コロナ禍からのオフィス回帰が進む中でも、ビジネススタイルのカジュアル化は止まらない。紳士服量販店もスーツを売っているだけでは生き残れない。青山商事、AOKIの大手2社はカジュアルウエアやウィメンズカテゴリーなどのフロンティアを開拓し、ビジネススーツに偏重した収益構造の転換を急ぐ。 (この記事は「WWDJAPAN」2024年2月19日号からの抜粋です)
スーツ店だから作れる上質カジュアル
価格は普及品の1.5倍以上
青山商事の「スーツスクエア」はこのほど、同業態内で展開するユニセックスの新ブランド「グービ」をスタートした。国産素材にこだわり、価格帯は主力ブランド「ザ・スーツ カンパニー」の商品と比較するとおしなべて1.5倍以上。価格、品質、着用シーンなどにおいて、スーツ量販店の既成概念から脱却しようという気概がうかがえる。元ビームスバイヤーの高田朋佳氏をディレクターに据え、ビジネスの枠を超えたドレッシーな日常着を提案する。ECで先行販売し、16日から全国12店舗とオーダーメード業態「ユニバーサルランゲージ メジャーズ」2店舗で取り扱いを始めた。
このほど都内で発表会が行われた。価格帯はジャケット3万2890円〜、パンツ1万4190円、ブルゾン4万3890円〜、カーディガン1万9690円、半袖ポロシャツ1万5290円、半袖セーター1万4190円。高田氏のビームス時代のつながりや知見を駆使し、全国の産地から良質な素材を選んだ。最も高価格なウールモヘアシャンブレーのセットアップ(ジャケット6万5890円、パンツ3万2890円)は上下合わせて10万円近い。総毛芯、手縫いのボタン穴、二重のAMFステッチなど高級オーダースーツに見られるような仕様を取り入れた。丸みのある肩線や軽く柔らかな仕立ては、「ネクタイなしの力の抜けた着こなしを前提にしている」(高田氏)ため。インナーには和紙とポリエステル素材を使ったモックネックニット(1万4190円)、足元にはスニーカーを合わせてコーディネートした。
そのほかにも、高密度なレーヨンギャバジンのジップアップブルゾンや備後デニムのトラウザーなど、きれいめにカジュアルダウンできるアイテムをMDに組み込む。「商品テイストをなるべく“無国籍”にすることを心掛けた」と高田氏。ビームス時代の経験から、「イタリアンクラシコやアメリカントラッドなど、スーツスタイルにおけるセオリーがファッションを難しくしてしまう面もあると考えている。なるべく何も考えず、好きなアイテムを組み合わせるだけでおしゃれになるようにデザインした」。各商品3サイズ展開で、男女問わず着られる。
MDの幅を広げ、来店頻度を増やす
「スーツスクエア」 は昨年4月に業態名を「ザ・スーツ カンパニー」から現名称に変更・統一し、“スーツ量販店”のイメージを払拭すべくリブランディングを進めている。優良立地に絞って店舗を集約・大型化し、比較的値ごろな「ザ・スーツカンパニー」、それよりワンランク上の品質で提供する「ユニバーサルランゲージ」、オーダーブランドの「ユニバーサルランゲージ・メジャーズ」、ウィメンズオフィスカジュアルの「ホワイト ザ・スーツカンパニー」を集積。客の求める用途やニーズに応じて選択肢を増やしてきた。ここにドレッシーな日常着の「グービ」を加え、ビジネススーツ以外にMDの幅が広がれば、客層を広げ、店の利用頻度を増やせるという算段だ。
青山商事は26年末までに「スーツスクエア」業態を30店体制とする計画。郊外ロードサイドに店舗網を敷く主力業態「洋服の青山」が苦戦する中、「スーツスクエア」で都心部に攻勢をかけ、新たな成長のドライブにする。「われわれの強みであるビジネスやドレスのノウハウを生かしながら、提案の可能性を広げていけばチャンスはあるはずだ」と河野克彦・青山商事 執行役員TSC事業本部長は話す。
