人の生活周期
(サーカディアンリズム)に合わせて
テクノロジーを着替えるという
新しい価値を提案する
「アドエルム」は、さまざまな元素を持つ鉱石を複数調合したミネラルパウダーを繊維などの素材に加工し、その素材が皮膚に刺激を与えたときの反応を利用して、身体能力や休息の効率を高めることを狙い開発された。
「アドエルム」は、従来の吸水速乾や抗菌防臭など、生地の評価試験によって定められた機能素材のことを「1 G(1st Generation)」と定義。そして、生地としての評価試験だけではなく、人体生理学を基盤に人体への作用を考慮しながら素材開発を行い、その影響を評価したものを次世代の機能性素材「2 G(2nd Generati on)」と定義する。「2G」である「アドエルム」は、人体生理学、脳科学、心理学に基づいて研究開発を重ね、身体のメカニズムやパフォーマンス向上、コンディションを整えるといった目的に合わせて、身体に生理反応を起こさせるよう働きかける鉱石の調合パターンを、検証に検証を重ねて導き出した。
「ISPO」で評価された
“ヒーロースーツ”
「アドエルム」は現在、睡眠をサポートする「add. 00」、リラックスを追求する「add. 01」、日常をアクティブにする「add. 02」、アスリートを対象にした「add.03」の4つを展開。毎日をより快適に過ごすための新しい洋服選びを提案している。
世界最大級のスポーツ展示会「ISPO」でも評価されている。2020年に世界TOP 10の素材に選出されて以降、飛ぶ鳥を落とす勢いでさまざまな賞を受賞。アスリート向けの「add. 03」で作った代表アイテム“ヒーロースーツ”は、機能、デザイン、コンセプトが評価され、「ベストプロダクト」を受賞。アクティブな動きにも対応できるようにストレッチ素材で開発したメイドインジャパンのデニムはストリートスポーツ部門で「セレクション」を受賞した。
「『アドエルム』はアパレル業界の
“インテル”を目指す」
──「アドエルム」の開発の経緯は?
杉本健 アドエルム テクノロジー会長、アドエルム USA社長(以下、杉本):学生時代に野球に取り組み、グラフィティーアートや、スケートボードなどの経験からスポーツウエアに関心を持つようになり、20歳から34歳まで、スポーツ、カジュアルウエアのデザイナーとして活動していた。当時は年間で700型ほどをデザインしており、かなり忙しかった。ある日、ロゴが付いていない状態のジャージーのサンプルが上がってきたときに、一瞬、スポーツウエアなのかカジュアルウエアなのかが分からなかった。素材は同じポリエステルで、形は同じデザイナー(自分)が描いているので似ている。よりアスリート用、よりカジュアル用に作っているとはいえ、パッと見では分からない。そのときに「スポーツウエアってなんだろう?」と疑問が湧き、このスポーツウエアは本質的にアスリートのサポートができているのだろうか?ということをすごく感じた。自分はアメコミが好きで、アメコミには着るだけで元気になったりパワーアップしたり、ヒーローの特性に合わせた“ヒーロースーツ”がたくさん登場する。元々は、“ヒーロースーツ”を作るようなデザイナーになりたいという思いがあったはずなのに、現実とはずいぶんギャップがあるなと感じてしまった。いわゆる生地の良いスポーツウエアの特徴は、吸水速乾や抗菌防臭などがあるが、それがだんだんとカジュアルに応用されていくので、生地から作ると全て一緒になってしまう。それであれば、原料から作ってみたい。そんなときに、人生で生まれて初めて自分の信じている力以上のものが働いたことがあり、何が要因なのかと調べたら、鉱石だった。放射線を含んだ石で細胞核を刺激することで、身体を元気にするものという。そのときのそれが良かったかどうかというよりは、それがきっかけで鉱石に興味を持ち、生活やシーンにどう適合できるかを整理して、適合したものを作ろうと考えたのが開発のきっかけだ。
──「アドエルム」では評価基準をどのように設けているのか?
杉本:皮膚は痛点、温点、冷点、圧点の4つの感覚器を備えている。例えば、寒さを感じると毛穴を閉じ、暑さを感じると毛穴を開いて発汗し、体温を調節する。考えれば考えるほど、皮膚に興味が湧いていった。従来、人はそんなマルチファンクショナルウエア(皮膚)を身に着けているのに、これまでの機能性ウエアの考え方では、その機能を生かせない。それで、身体の持っている機能にフォーカスし、うまく利用できる素材、あるいは機能を拡張する素材のための糸を開発する考えに至った。「アドエルム」は自分自身がパウダーの調合、元素の調合から、全てに関わっており、人間の身体で人体生理試験を行ったデータを評価値としている。スポーツウエアをデザインしていたときに、パフォーマンスアップの商材はたくさんあるのに、パフォーマンスに対しての基準値は確立していなかった。例えば、100m走でも午前と午後でタイムが変わる。その0.3秒変わることがすごく大きい世界なのに基準がない。だから、もっと科学的にできないかを考え、人体生理学に着目した。そして、物性評価に基づく従来型の機能素材を「1G(1st Generation)」とし、「アドエルム」のように人の身体にフォーカスして開発した素材を「2G(2ndGeneration)」と定義付けた。とはいえ、物性の評価基準はあっても、素材が人体のパフォーマンスやコンディションにどのような影響を与えたのかを評価する基準は存在しない。だから、自分たちが評価するための指数「アクティブ・インデックス」を設けた。これが「2G」の評価基準。消費者が目的や体調に合わせて商品を選びやすく、比較購買しやすいことが基準を設けた最大の理由だ。開発者や販売者にとっても基準があることで開発や接客がしやすくなると考えている。これまでに、検査機関と延べ100 人以上の被験者の協力を得て、「アドエルム」製品の着用試験を実施し、筋電図や脳波、心拍、呼気代謝といったデータを取得してきた。取得データをグラフで可視化し、「アクティブ・インデックス」を示している。
テクノロジーを生かした
プライベートブランドも展開
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── 今後の展望は?
杉本:「アドエルム」はテクノロジー会社であるからこそ、自社PB(プライベートブランド)も必要になってくると考えている。現在、その地域でしかできないことを表現した「アドエルム トウキョウ」、コラボレーションを積極的に行うストリートウエアなどのアパレルライン、アスリート向けのスポーツライン「ヒーロースーツコレクション」、バスケットボールや野球などのライセンシーブランドの4つを軸にしている。24時間、生活の時間軸になるようなライフハックウエアを作り、それを広げながら他企業にたくさん提供できるプラットフォームになっていきたい。昨年はアメリカに子会社であるアドエルム USAを立ち上げた。今年は、海外でもライセンシーが立ち上がる。世界中のアパレルブランドに「アドエルム」のテクノロジーを使ってもらい、アドオンすることによって機能を高めていきたい。「アドエルム」はアパレル業界の“インテル”を目指す。
TEXT:YUKI KOIKE