YKKは2024年3月期のファスナー事業が、売上高が前年比0.3%増の3816億円、営業利益が同33.0%減の292億円、ファスナー販売数量は89.8億本(前年は92.9億本)になりそうだと発表した。2期連続の減益になる。大谷裕明社長は「期初の見通し以上に世界の衣料市況が悪く、積み上がった流通在庫の消化が進まなかった」という。カテゴリー別では特にスポーツ衣料が苦戦しており、スポーツ衣料の世界的な生産地であるベトナムを中心としたASEANエリアでは、縫製産業の苦戦が続いている。24年も欧米の衣料品市場は物価高の影響で不透明な状況が続くと見ており、コストパフォーマンスに優れた新型ファスナー設備200台を中国とアジア地域に投入し、急成長を続けている中国やインドの現地ブランドの取り込みを図る考え。
YKKのファスナー事業はコロナ収束に伴い、22年3月期のファスナー販売量は102.9億本と過去最高を記録するなど絶好調だったが、22年10月以降は積み上がった流通在庫により、世界的にアパレル生産が減少、23年3月期は1.7%の減益となっていた。
24年度の設備投資は、23年度の418億円に対して407億円とやや減少するものの、巻き返しに向けて適時・適材・適量体制を強化する。その柱の一つが、新型ファスナー機200台の導入だ。同社はこの数年、市場のニーズに応じた新型のファスナー生産設備の開発を進めており、成長を続ける中国及びインドの有力な現地ブランドへの納入量を増やすため、スピードと生産性に優れた新型機を投入する。
また、この数年進めてきた営業・開発を一体化した商品企画体制をさらに強化。全世界の39カ所の開発拠点の人員を978人から1025人に増員するほか、新たにSNSやユーチューブなどを世界規模で推進する「グローバルブランド戦略推進室」と、業務改革を推進する「デジタル業務推進部」を新設する。
上記の施策により、24年度はファスナー販売数量が96.2億本(前期比7.2%増)、売上高が4072億円(同6.7%増)、営業利益が412億円(同41.0%増)を計画する。円換算レートは1ドル140円、1ユーロ150円、1人民元20円の想定になる。
YKK大谷裕明社長との一問一答
3月5日に行った大谷社長とメディアの一問一答は以下の通り。
ー24年3月期の地域別の状況は?
大谷裕明社長(以下、大谷):中国とISAMEA(=インド及び南アジア、/中東/アフリカ)は増収・増益だったが、ASEANは苦戦した。欧米及び日本のアパレル市場は総じて厳しく、そうした市場向けの生産地は総じて厳しい。中国とISAMEAが好調だったのは、内需向けに急成長している現地ブランドを取り込めたことが大きい。
ー2024年の世界のアパレル市況の見通しは?
大谷:欧米と日本市場は決して楽観視していない。ジーンズやカジュアル分野は少しずつ流通在庫が減少しており、発注量も回復傾向にあるものの、スポーツ・アウトドア分野は引き続き重い。米国市場が物価高、特に食品とガソリン代の高騰が尾を引いており、限られた可処分所得を衣料品に回すところまでいかないだろう。米国では政策金利の引き下げ観測も出ているが、仮に実現したとしてもそれで衣料品が好転するとは見ていない。
ーだが24年度の業績は、22年度の水準まで回復させる計画だ。急成長中の中国発グローバルブランドの取り込みが奏功する?
大谷:この1−2年、戦略的に開拓し、すでにかなりの実績もあるものの、それ以上に大きいのが成長著しい中国やインドの内需向け、つまり現地ブランドの取り込みだ。特に注目しているのは中国の現地ブランド。すでに中国エリアでは、当社の上位納入先にランクインしている。しかも単に売上が増えているだけでなく、縫製工場は質的にも世界的に見ても先頭を走っている。有力なアパレルや縫製工場は、最先端の物流倉庫のようにAGV(無人搬送車=搬送用ロボット)やポケットソーターを積極的に活用するなど、縫製工場はこの数年で驚くべき進化を遂げ、生産性は桁違いに高い。こうした先進的なスマートファクトリーを擁する中国ブランドは、中国市場でも非常に競争力が高いため、今後も成長を続ける余地が大きいだろう。