「ライク・ザ・ウィンド マガジン(LIKE THE WIND MAGAZINE)」は、2014年にイギリスで誕生した雑誌だ。世界各国のランナーたちの声を集めたカルチャー誌で、パフォーマンスを追求することはもちろん、ランニングを通じたコミュニティーの在り方やドラッグ依存からの回復など、独自の視点を生かしたコンテンツを届けている。同雑誌は、初の外国語版である日本語版を昨年秋に発売。手掛けたのは、京都にある小さな出版社の木星社だ。
木星社は21年に藤代きよ代表が設立した。藤代代表はハースト婦人画報社やコンデナスト・ジャパンなどで、ファッションを軸にメディアビジネスのノウハウを培った。木星社を立ち上げたのは、「書籍をちゃんとやってみたかった」から。「雑誌やデジタルメディアは長く携わったし、映像も手掛けてきたけれど、書籍はやっていなかった。自分が本当に好きなものを作りたかった」。
ランニングを本格的にスタートしたのは10年ほど前。現在は100マイル(約160km)の長距離レースも楽しんでいる。「旅をするように走るのが好き。走る距離が伸びるほど、いろいろなモノとコトに出合える。服も食事も、会場までの移動も全て含めて関係してくる。一方で、最後は自分が走るかどうかで、孤独と向き合う強さを求められる。そのバランスが面白い」。
日本で意識することは少ないかもしれないが、ランニングは社会とも密接に結びついている。世界には、マイノリティーへの差別が激しく、一人で出歩くことさえ難しい地域もある。当事者にとっては、屋外を走ること自体が奇跡だ。あるいは、性的被害に見舞われるリスクのため、好きな時間に好きな場所を走れない女性ランナーもいる。ランニングを通して、社会課題と向き合い、その改善に努める団体もある。「ランニングは運動であるとともに、アクティビズムでもある。それを伝えるのもメディアの役割だと思う」。