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【パリコレおさらい】「ミュウミュウ」「アンダーカバー」が圧勝の2024年春夏 超辛口な海外ジャーナリストたちの評価

2024-25年秋冬シーズンのパリ・ファッション・ウイークが2月26日に開幕する。24年春夏シーズンのランウエイを振り返ると、平凡で見慣れた、ありふれたもので溢れていたように思う。決して古典主義に傾倒した過去の焼き増しというわけではなく、哲学の分野で言われる新実存主義的なアイデアに近い。物質そのものに概念が依拠するのではなく、人間の心が多様な存在を生み出し、認識によって物質の概念は変容するという考えだ。つまり、新しい視点で捉え直して前進させた、古典的なウエアでコレクションを構成していたということ。土台は定番アイテムであっても、シルエットやプロポーションの変化、少しのひねりを加えたアレンジ、そして意外性のあるスタイリングで新鮮さをもたらした。

それらは、世界を再構築するため、より良い未来を切り拓いていくためには、ありふれた日常に異なる視点を向けるべきではないか、というデザイナーからの問いかけのようだった。同時に、大それた変革やリスクを伴う挑戦よりも、なじみのあるアイテムの安定感を求めているようにも感じられた。先行き不透明な混沌とした時代の、社会の奥底に沈んだ切なる欲求が顕著に現れているのかもしれない。

海外ジャーナリストのレポートに目を通すと、同じように総括した内容が多かった。同時に、今季の一つの特徴として興味深いのは、酷評を受けたコレクションがほぼ皆無だったこと。そして際立って称賛されていたコレクションも、「ミュウミュウ(MIU MIU)」と「アンダーカバー(UNDERCOVER)」の2ブランドのみという、例年よりも偏った結果となった。これまで辛辣な批評の対象であった「ジバンシィ(GIVENCHY)」や「クロエ(CHLOE)」も、クリエイティブ・ディレクターの最後のシーズンとあってか、彼らの功績を讃える内容に終始した。各記事の公開時点では、「ジバンシィ」のマシュー・M・ウィリアムズ(Matthew M Williams)の退任は知らされていなかったにも関わらず。そして、有終の美を飾った「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」のサラ・バートン(Sarah Burton)に心を揺さぶられた海外ジャーナリストが、それぞれに感傷的なレポートを綴っていた。24-25年秋冬シーズンの開幕に向けて、コレクション考察に新たな視点を与えてくれそうな、24年春夏シーズンの海外ジャーリストの講評を振り返る。

「アンダーカバー」
騒動さえ美しく完結させるストーリー

ファッション・ウイーク後の、日本と海外のファッション業界人との井戸端会議的なカジュアルな場でも、「アンダーカバー」を今季のベストコレクションに挙げる人が多かった。海外メディアに目を通しても、同ブランドのコレクションに異論を唱えたのは、米国の動物愛護団体PETA(People for the Ethical Treatment of Animals)だけだ。後に、テラリウムのスカート内部に生きた蝶を使用した演出に対する抗議を受けて、高橋盾デザイナーはPETAに謝罪文を送った。今後は生きた動物を二度と使わないことを宣誓したが、やはり今振り返っても、ショー後に公園に放たれたこの蝶がいなければ、神秘性に満ちたショーの雰囲気が完成しなかったと思うのは、私だけではないはずだ。

辛口エールを送ることが多い「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」のヴァネッサ・フリードマン(Vanessa Friedman)は、「過剰すぎるほどの感情を喚起する瞬間を生み出すことに長けたデザイナー」だと述べたうえで、最も素晴らしいコレクションとして「アンダーカバー」を称賛した。「『世界の閉塞感を感じていますが、自分自身を解放したいと思っています』と高橋デザイナーは通訳を通して語った。私が彼に少しでも安心させてあげられるとしたら、人生はテラリウムの中の蝶のように儚いかもしれないが、高橋デザイナーのような芸術家が季節ごとに私たちに与えてくれる美しさには永続性がある、と言いたい。私たちはそれがどれほど幸運であるかを認識していないだけだ」。

