ニューヨーク・ファッション・ウイークのラストを飾ったのは「トム ブラウン(THOM BROWNE)」。トリにふさわしい壮大なファンタジーショーを披露した。
トム・ブラウンが2024-25年秋冬コレクションのテーマに選んだのは、エドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe)の代表作の一つである物語詩「大鴉(The Raven)」。会場は2023-24年秋冬コレクションでも使用したハドソンヤードの文化複合施設「ザ・シェッド」だ。会場内は寒々しい雪に覆われ、中央には一本の木にふんした巨大なモデルが立つ。
ダークなファンタジーで魅せるトムらしい服作り
ツイード仕立てのオフショルダーのパフィーなテイルコートを着たカラス役のモデルが現れると、中央のツリー役のモデルのコートの裾から4人の子どもたちが登場。カラス役のモデルの後を追っていくという劇風の演出で幕を開けた。女優のキャリー・クーン(Carrie Coon)が「大鴉」を朗読するなか、ストーリーに沿って白と黒を基調にしたコレクションをまとったモデルがランウエイを闊歩する。彼女の力強い朗読は主人公の学生が悲嘆に暮れる心情を投影し、会場はただならぬ雰囲気に包まれた。
ストーリー性の強いコレクションを、手の込んだクリエイションがさらに盛り上げる。カラスをモチーフにしながら、ブラウンが得意とするテーラリングを解体し、再構築していくアプローチだ。ピーコートとプリーツスカートを合体したアウターはスカート部分を解体し、歩くたびにベルトがヒラヒラと揺れる。ツイードジャケットを解体してオフショルダーにしたスポーツアウターには、砂時計型のドレスを合わせた。スタイリングも複雑だ。カラーツイードのジャケットは黒い塗料で塗りつぶし、両袖にはブランドのアイコンであるトリコロールカラーのリボンを編み込んだ。バッグには「NEVERMORE….」の文字。ブラックのカマーバンドを付けたタキシード風のスタイリングのモデルが羽織るシルクカシミアのカーディガンは、途中でほつれ、長い三つ編みのような装飾が垂れ下がる。カラスやバラのモチーフはコートやドレス、ストッキングにまで繰り返し登場した。1つ1つのアイテムだけに着目すると意外と着やすいものが多いことに気付く。雪の上を歩く演出にマッチするように、モデルたちのシューズやバッグは取り外し可能なPVCで覆った。
鬼気迫る叫びが響くフィナーレ
カラスを刺しゅうしたゴールドのコクーンコートをまとったモデルが現れ、子供たちが4人がかりでそのコートを脱がせていく。中からゴールドのインターシャニットが現れ、コートはコルセット風のバルーンスカートに変化した。モデルがスカートを揺らしながらランウエイを歩くと、ショーはクライマックスに近づいていく。フィナーレはクーンが鬼気迫る叫びにも似た声で「NEVERMORE….」を連呼した。会場のボルテージも最高潮に達し、カラス役のモデルが苦悩に打ちひしがれたようにランウエイを後にし会場は暗闇に包まれた。
明転したステージに大きなハートを持ったトム・ブラウンが現れた。一年前もそうだったように、バレンタインデーのこの日はフィナーレでパートナーのアンドリュー・ボルトン(Andrew Bolton)に愛と感謝を伝えてショーは幕を閉じた。