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連載 小島健輔リポート

“テロワール”こそアパレルの生命線 ワークマン、ライトオンの根本的課題【小島健輔リポート】

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ファッション業界のご意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。ファッションビジネスにおいて、企業が打ち出す商品・ブランドと消費者とのズレが生じてしまうことは珍しくない。では、この「ズレ」とは一体なんなのか。突き詰めて考察すると、見えなかったものが見えてくる。

転機となった「ワークマンプラス」に続く「#ワークマン女子」による拡大が壁に当たったワークマンと、長らく低迷が続くライトオンの「マーケットとのすれ違いの構図」が共通している、と言ったら意外だろうか。アパレルビジネスとテロワール(生育環境)という根本的な課題に切り込んでみたい。

ローカル感覚とメトロ感覚のすれ違い

「#ワークマン女子」による都市圏一般客の取り込みにかげりが見えたワークマンは成長の鈍化を回避すべく、全方位狙いの「ワークマンプラスII」によるローカル小商圏市場の再開拓や子供服への本格参入、シニア強化などを打ち出しているが、ワークマンの試行錯誤にはローカル感覚とメトロ感覚のすれ違いが指摘される。

ローカル生活圏の職人向けワークウエア&用品専門店のFC展開で成功したワークマンの商品は、繰り返して購入しやすい低価格と機能性・耐久性を兼ね備えた優れ物だが、ローカル職人層の求める機能と嗜好を反映して確立されたものだけに、多少のファッション性を加えても都市圏一般生活者のライフスタイルや嗜好とは乖離があった。ツーリング、トレッキング、キャンピングなどのアウトドア愛好者に評価されて一般客にも広がり、「ワークマンプラス」の開発につながったが、アウトドアな機能とお値打ちな価格が評価されたのであって、都市圏の一般客にファッション性が評価されたわけでも日常のライフスタイルに定着したわけでもなかったから、コロナが明けてアウトドアブームが沈静化するとともに勢いにかげりが見えてきた。それはニトリにもどこか共通するギャップではなかろうか。

都市圏の一般客、とりわけ女性層(「女子」というにはアラフォー以上と高齢だが)の取り込みを狙った「#ワークマン女子」は女性ウケするファッション性を意図したが、ワークウエアやアウトドアウエアをカラフルにしたり目立つディティールを付加しただけで、メトロなライフスタイル※とは乖離が大きかった。人口密度が高く他人との距離感に神経を使うメトロ生活者は人混みになじむクールなカラリングやスマートなウエアリングを好むから、異様にカラフルで目立つディティールを加えた「#ワークマン女子」の商品には腰が引けた人も多かったと思われる。山野や田園ではともかく都市の日常生活では周囲の環境から浮いて見えそうだからだ。「#ワークマン女子」が開店初年度は繁盛しても次年度の落ち込みが大きかった(23年3月期では13%減)のは、自分の嗜好やライフスタイルとは違うと失望した顧客が多かったのではないか。

本格参入を発表した子供服にしても、ワーク&アウトドア感覚の大人用を素材もカラリングもそのままにサイズダウンしたもので(その方がコストもサプライも好都合)、機能性や耐久性はともかく、はっきり言って全然かわいくない。同じアウトドアコンセプトでも、昨秋デビューしたナルミヤの「ミニマル(MINIMAL)」の方が断然にかわいいのではないか。似たようなアイテムなのに、小粋なフレンチカラーやちょいストリートなウエアリング(パターンが違うんです!)がかわいく見えてしまう。ローカル感覚とメトロ感覚の違いと言っては語弊があるかもしれないが、大人向けの服とも共通したギャップが指摘される。そんなすれ違いはジーンズの世界でもみられる。

※メトロライフスタイル…地下鉄や私鉄などの公共交通機関が発達した大都市圏をメトロエリアと言い、人口密度も利便性も高い都市圏のライフスタイルを人口密度も利便性も低いローカルのライフスタイルと対比する概念

カントリージーニングとメトロジーニング

23年4月25日に本サイトに掲載した「『ライトオン』は『バックル』の何を学ぶべきだったのか」
で詳説したので読み返していただけば理解が深まると思うが、米国のジーニングにはワークウエアから発した従来の「カントリージーニング」、近年のメトロライフスタイルから発したアスレジャー感覚の「メトロジーニング」がある。

「カントリージーニング」はワークウエアらしい加工感や汚れ感が色濃く(かつて、リーバイス社のトップは「ジーンズは洗濯するものではない」と豪語した)、オンスも重めなデニムをジャストサイズで腰ばくというイメージが強いが、「メトロジーニング」はオンスも軽めなデニム(ストレッチや合繊混もあり)をきれいめな加工感でトラックパンツのように抜けてはくもので(タイトフイットもあるが)、スエットアイテムのように洗濯して清潔に着るイメージだ。

ライススタイルも両極で、カリカチュアすればこんなものだろう。「カントリージーニング」を愛好するのはローカルやカントリーに住む第一次、第二次産業従事者(いわゆるブルーカラー)で、ジーンズにウェスタンブーツとカウボーイハットを合わせて大排気量のピックアップトラックに乗る。「メトロジーニング」を愛好するのはメトロエリアに住む第三次、第四次産業従事者(技術職や専門職のグレーカラーやサービス業従事者も含むいわゆるホワイトカラー)で、ジーンズにスニーカーとスウェットを合わせてテスラかプリウスに乗る。

後者はともかく前者は今時レアなのではと思われるかもしれないが、米国のローカルでの売れ筋自動車は未だ大排気量のピックアップトラックだし(トヨタやダットサンも米国専用のピックアップトラックで稼いでいる)、ウエスタンブーツとカウボーイハット(とジーンズ)を売る「ブートバーン(BOOT BARN)」というチェーンが全米44州に1000平方メートル近い大型店舗(ほとんどがロードサイドの独立店舗)を345店(前期末から45店も増えている)も展開して、16億5762万ドル(約2490億円)を売り上げ、粗利益率63.2%、営業利益率22.9%という繁盛ぶりだから(23年3月期)、決してマイナーではない。

伝統的なカントリージーニングを売る「バックル(BUCKLE)」はアスレジャーが広がる中、「ギャップ(GAP)」などメトロジーニングのチェーンに圧されてメトロエリアのショッピングモールから次々に撤退し、「ブートバーン」があるようなローカルやカントリーのシティモールやタウンセンター、ストリップセンターに活路を見出した。成長力は失ったが、23年3月期も42州に441店を展開して13億4520万ドル(約2020億円)を売り上げ、粗利益率59.4%、営業利益率24.4%と抜群の高収益を維持している。

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