込んだ装飾も目を引く。例えば、チュールブラウスとモアレ生地のミモレ丈フレアスカートを合わせたイブニングアンサンブルには金属糸やスパンコール、ビーズを使って草花の刺しゅうをあしらい、ベージュのコットンツイルで仕立てたコートにはアンティークゴールドの糸で風景を描写。また、スモッキングとアコーディオンプリーツを駆使したシルククレープのロングドレスは、すっきりとしたラインの上で細やかな手仕事に裏付けられたエレガンスが際立つ。