新しいことを始めるのによいと言われる吉日、一粒万倍日。特に近年は財布の新調に適した吉日として認知されており、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」をはじめとするラグジュアリーブランドが、この日を目掛けて新作財布を発売することも増えている。一粒万倍日と天赦日、天恩日が重なった2024年の元日に合わせ、百貨店が正月のキャンペーンで“スーパーラッキーデー”を訴求する動きも見られた。
一粒万倍日に可能性を見出す企業が増えているが、実際の顧客の反応はどうなのだろうか。また、財布以外の商材に影響はあるのだろうか。三越伊勢丹、高島屋、大丸松坂屋百貨店、そごう・西武、阪急阪神百貨店、松屋の百貨店6社のバイヤーらへの取材で、一粒万倍日当日の売り場の様子と売れ筋に迫った。
一粒万倍日に変化を感じる?: 「スーパーラッキーデーは3倍」の声も
今回、アプローチした全ての企業の革小物担当が、一粒万倍日に対する顧客の意識に変化を感じると答えた。一粒万倍日の存在を知り、「どうせ買うなら縁起のいい日に」という意識が高まっているようだ。
特に顕著なのは、一粒万倍日とほかの吉日が重なったスーパーラッキーデーだ。一粒万倍日は月に4〜5日あり、特別感が薄いのか「単なる一粒万倍日では、売れ行きにそれほど差がない(大丸松坂屋百貨店 大丸梅田店 紳士雑貨 バイヤー 高島昌弘以下、大丸 紳士雑貨」との声が目立った。しかし、スーパーラッキーデーにおいては、「一粒万倍日と天赦日が重なった、23年3月21日は、普段のおよそ3倍の売り上げだった(阪急阪神百貨店 阪急うめだ本店以下、阪急阪神百貨店)」「今年の元日は春財布と新年が重なり、売り上げは大きく伸びた。(松屋 ショップMD部 MD二課 ハンドバッグ・婦人靴、プレステージ、紳士特選 丹羽 俊貴バイヤー以下、松屋)」と、大きな影響を感じた百貨店があった。
中には、「一粒万倍日と吉日が重なる日の売り上げは、ほかの吉日と比較しても1.5倍くらい(大丸松坂屋百貨店 大丸梅田店 婦人雑貨 マネジャー 柿本裕美以下、大丸松坂屋百貨店 婦人雑貨)」「約110%の伸長(そごう・西武 リーシング本部 リーシング一部 ファッション担当 高橋礼 以下、そごう・西武)」と、微増にとどまるケースもあったが、一粒万倍日単体よりも、スーパーラッキーデーに売り上げが伸びる傾向があるようだ。「昨年の3月21日は、新生活のタイミングとも重なるため、特に影響力があった。開運日のタイミングやシーズンにもある程度左右される(髙島屋 MD本部 婦人雑貨担当 吉永美穂バイヤー) 」と見る声もあった。
来店客は、スーパーラッキーデーの前1〜2週間ごろから下見をし、当日に購入する人が多いという。特に、コロナ禍〜コロナ禍が開けた直後はその動きが盛んだったという。「ピークはコロナ禍が明けた2年前、その後は微増。(大丸松坂屋百貨店 大丸梅田店 婦人洋品 ディレクター 岩元友美以下、大丸松坂屋百貨店 婦人用品)」。
財布以外の商材は?:ブライダルリングやジュエリーにも浸透
一粒万倍日は、特に財布を新調するとよい日として知られる。しかし、占い師のイヴルルド遙華さんは、財布に限らずとも「自分の身近なものを買い換えるとよい」と語る。実際に、名刺入れやカードケース、バッグなどの革小物のみならず、ジュエリーの売り場でも、わずかながら顧客の動きに変化が見られるという。
「一粒万倍日と天赦日が重なった1月1日は、ジュエリー福袋に早朝からお並びいただいた。また、23年末にジュエリーの購入が決まっていたが、あえて1月1日にお買上げ、お持ち帰りいただいたお客様もいた(そごう・西武 お得意様部 高級雑貨・呉服 宝飾 ・時計・メガネ担当 渡辺昌明)」。中でも、ブライダルリングにその傾向を強く感じるバイヤーが多かった。
時計の消費においてはまだ浸透しきっていないようだ。「唯一『オメガ(OMEGA)』では年に数回、一粒万倍日だから今日買いたいというお声はある。それ以外のブランドについては一粒万倍日の影響を感じることは特にない(阪急阪神百貨店)」。
一粒万倍日に向けての取り組みは?:“開運”を謳うのに抵抗があったとの声も