テラリウムの演出に感銘を受けたのは、「ヴォーグ・ランウエイ(VOGUE RUNWAY)」のニコール・フェルプス(Nicole Phelps)も同じ。「高橋デザイナーはファッション界で最も独創的なデザイナーの一人。テラリウムのドレスは新たなレベルの創意工夫であり、技術的な偉業であると同時に、感情的に共鳴するものでもあった」と説明した。また、米「WWD」のマイルズ・ソーシャ(Miles Socha)も、「コレクションは物語性と芸術性に溢れていると同時に、魅力的で、暗くロマンチックで、エッジの効いたものだと感じた」と称えた。ベテランジャーナリスト、ティム・ブランクス(TIm Blanks)は、「最悪の時代こそ、最も興味深い芸術を生み出すことがよくある」と前置きし、「メランコリニックな世界に存在する最も刺激的なショー」と「ビジネス・オブ・ファッション(Business of Fashion)」に綴った。

奇しくも、PETAからの抗議は、「アンダーカバー」の存在感の大きさを示すものとなった。また、高橋デザイナーは同団体に送った謝罪文の中で、20年前の祖母の葬儀の後、自分のそばに白い蝶が現れたことがいかに喜びをもたらし、祖母を近しく感じて安らいだ気持ちになったかというパーソナルな経験を説明した。最後は、「私たちはより良い行動を学びたいので、遠慮なくこのトピックについてもっと教えてください。そして、蝶がまた私の側に来てくれることを祈っています」と締めくくった。定例文ではない心のこもった謝罪文で過ちを認め、騒動でさえも後味良く収束させた。

「ミュウミュウ」
“偉大なデザイナー”勢い止まらず

昨今の「ミュウミュウ」の影響力の大きさは、ここで説明する必要ないほど周知の事実だ。ラフ・シモンズ(Raf Simons)が「プラダ(PRADA)」の共同クリエイティブ・ディレクターに就任して以降、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)は「ミュウミュウ」のクリエイションに多くの時間を費やせるようになったのだろうと、勝手に想像を膨らませてしまう。

24年春夏のもパリコレ最後に行われた「ミュウミュウ」のショーに対し、多くの海外ジャーナリストが興奮冷めやぬまま筆を進めているのが記事から伝わってきた。特に高く評価されている理由は、現代を生きる女性の内なる情熱と切望を、見事に具現化している点にある。「ヴォーグ・ランウエイ」のサラ・モーア(Sarah Mower)は、「混乱と感情を伴うシーズンの幕を下ろし、女性による、女性のための、これほど一貫性があって共感も呼び、自信をもたらすショーを提供するには、偉大なデザイナーのミウッチャが必要だった」と綴った。

「アナザー・マガジン(AnOther Magazine)」に寄稿するジャーナリスト、アレキサンダー・フューリー(Alexander Fury)は、「私たちが何を感じ、どこへ向かっているのか、来シーズンに何を望んでいるのかについて決定づけるのに、彼女ほど適任な人物はいない」と述べ、24年春夏シーズンをこう振り返る。「今季を総括するなら、女性の解放と優位性を主張し、歴史を再文脈化し、暗い時代への解毒剤として楽観主義を提案したという事実だろうか。しかし、『ミュウミュウ』では当たり障りのない商業性と創造性の戦いはほとんどなく、衣服はにわかに全ての要件を巧みに満たしていた」と評価した。

ブランクスも、「『私は単純化ではなく、複雑さを受け入れたいのです』とミウッチャは説明した。彼女が感じていることは、まさに時代の精神だ。社会的、環境的、経済的混乱の真っただ中でファッションは安全性を求めている中、彼女は反抗することに喜びを見出した」と、“クワイエット・ラグジュアリー”の潮流から外れた、同ブランドの独自性を称えた。フリードマンも「次にあなたが何を着るか知りたいなら、『ミュウミュウ』を見ればいい」と記した。同ブランドが他のデザイナーにもインスピレーションを与え、そのアイデアがファッション界全体で広がっていることを説明した。

「ミュウミュウ」は、乱れた髪に曇った眼鏡、ボトムスを履き忘れたかのような下半身に、荷物を詰め込みすぎて形を崩したバッグ――その不完全さを、“美しい”とする多様性と、その奥にある個のアイデンティティーを包括している。“全てが完璧じゃなくていい”と抱擁してくれるような感覚は、SNS上で“完璧”なメイクアップとファッションに身を包み、“完璧”な生活を送っている他者と自分を比較してしまう、今の時代に必要とされているのだろう。

