PROFILE: 早瀨はるな/コーセー スキンケア開発室
従来品と「区別がつかない」
使用感を追求
WWD:“薬用雪肌精 ブライトニング エッセンス ローション”にリニューアルして何が変わった?
早瀨はるな研究員(以下、早瀨):和漢植物の甘草(カンゾウ)由来の有効成分である「W-グリチルレチン酸ステアリル」を新配合したこと。コーセーは10年以上にわたって同成分の研究を続け、メラニン生成を抑えてしみ・そばかすを防ぐ「美白有効成分」としての働きを解明し、承認を得た。
ただその成分を加えればいい、という単純なことではなかった。化粧水の使用感は、繊細な処方のバランスで成り立っている。「雪肌精」を長く愛用して頂いている方には、なめらかでみずみずしい使用感を気に入って頂いている方も多い。私は製剤開発担当として、処方をリニューアルしながらも、“薬用 雪肌精”のみずみずしい使い心地を守ることにこだわった。新旧の化粧水を使ってみて、「区別がつかない」と言ってもらえたとしたら、私にとっては最高の褒め言葉だ。
WWD:ロングセラー商品である“雪肌精”のリニューアルに携わるプレッシャーはなかったか。
早瀨:自ら手を挙げてリニューアル品の開発メンバーになった。当社は若手のうちから担当商品を持ち、主体的に開発に携わることで鍛えられる風土がある。入社1年目から、化粧水や乳液、クリームなどの処方を開発してきた。23年3月に発売したハイプレステージブランド「コスメデコルテ」の目もと用美容液“リポソーム アドバンスト リペアアイセラム”にも関わった。私にとって「雪肌精」は、物心ついたころからなじみのある、母親の化粧台にいつもあったブランド。多くの人に愛用される商品の開発に携われるチャンスだと思ったし、やれるという自信もあった。
WWD:開発はスムーズだったか。
早瀨:すぐに壁に突き当たった(笑)。通常の化粧水の製造プロセスでは、油分を水分に溶かすための界面活性剤を付加することで乳化(水分と油分を混ぜること)させる。W-グリチルレチン酸ステアリルは非常に水に溶けにくい油系固形物だ。何度乳化を試みても、ドロドロに溶けたバターのような剤型になってしまった。ただ、先輩や同僚に「できない」と泣きついたりはしたくなかった。仮説と検証をひたすら毎日繰り返したが、苦ではなかった。「やりたいからやっている」という感覚が自分の中には常にあった。
大学の研究論文も引っ張り出した
WWD:研究のモチベーションは。
早瀨:高校生のころに化粧品を使って肌荒れに悩まなくなって感動したのが私の原点。化粧品開発の仕事に就きたくて、大学では界面化学を学んだ。
「雪肌精」の新化粧水の開発では、当時の研究論文も引っ張り出してヒントにした。解決のカギになったのは、大学の時に研究していた「リン脂質」という成分だ。界面活性剤の乳化の仕組みについて分かりやすく説明すると、油を抱え込むカプセルのような働きをする。
リン脂質は、他の界面活性剤と比較しても非常に小さなカプセルを作ることができるため、剤型が滑らかに仕上がり、成分構造的に肌ともなじみやすい。コーセー独自の乳化技術である「高圧微細リン脂質乳化技術」で、(有効成分の)W-グリチルレチン酸ステアリルと植物性エモリエント成分を微細なカプセルに包み込み、安定化することで、「雪肌精」らしい滑らかなテクスチャーになった。
ただ商品として製造する際は、化粧水を試験管の中で作るわけではない。量産における再現性も確かめる必要があった。研究室では数十キログラムの製造スケールで乳化できるか確かめ、さらに工場に足を運び、数百キログラムのスケールでも検証した。
WWD:11月下旬の発表会では、“薬用雪肌精 ブライトニング エッセンス ローション”の新処方を自らプレゼンした。
早瀨:プロジェクトがスタートしてからはずっと「雪肌精」のことで頭がいっぱいだったが、壇上を降りて、ようやく肩の荷が下りたような気がした。だが、達成感はまだない。新しい化粧水を使っていただき、お客さまから満足したお声を聞くまでが私のミッションだ。
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