茨城県水戸市にある水戸芸術館は2月17日から、世界的なテキスタイルデザイナー須藤玲子「NUNO」代表兼ディレクターの大規模個展「須藤玲子:NUNOの布づくり」を開催する。同展は、2019年に香港のアートセンターCHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)で企画・開催され、その後はイギリス、スイスを経て、昨年は香川県の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)を巡回していた。
CHATで最初の「NUNO」展を企画した高橋瑞木CHAT館長兼チーフキュレーターは水戸芸で2016年まで主任学芸員を務めた人物で、いわば水戸芸での開催はいわば「里帰り」。水戸芸時代に「Beuys in Japan:ボイスがいた8日間」(2009)や「拡張するファッション」(2013)など話題になった数々の企画展を手掛けた高橋CHAT館長だが「私にとっては初めてのテキスタイルの展覧会で、現代アートと比べて相当難易度が高かった。CHATは紡績工場跡地を再開発したヘリテージミュージアム。3年間の準備期間にリサーチを重ねる中、アジアで最もパワフルで、かつテキスタイル分野のクリエイターを取り上げたいという考えに行き着いた。そう考えたときに圧倒的な存在感を放っていたのが須藤さんだった」と振り返る。
須藤ディレクター率いるテキスタイルデザインスタジオ「NUNO」は、日本全国の多彩な繊維産地の工場とともに技術や製法そのものも一緒にデザイン・開発し、工芸やハイテクを自在に組み合わせたコンテンポラリーなテキスタイルは世界で高い評価を獲得。マンダリンオリエンタル東京の内装ファブリックを手掛けているほか、作品はニューヨーク近代美術館(MoMA)やメトロポリタン美術館、イギリスのヴィクトリア&アルバート美術館などのパーマネントコレクションとして収蔵されている。
高橋CHAT館長が企画した「須藤玲子:NUNOの布づくり」展の最大の特徴は、過去の「NUNO」のテキスタイルを、その製造プロセスや産地とのつながりそのものにフォーカスし、それを展示したこと。「有史以来の長い歴史を持つテキスタイルは、誰にでも身近なのに製法や歴史は実に複雑で、難易度が高く、実際の展示方法をどうするかで2年くらい悩んでいた。2018年に国立新美術館で須藤さんとライゾマティクス(現パノラマティクス)の齋藤精一さんが組み、300体の『こいのぼり』を泳がせた『こいのぼりなう!』展で、奥のギャラリーの小さな画面でライゾマが撮影したテキスタイルの製造現場の映像を見たときに、これだとひらめいた」と明かす。
「こいのぼり」は、妹島和世・西沢立衛率いるSANAAが手掛けたパリ北部のルーブル別館「ルーブル・ランス」など、数々の世界的な美術館で展示デザイナーを務めるアドリアン・ガルデールが開発した「NUNO」の展示手法で、ライゾマは国立新美術館のギャラリーの天井を水面に見立てた布膜を動かし話題を呼んだ。
須藤ディレクターは、「テキスタイルは、私や『NUNO』のスタッフだけでなく、全国の繊維産地の工場や職人たちとの協働作業から生まれている。そうした部分をぜひ見てほしい」という。
■須藤玲子:NUNO の布づくり
日程:2月17日〜5月6日
時間:10:00〜18:00
休館日:月曜日
場所:水戸芸術館現代美術ギャラリー&広場
住所:〒310-0063 茨城県水戸市五軒町1-6-8
入場料:一般 900円/高校生以下/70歳以上 無料