手編みや家庭用編み機を用いた手仕事によるニット製品を製造する福岡ニットがこのほど、5年ぶりの展示会を開催し、新作と合わせて残糸を使用したビスチェなど、アップサイクルの技術と製品を披露した。創業から69年目を迎える同社は、主だった日本のデザイナーズブランドがこぞってニット製品を発注している、いわばデザイナーにとって “ニットの腹心”のような存在。その職人の技と発想がファッションデザイナーたちのアイデアを刺激してきた。
会場にはあえて穴を開け、その破れを補修したかのようなパンクテイストのセーターや、愛猫モチーフをニット技術のみで描いたセーターなど、アイデアを形にする手仕事の技術がずらりと並ぶ。また、アイデアを生み出した企画担当者5人が顔写真好きで「私とクラフトマンシップ」と題したメッセージを披露した。裏方に徹してきた職人たちが笑顔で声を上げる様が新鮮だ。
一昔前ならファッションブランドの多くはニットに限らず、縫製や加工など服作りの高い技術を持つパートナー企業の存在を知られることを好まなかったが、最近は名前を出すことをいとわないデザイナーも増えている。そんな機運も作り手の顔と声を届ける今回のアクションにつながったようだ。同社の児玉ひかり企画担当は、デザイナーと企画、職人とが「お互いにコミュニケーションを取りながら愛のあるものづくり、クオリティを一緒に高めてゆきたい」と話している。
アップサイクル製品は、綿のフェイスマスクの残布を使ったクロシェ編みのビスチェや、筑紫和紙を家庭用編み機で編んだサマーセーターなどを披露した。「自分たちが送り出す製品は長く着てもらいものばかりで“サステナビリティ”を打ち出すことが本質なのかは迷ったが、問い合わせが多いのも事実。ならばまずはチャレンジしてみようと思った。結果、お客さんから評判が良く新境地が開けた」と話すのは、IT系企業から最近同社へ転職した松田ひかり取締役。「価格も品質も2極化が顕著な今、弊社のような上質で丁寧、こだわった製品のビジネスはコロナ前を上回り堅調。この強みを活かしてゆきたい」という。