一粒万倍日やスーパーラッキーデーを一つのシーズナルイベントとして盛り上げるべく、開運日カレンダーの設置やポップアップ、SNSでの発信、スーパーラッキーデー前の特設ページの用意などで、多くの百貨店が訴求に取り組んでいた。
特に、阪急うめだ本店では、1月1日が一粒万倍日と天赦日、天恩日が重なるスーパーラッキーデーだったことから、「年末から年始にかけて春財布の時期には、鎌倉の銭洗い弁天でお清めした5円玉を年末年始にかけて財布をご購入の方にお配りした(阪急阪神百貨店)」という。開運日当日でなくても、直近の一粒万倍日に使い始めることを提案することで、購買を後押しすることもできる。
「百貨店として開運という不確かなものを接客に取り入れてよいのか迷ったが、お客様がそれらを受け入れていることが意外だった(松屋)」と、打ち出すのにやや抵抗があったとの声も印象的だ。
一粒万倍日に売れる財布は?:スピリチュアル観点から長財布人気も健在
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では、実際に一粒万倍日に売れているのはどんな財布なのだろうか? キャッシュレス化の影響を受けて、ここ数年は、コンパクトなものやポシェット型のウオレットがトレンド。引き続き、メンズ、ウィメンズの売り場ともに小さなサイズの二つ折り、三つ折りウオレットが人気のようだ。
一方で、現金を多く持ち、スピリチュアル意識の高い顧客には、長財布の人気も健在だ。「長財布はお札を折らずに入れられる点が人気(そごう・西武)」「開運日に購入するお客様は、スピリチュアル意識が高いのか、お札を折らずに済むことに加え収納力やカラー、軽さ、薄さなど、 それぞれのこだわりをお持ちだと見受けられる(大丸松坂屋百貨店 婦人洋品)」との声もあった。6社に売れ筋ブランドを聞くと、ウィメンズは「コーチ(COACH)」や「フルラ(FURLA)」、「ボナベンチュラ(BONAVENTURA)」、「アンテプリマ(ANTEPRIMA)」、「ケイト・スペード ニューヨーク(KATE SPADE NEW YORK)」など、メンズは「キプリス(CYPRIS)」や「エッティンガー(ETTINGER)」、「カミーユ・フォルネ(CAMILLE FOURNET)」などのブランドの名前が挙がった。「大阪市北区にしかないブランドとして『ゲンテン・ヒロフ(GENTEN HIROFU)』も人気(大丸松坂屋百貨店 婦人雑貨)」。
メンズの売り場からの声で印象的だったのは、次のような声だ。「普段はあまり動きの乏しい、オーストリッチやクロコダイル革などの高級素材を使用した財布の購買が見受けられる(大丸松坂屋百貨店 紳士雑貨)」「開運日は奮発してエキゾチックレザーの財布をお求めになる方も多い(三越伊勢丹 伊勢丹新宿本店 メンズ館 メンズアクセサリー バイヤー 宮下創太以下、三越伊勢丹)」。開運日に背中を押される顧客も少なくないのだろう。
人気の色について聞くと、金運を呼び込む色として知られる、グリーンが多く挙がった。「最強開運日に関しては40%がグリーンでした(大丸松坂屋百貨店 婦人洋品)」「今年トレンドの淡いブルーと金運アップにつながると言われているグリーン(そごう・西武)」。
メンズでも、「財布は形と色の種類が乏しいため、色は黒と茶系が人気(大丸松坂屋百貨店紳士雑貨)」とトレンドに左右されないカラーも支持される一方で、「定番のブラックに加え、最近は落ち着いたダークグリーンが人気(三越伊勢丹)」とグリーンの人気が広がっている。
今後、どう活かす?:Z世代やインバウンドへのアプローチでさらに広がるか?
多くの百貨店が、一粒万倍日を日用品を買い換えるきっかけとして提案することで、購買を後押しできると考える。「Z世代に響き、インバウンドに日本の吉日の認知が広がると、さらにマーケットが拡大するかもしれない(大丸松坂屋百貨店 婦人雑貨)」と、新しいターゲットに期待する見方もある。
一方で、「あくまで補助的な要素。最後の一押しなどに使用するもの(松屋)」「開運日終了後、反動でのマイナスが大きいため、 開運日に頼らない施策が必要だと感じる(大丸松坂屋百貨店 婦人洋品)」と冷静に見る声もあがっていた。