「i-D」マガジンのオスマン・アーメド(Osman Ahmed)=ファッション・フィーチャー・ディレクターは、「バービー人形がフェミニストのアイコンとして歓迎され、メイクアップチュートリアルに1時間以上かかる現代において、インフルエンサーのように完璧に見えることは退屈で、セクシーではないということを思い出させるものであり、女性が聞く必要があるメッセージ」と述べた。さらに、「ランダムな寄せ集めになりかねない無作為を受け入れて、現実的であると同時に、熱狂的に何とか調和を取り、“エレガントに取り乱したスタイル”にまとめることができるのは、ミウッチャだけだ。それよりも重要なのは、幸運なアクシデントや不完全さこそが真の美しさとスタイルを構成するという、彼女が雄弁に伝えるメッセージである。1カ月のファッション・ウイークを締めくくるのに、これ以上の高揚感があるだろうか?」と続けた。「ミュウミュウ」は時の流れとともに変わり続ける“美の概念”を、異なる視点で示す。熱狂が熱狂を呼び続けており、その勢いはまだまだ止まることはなさそうだ。

「ジバンシィ」
逆境に立ち向かった男、有終を飾る

2023年12月に、マシュー・M・ウィリアムズが「ジバンシィ」のクリエイティブ・ディレクターを退任すると発表された。12月に披露したメンズとウィメンズの24年プレフォール・コレクションがウィリアムズによる最後のコレクションとなった。最初の2年は酷評を受けたが、最近ではクリエイションもビジネス面も上向いていただけに、退任を惜しむ声も少なくなかった。

以前の講評では「見るに耐えない」とまで言い放った「ファッション・ネットワーク(Fashion Network)」の批評家ゴドフリー・ディーニー(Godfrey Deeny)は、「マシューが『ジバンシィ』のために制作した最高のコレクションであることに間違いない」と称え、「瀕死状態だったブランドがマシューのおかげで息を吹き返し、再び上昇気流に乗りつつある」と続けた。仏メディアはアメリカ人デザイナーである彼に対し特に辛らつだった印象だが、フランスの新聞「ル・フィガロ(Le Figaro)」のエレーヌ・ギヨーム(Helene Guillaume)も称賛を送った。「LVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン、LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)グループの年末評価に“重圧の下での仕事”という項目があるなら、マシューは栄誉ある賞を受賞するに違いない。3年前に『ジバンシィ』でデビューして以来、37歳のアメリカ人は否定的な評価や、彼の退社に関する噂を面白がる傍観者がいる、困難な環境の中を歩み続けてきた。それでも数シーズンにわたって、彼はメゾンにぴったりのトーンを見つけた」と記した。後任は発表されていないが、いい形で次にバトンをつなぐラストコレクションだった。

「クロエ」
後世に残る偉大な足跡

未来へとつなげるという功績においては、「クロエ」のクリエイティブ・ディレクターを24年春夏シーズンをもって退任すると発表していたガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)も称賛に値するだろう。ハーストが「クロエ」に加わった当時、環境保全と社会貢献を担うサステナビリティチームは1人だったが、今では12人にまでチームが拡大。持続可能な生産に熱心に取り組んだ功績は、ラグジュアリーメゾンとしては初のBコープ認証を取得するというかたちで今後も残っていく。最後のコレクションでは、環境負荷の低い素材を全体の60%に使用した。

多くのメディア同様に、米「WWD」もハーストの偉業を評価した。「ハーストの時代に『クロエ』は、素材に対する透明性を備えた、Bコープ認証を受けたブランドとなった。環境への影響が少ない農法で栽培されたリネンや、世界的なオーガニックテキスタイル基準の認証を取得したシルク、フランスの農場から調達した皮革などだ。さらに、トレーサビリティー(追跡可能性)と再販による循環性の促進を目的とし、23年春夏コレクションから衣類にデジタルIDを組み込み始めた。彼女は、『クロエ』と自身のブランドとのバランスをとりながら、全てを成し遂げた」。新たにクリエイティブ・ディレクター就任したシェミナ・カマリ(Chemena Kamali)による新生「クロエ」は、2月のパリコレで間もなく本格デビューする。

