2024-25年秋冬ミラノ・ファッション・ウイークが2月21日に本格的に開幕しました。「WWDJAPAN」では編集長の村上要と記者の木村和花が現地入りし総力レポートします。2日目は昨日までの暖かさから一変して冷え込み、夜にかけては土砂降りの雨に。冷たい雨に体力を削られましたが、ラストの「トム フォード(TOM FORD)」まで駆け抜けました。
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9:30 「マックスマーラ」の服は語らない
村上:本日のトップバッターは、「マックスマーラ(MAX MARA)」。めちゃくちゃ広い会場ながら、日本人に比べると時間にルーズなイタリア人ゲストが多すぎてなかなか始まらず(苦笑)、痺れを切らしたブランド側は強引に音楽をスタートしてファーストルックを送り出すも、それでもゲストはなかなか着席しないので再スタート……。なんてハプニングもありましたが、良きコレクションでしたね。
私も大人になって(オジサンになって)、普段の装いが少し大人っぽくなったせいか、それともクワイエット・ラグジュアリーという時代感のせいなのか、いつにも増して魅力的でした。ネイビー、ブラック、エクリュ、キャメル、ブラウンのコートたちは、いずれも一目でわかる上質さ。時々光沢を放つカシミヤコートが、今回の最高級品と睨みましたがどうでしょうか?ランウエイショーではロング〜マキシ丈のコートが多く、「ショート丈のアウター以外売りづらくなっている日本ではどうかな?」なんて思いましたが、コマーシャルラインではショート丈も豊富に揃うハズ。ずっと着られそうな定番のチェスターやミリタリーコートを、オーバーサイズに仕上げたり、Vゾーンを下に広くすることでリラックスムードを高めたり、若い世代からマチュアな人たちまでの共感を誘います。ドロップショルダーのミラノリブニットも可愛かった。肩口にビジューをあしらったタイプは、いろんなブランドが真似しそうです。でも「マックスマーラ」は、最高の素材じゃない出せない品格に自信があるから、そういうのをあんまり気にしないそうです。かつてルイジ・マラモッティ(Luigi Maramotti)会長は、いろんなブランドが真似した“テディベア”コートについて、そんな自信をのぞかせていました。今回のコレクションに登場したネイビーのコートやニットも、まさにそんな風格を漂わせています。
木村:昨年イアン・グリフィス(Ian Griffiths)クリエイティブ・ディレクターに取材した際に、女性をエンパワメントする服作りについて聞きました。今回のコレクションは、その時に彼が言った「わたしたちはあくまでツールをお渡ししているだけ。エンパワメントするのは女性たち自身だから」というフレーズが頭に浮かびました。ブラックやグレー、ネイビーといったシックなワントーンで統一し、プリントは一切登場せず、余計な装飾もありません。ただ、生地をたっぷり使った美しい仕立てのロングコートは静かに威厳を放ちます。タイトなブラックのタートルネックやウエストに巻いた細いベルトが程よく女性らしさを感じさせつつも、そこに合わせるのは圧倒的にコンフィデントなワイドパンツスーツ。「マックスマーラ」の服はエンパワメントを語らない、着る人自身が語るのだというグリフィス=クリエイティブ・ディレクターのデザイン哲学が見事に表現されたコレクションでした。
11:00 「ブリオーニ」のウィメンズはマスキュリンな風格
木村:老舗紳士服ブランド「ブリオーニ(BRIONI)」の展示会へ。同ブランドはこれまでメンズ・ファッション・ウイークのスケジュールで発表しており、その中で一部ウィメンズを見せるという形でしたが、昨今女性客からのメイド・トゥ・オーダーが増えていることから今回初めてウィメンズのファッションウイークでも展示会を開き、全15ルックを発表しました。紳士服ブランドとして、アイデンティティーから一切ぶれずにメンズ服のディテールを完全に踏襲していますが、たとえばジャケットは肩や袖丈を詰め、ウエストをシェイプするといった微調整を加えて女性の体に完全にフィットするシルエットに。シルクカシミヤのシャツはフェイクボタンになっておりプルオーバーのように着られます。女性の体の曲線がうまく拾えるそうです。ミリタリーツイルのジャケットに合わせた、同素材のロングベストはドレスとしても着られます。卓越したリバー仕立ての技術を使ったジャケットはブラウスのように軽く、カシミヤのローブコートはシームレスに仕上げて体を優しく包み込みます。ブラウンとオレンジの絶妙なコントラストのカシミヤローブのあまりの肌触りに無意識ながら永遠と触ってしまっていたら「気持ちわかるわ」とデザインディレクター。ほかにもクチュールで使用される最高級のシルクを使った3ピーススーツやケープなど、最高級な素材使いとクラフツマンシップに脱帽でした。
12:00 「ミラノの魔術師」の美学が詰まった「ボッテガ・ヴェネタ」新店へ
木村:次のショーまでの合間に、ミラノ中心部にあるアーケード街ガレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世にオープンした「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」の新店をのぞきに行きました。エントランスの有機的なフォルムのハンドルは、日本人のガラスアーティストの三嶋りつ惠が手がけたもの。什器や螺旋階段はイタリア産のウォルナット材で暖かな雰囲気です。フロアには緑のヴェルデ・サン・ドニ大理石。ニューヨークタイムズ誌で「ミラノの魔術師」と称されたマチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)=クリエイティブ・ディレクターの美学が詰まっていました。
12:30 サイバー空間に輝く「アンテプリマ」
村上:私は「来月の『WWDJAPAN』をお楽しみに!」なインタビューを2つ終えて、「アンテプリマ(ANTEPRIMA)」に到着です。最近再び“ワイヤーバッグ”がヒットしているけれど、今回のコレクションはまさに同じくらいピカピカ・キラキラに輝いていましたね。ラメを混紡したり、モール素材を編み込んだり、もちろんスパンコールなどを加えたり。さまざまな手法で、ともすれば“ほっこり”しちゃうニットにモードだったり、エッジーだったり、フューチャリスティックだったりのムードを加えていたのが印象的です。あまりにキラキラ・ピカピカしているから、ハイジュエリーと同じくらい、iPhoneのピントが合わなくて写真はブレブレ(苦笑)。ここにアップしたのは、その中でもマシな写真です。それにしても「アンテプリマ」って、ニットが主役なのに、ちゃんとモードのエッセンスを加えてきますよね。あるときはシャープなカッティング、あるときは潔いモノトーン、そして今回は、ピカピカとキラキラ。特に今回のコレクションは、デジタルサイネージの演出や、ウールと切り返したPVCの質感も手伝い、もはや未来的なムードを醸し出しています。
今シーズンのミラノは、みんな“クワイエット・ラグジュアリーのその先”を提案している印象があります。「アンテプリマ」も一緒。コートやジャケットは普遍的なシルエットですが、PVCとウールを切り替えたり、中にキラキラ・ピカピカニットを組み合わせると、途端に鮮度が増します。かつてのラグジュアリー・ストリートのようにド派手に戻ることはないけれど、自己表現のためにはもう少しデザイン性のある洋服があっていいーー。そんなデザイナーたちの思いを感じ始めています。
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