ファッション

「リック・オウエンス」の気高さ、「クロエ」の可憐、そして若手探しに走る  2024-25年秋冬パリコレ取材24時Vol.4

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2024-25年秋冬パリ・ファッション・ウイークの現地リポートを担当するのは、コレクション取材20年超のベテラン向千鶴・編集統括兼サステナビリティ・ディレクターと、ドイツ在住でヨーロッパのファッション事情にも詳しい藪野淳・欧州通信員。朝から晩までパリの街を駆け巡り、新作解説からユニークな演出、セレブに沸く現場の臨場感までを総力でリポートします。今回は、「リック・オウエンス(RICK OWENS)」や「クロエ(CHLOE)」「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」「ロジェ ヴィヴィエ(ROGER VIVIER)」「レヴァリー バイ キャロライン フー(REVERIE BY CAROLINE HU)」「ランバン(LANVIN)」「ジバンシィ(GIVENCHY)」をお届け!

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2月29日 9:30 「リック オウエンス」

メンズに続いて、パリ7区のデザイナー、リック・オウエンス(Rick Owens)が25年前にパリでの活動を始めた自宅兼仕事場でショーを開きました。入り口ではリサイクルウールのカップホルダーで包んだジンジャーティーが振る舞われ、雨の石畳で冷えた身体が温まります。

このおもてなしにはリック・オウエンスと言うデザイナーの魅力が凝縮されているのではないでしょうか。自宅という選択は、ショーがエンタメ化しているファッションウイークに対する“F**k fashion system”の意思表示でしょうし、メディア、バイヤー、顧客向けと3回に分けて親密なショーを行うのはファンを大切にする姿勢。リサイクルウールのカップホルダーは環境問題にも真摯に向き合う行動力の現れです。ジンジャーティーで身体を労わることと、地球を労わることはリックの中ではきっと繋がっています。

今季のリックが思いを馳せたのは、幼少期を過ごした米国カリフォルニアのポーターヴィル。イジメを受けて悩ましい子供時代を過ごしたリックの心に残っているのは、家にテレビを置くことを許さなかった厳格な父親が読み聞かせてくれた物語です。宇宙を舞台にした物語には火星のメイドや王女、宇宙服を着た筋骨隆々のヒーローやヒロインなどが登場し「奇妙だが高貴な存在で満たされていた」そう。ショーに登場したデフォルメした服を着るモデルたちはその登場人物を体現したもの。自身が子供時代に経験した物語へと没入し現実から距離を置く時間を今はショーで作り提供している。これぞファッションショーの魅力です。

そして奇妙でファンタジックなルックを形成している素材や加工がどれだけサステナビリティに配慮しているか(誰が携わり、何の認証を取得し、その認証が意味するところなど)が、リリースに詳細に記されています。少し長くなりますが共有しますね。


宇宙服ならびにお揃いのフード付きローブやポンチョ:リサイクルカシミア・アルパカ。

一部のジャケットやスカートに使用したゴム:ゴムを専門とするパリのBDSMコミュニティのメンバー、マティス・ディ・マッジョが廃棄自転車のタイヤをリサイクルして制作。

ケープとマントのフェルト:オーストリアのダッハシュタイン山麓にある1888年創業で5代続く家族経営の工場が制作。目の粗いオーストリアの羊毛を用いて氷河の雪解け水を使いフェルト化している。

シャギーコートとドーナツストールのフェルト:シルクの縦糸にアルパカの最長繊維を使ったヘビーウェイトのフェルト。

デニム1:13オンスの日本製デニムはワックスと箔を何層にも重ね、プレスし洗い、タンブリングすることで、最終的にひび割れや剥がれたメガクラストのような風合いに仕上げている。

デニム2:水利用の無駄を省くためにイタリア・ヴェネトにある小規模な処理槽で生産。使用した水の一部を再利用できる浄水プロセスの採用も。

デニム3:ウォッシュ加工はすべてZDHC認証取得(繊維・皮革産業において有害物質の排出をゼロにするための活動をしている非営利団体による認証)

チュニックとカーゴブーツ:厚さ1.5mmのカーフはベジタブルタンニン&天然ワックスのみで仕上げ。なお、ここでのベジタブルタンニンなめしとは、革をなめし、保存する過程で植物性タンニンと天然タンニンのみを使用していることを意味する。

クロップドジャケット:LWG認証のヘビーウェイト・メリノ・ シアリング。同認証は、原材料のトレーサビリティ、高い環境基準、なめし工程におけるエネルギーと水の効率的な使用を保証するもの。

レザーのブーツ:ロンドンのデザイナー、ストレイテュケイ(Straytukay)とのコラボ


長くなりました。こういったことは「わざわざ書く必要はない」という意見もあります。しかし、作り手が教えてくれなければ受け手は知りようもなく、逆に知ることで「リック・オウエンス」というブランドの魅力が増す人も多いでしょう。少なくとも私(向)はそうです。

特にリックが多く用いているレザーに関して。「食肉用の革を使用すること自体がサステビリティ」という考え方に私も基本同意です。ただ、レザーを衣料・アクセサリーとして用いるためのなめしや加工には課題が残っているのも事実。だからこそリックのような影響力あるデザイナー自ら課題の認識とベターな選択を学び、表明することが、パートナーである工場をはじめファッションという産業全体をより良いものにしてくれるし、何よりファンのためにもなる。こういったリックの物事に対する姿勢がブランドが持つ気高い印象につながっていると考えます。

10:30 「クロエ」

「クロエ」が戻ってきた!新クリエイティブ・ディレクター、シェミナ・カマリ(Chemena Kamali)のデビューに安堵です。という趣旨、前任者、ガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)が推進したサステナビリティの取り組みに関するカマリの考え方はこちらに速報しましたのでぜひお読みください。

ここでは会場に来ていた女性たちについてお伝えします。フロントローに並んだのは、90年代、2000年代に「クロエ」のショーを彩ったり、ミューズとなったりした女性たちです。プレ・フォール・コレクションを身につけ、お揃いのサボサンダルでショーの始まりを待つ彼女たちはとても楽しそうで、漫画風に効果音を添えるなら“キャピキャピ”。きっと「クロエ」の思い出を語り、近況を交換し、新しい「クロエ」を着ることを存分に楽しんでいます。このムードこそが多くの人が描く「クロエ」像です。

翌日の展示会で近く見ると、70年代調のフレアパンツにシルクモスリンやジョーゼットのブラウス、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)時代の「クロエ」で多く用いられていたバナナやパイナップルモチーフを取り入れたアクセサリーなどキャッチーな要素が豊富。バイヤー陣もきっと安堵ですね。

11:30 「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」

先シーズンはコレクション発表をお休みしていた「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」が、パリコレに戻ってきました。会場に入ると、ボードゲームを模した四角いランウエイの真ん中にクリスタルがびっしりとあしらわれた巨大なサイコロが置かれています。そんな遊び心ある会場で披露したコレクションも、「楽しさ」を意識したということでポップ&プレイフル!アイコンのクロスアロー、花や星、サイコロ、チョウなどモチーフが満載で、黒やオリーブグリーンのベースに加えた鮮やかなライムグリーンや赤、黄色のコントラストが効いています。

ショーは前半がウィメンズ、後半がメンズという構成。スポーティーなストリートウエアからテーラリングやイブニングドレスまでをそろえるアプローチは引き続きですが、男女を対等に考えるという観点からウィメンズはボディーラインに沿うスリムなシルエットを軸にしつつもより力強く、メンズはクリーンでゆったりとしたスタイルをベースに柔らかさや愛らしさを加えています。

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