「アレキサンダー・マックイーン」
カリスマの美学を発展させた13年間

24年春夏シーズンで最も感情を喚起したショーは、サラ・バートンによる「アレキサンダー・マックイーン」だと誰もが口をそろえるはずだ。バートンは、1996年に同ブランドのデザインスタジオに入り、2010年2月に創業者リー・アレキサンダー・マックイーン(Lee Alexander McQueen)が40歳でこの世を去った後、同年5月にクリエイティブ・ディレクターに就任した。バートンが一から手掛けた11年春夏シーズンは「アレキサンダー・マックイーン」らしい美学が浸透したスタイルに、フェミニンな要素を加えたコレクションで好評を博し、その後も創業者のシャープなテーラリングと、ダークかつグラマラスな世界観に忠実なコレクションを、13年という長年にわたって提案し続けてきた。11年には英国王室のキャサリン妃のウエディングドレスを手掛け、同年にブリティッシュ・ファッション・アワード (現ザ・ファッション・アワード)でデザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。12年には、ファッション業界への貢献が認められ、チャールズ皇太子(当時・現在は国王)から大英帝国勲章(OBE)が授与された。

ほぼ全てのファッションメディアがリポートを掲載していた中で、創業者の時代から同ブランドを取材し続けている2人の海外ジャーナリストの講評を紹介する。ニューヨーク・タイムズ紙のフリードマンは、「彼女は“マックイーン”の名が単なる遺産ではなく、命を持ち、存続されることを保証した」と綴り、バートンがクリエイティブ・ディレクターに就任した約13年前から現在までの軌跡を辿る。「悲劇やトラウマを取り除き、とても優しい光の中へと導いた。緊張感とストーリー性、そして危険なナイフの刃で躍動する衣服をベースに構築されたブランド(ショーに行くまで何が起こるか全く予測不可能なショーを行うことで知られた)に、心を込めた。クリエイティブ・ディレクター就任時は無名だったバートンが行ったのは、まず会社を団結させ、次にデザイナーとして、否定したり忠実に模倣したりするのではなく、美学を継承し、深く理解し、それを自分のものにすることが可能であると証明した。勇気と信念の行動だった。形やパターンだけでなく、精神的にも。(中略)バートンは、リーの武器であったドラマチックなテーラリングを引き継ぎつつ、ブランドにこれまで存在しなかった優雅さと寛大さも与えた。これは非常に大きな変化であり、バートンがクリエイティブ・ディレクターに任命されてからわずか1年後には、ケイト・ミドルトンのウェディングドレスを制作した。これにより、マックイーンの名前はファッションの極みだけでなく、現代の英国を象徴するものとなった。(中略)彼女による最後のショーは、女性の身体性と、あらゆる“強さ”に挑戦する姿勢があり、勝利の祝典だった」と続けた。

フューリーも彼女の功績を称えている。「バートンのクラフトへの愛や、恐ろしく鋭い仕立てのスキル、本質的に男性的なものを女性的なものに変換する能力は、微妙に、しかし確実に、ファッションにさまざまなレベルで影響を与えてきた。彼女の遺産は豊かで奥深いものだ。(中略)自身の妹が家庭内暴力の被害者であるのを認識したリーはかつて、『女性にもっと強くなってほしい』と述べた。したがって、彼にとって女性は戦士であり、衣服は鎧だった。バートンのビジョンはリーに負けず劣らず強く、柔らかさもある。(中略)フィナーレでは、ナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)がリーの凶暴な鎧と、サラの優雅な女性らしさという、2つの遺産を融合させたかのようなコルセットとスカートを着用し、涙を拭いながらさっそうと歩いた。そしてバートンが登場すると、ゲストはすでに立ち上がっていた。真のファッションデザイナーという稀有な存在を擁護するために」と締めくくっている。

「アレキサンダー・マックイーン」は、バートンの後任としてショーン・マクギアー(Sean McGirr)を新クリエイティブ・ディレクターに任命した。この発表を受けてSNS上では、ケリング(Kering)グループが擁するメゾンのクリエイティブ・ディレクターがすべて男性であることに対し、批判が集まった。私には、男女どちらの性別かという二元論で判断していること自体が、本当の意味での多様性・包括性とかけ離れているように思えたが、いずれにせよ、前任の功績が輝かしいだけに新クリエイティブ・ディレクターにはすさまじく高いハードルが待ち構えていそうだ。2月には新ロゴも発表し、創業デザイナーが手掛けた“McQUEEN”のロゴを基にしたデザインを採用。ブランドの新時代を表現しているという。ケリンググループの2024年の評価表に“重圧の下での仕事”の項目があれば、マクギアーが受賞できるほどの素晴らしいコレクションを期待したい。

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