青山商事はこれまでにも、高田氏の古巣であるビームスとの協業事例がある。2016年にスタートした、ビームス デザインが企画・監修し「洋服の青山」で販売するスーツレーベル「モアレス」だ。洗練されたシルエットや多彩な柄のバリエーションの展開に力を入れてきたが、あくまでビジネスシーンを想定した提案に特化する。「グービ」は、その枠組みを超えることを目指す。「スーツスクエア」は今回のリブランディングに際し、新たなブランドステートメントを掲げたが、そこには「もしかしたら、スーツを売らない場所になるかもしれない」とある。「グービ」はまさにそのような挑戦の第一歩になる。
とはいえ、既存顧客にとって「グービ」の価格帯は敷居が高い。ドレッシーなテイストかつ値ごろなアイテムであればセレクトショップのオリジナル商品で事足りる。「青山商事の生産背景を活用することで、業界ではありえない値付けができた」(高田氏)というクオリティー、値ごろ感をいかに店の外へ発信していくかが鍵になる。今後は「グービ」単独でのポップアップストア展開や他社ブランドとのコラボなどを視野に入れる。
“パジャマスーツ”が大ヒット
AOKIの次なる一手は?
スーツ量販で青山商事と双璧をなすAOKIも、スーツに偏重した収益構造からの転換を目指している。ビジネス:カジュアル:ウィメンズの売り上げ比率を、現状の7:1:2から2028年3月期に5:2:3に、33年3月期には4:3:3にする。
カジュアルとウィメンズで売り上げの6割を稼ぐ構造を作り、男性用ビジネススーツ頼みの体質を改善する。その足掛かりとなった商品が、20年10年に発売し、累計46万着を販売した“パジャマスーツ”(ジャケット8789円パンツ6589円)。コロナ禍でリモートワークに切り替わったビジネスマンの「家では心地よく過ごしたいけれど、ビデオ会議ではしっかりとした印象を与えたい」というニーズを形にした。紳士服メーカーならではの体型をきれいに見せるパターンメイクとストレッチ生地による楽な着心地で、カーディガンとジャケットの間の子のような塩梅がツボを押さえた。23年秋冬には出社シーンも意識したややドレッシーな仕立ての“プレミアムライン”を、今年2月には、体から発する遠赤外線エネルギーを吸収・輻射することで疲労回復効果などが期待できる特殊な生地を使用した“パジャマスーツ リカバリー”を発売した。
後に続くヒット商品も
ビジネスに軸足を置き、着用シーンや用途の幅を広げる発想の商品開発は、後に続くヒット商品を生んでいる。22年10月に発売し、累計販売本数15万本突破した“らくQパンツ”(5489円)も好例だ。裾を内側に折り返すとフォーマルなシングル仕上げのスラックスのように見え、外側に折り返すとダブル仕上げのカジュアルな雰囲気を出せる。アクティブなシーンも想定したストレッチ生地で、ウエストはシャーリング仕様。「自転車通勤はもちろん、ウオーキングやゴルフなどアクティブなシーンにも対応できる」(同社)。2月にはカラバリを10色に広げた。
ウィメンズカテゴリー強化の一環として、昨年12月には女性誌「オッジ」(小学館)とのコラボ商品を発売した。キャリア女性が多い読者の声を集め、「きれいめでちょいカジ(カジュアル)」のバランスに仕上げたセットアップ(ジャケット2万900円、パンツ1万2100円)など全49アイテムを企画。誌面では連動企画として着回しコーディネートを紹介した。また、「#ジャケジョ研究所」と題したオウンドメディアをスタートし、ジャケット選びに関する悩みや着方のコツを提供。今後は他のメディアや企業との協業も視野に、「女性がジャケットを着る機運を醸成していきたい」とする。
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