「JW アンダーソン(JW ANDERSON)」の2024-25年秋冬コレクションは、ありきたりな“ロンドンらしさ”の価値を再認識し、感謝するようなコレクションだ。
会場は、ロンドン市内の体育館。ごくごくありふれた体育館にはショーが始まるまで、バスケットボールの部活動の最中に録音したような、ドリブルやピポット音が響いていた。
ランウエイに現れたのは、まるで数十年ほど昔にタイムスリップしてしまったかのような、“おばあちゃんっぽい”スタイルの誇張だ。ファーストルックは、極太の毛糸を編んで作ったかのようなニットの上下。その後に続くのは、ハイゲージのニットで作った肌着のような半袖ニットとブルマーのセットアップ。何人かのモデルは、ここに真っ赤なリップを引いて、カーリーなグレイヘアのカツラを被っている。巨大なハーフブレストのジャケットは、着古したイングリッシュ・ツイードを思わせる生地感。懐古主義と言えば聞こえは良いが、1970年代のハイファッションではなく、町のオシャレな女の子でもなく、どこにでもいそうなフツーの女の子にオマージュを捧げたようなコレクションだ。ジョナサンは、「少し(現代のセンスとは)ズレている何かを作りたかった」と話す。イメージは、「どこにでもいそうな、フツーの隣の家の女の子。少し“おせっかい”で、マークス&スペンサー(イギリス国内にありふれた衣服や雑貨、家電などを販売する大衆店)でブラウスを買うような女の子。(ハロッズでもセルフリッジでもない)ジョン・ルイス(イギリスの中流階級向けの百貨店)で買うようなドレスを思い浮かべた」と話す。
ノスタルジックで、ごくごくありふれた日常に興味を持ったのは、SNSから溢れ出る色と柄、そして人々が起こすバズから距離を置きたかったから。「音楽や映像の世界も同じ。何もかもが素早く消費されてしまう。そして洋服は店頭に並ぶ前に人々の興味や関心の対象から外れてしまい、映画だって公開前に散々しゃぶり尽くされてしまう」とジョナサンは米「WWD」に語ったという。だからこそ、SNSが生まれるはるか昔のファッションに思いを馳せ、人々が決して大騒ぎすることのないフツーに価値を置いた。ジョナサンは、「実際着てみると、少し変だと思う。ダサいかもしれない。でも、それが(クールなものが溢れすぎてしまった今)新しくて、若々しい。今の世の中に対する、ちょっとした反逆になり得ると思う」と続ける。
実際、厚手の布地を使ったオーバーサイズのポロシャツに、ヘリンボーンのジャンパースカートを合わせたスタイルは、確かに可愛らしくて若々しい。こうしたスタイルの価値を訴えるべく、まるでチャンピオンベルトのように燦然と輝くリボンベルトをウエストに飾った。ウエストマークは、トレンチコートを真っ二つに解体して上半分だけを纏ったようなプルオーバーや、シフォンを使ったドレス、グレーなど地味な色合いのニットなどにも多様。Vネックニットを胸元で摘んでドレープを生み出したようなスタイルは、先にメンズと共に発表した24年プレ・フォール・コレクションにも通じるアイデアだ。
ジョナサンはコロナの前から、自身のアイデアが枯渇しないように、小出しにして、使い捨てず、発展させながら何度も使っている。スタンスのみならず、今回はクリエイションそのものまで。ジョナサンは新しいものばかりを追い求め、あっという間に消費して、次なる未知を探し続けるリニア型の消費に一石を投じ続けている。