ソーシャルエディター津田:数日前に発表された「バレンシアガ」2024-25年秋冬コレクションの演出が目を引きました。会場の床や壁のモニターは、ショーの序盤は砂漠や大草原などの美しい自然を映し出します。しかし中盤になるにつれ、AIが猫や鳥のアニメーションをコラージュした自然の映像や、画面を埋めつくす大量のTikTokの動画に変化。フォトショップなどにより編集・加工され、現実とは異なるものとなり、社会を死に至らしめるコンテンツにもなりうる現代のSNS問題を、CG映像やTikTokの画面で表現したそうです。モデルがガムを噛みながらランウエイを歩く演出や、目深に被るどころか鼻先まであるビーニーも、氾濫する偽物の現実へのアンチテーゼなのでしょう。
最近、私生活でも身の回りのデトックスを始めたというデムナは、SNSの虚像の世界に疲れているのかもしれません。SNS担当の私が言っていいものかわかりませんが、その気持ちとてもよくわかります。
記者村上:SNSって、疲れますよねぇ(笑)。年に20回くらいしか投稿しなくなった私でさえそう思うんだから、津田さんたちのお疲れは察してあまりあります。
考えればクワイエット・ラグジュアリーって、SNS疲れも影響していると思うんです。インスタ全盛期の数年前、特に“つながる”手段がSNSに限られていたときは、インスタを高速スクロールするユーザーに注目されるよう、派手な色使いや一眼でわかるロゴ使い、極端なプロポーションバランスの洋服を主役にしたスタイルが台頭しました。でも多くのデザイナーは今、「洋服が主役ではなく、着る人が主役の洋服を」と考えています。結果、服作りの本質を追求するクワイエット・ラグジュアリーが支持されているのではないか?と。一方で、そんな洋服のプロモーションには、SNSで圧倒的なバズが巻き起こるセレブに依存する傾向がありますけれどね。
クワイエット・ラグジュアリーのみならず、最近はいろんな事象がSNS疲れとリンクしているようにも思えます。Xの低迷とか、リアル店舗への回帰とか、昔流行ったもののリバイバルとか。もちろん、いずれもSNSと無関係ではなく、最終的にはSNSの力を借りてブレイクしていると思うのですが、少なくとも「SNSだけじゃない世界」を人々が欲しているのは間違いなさそうですね。
矛盾しているようにも聞こえますが、SNS疲れを感じさせるSNS投稿などの潮流ってあるんでしょうか?
SNS疲れの影響で台頭する「Photo Dump」や「BeReal」
津田:フォロワー数の推移に一喜一憂する日々は正直疲れますね。もちろん仕事なので数値の分析はとても重要ですが、目先のフォロワー数だけにとらわれず、「WWDJAPAN」のSNSをフォローしてくれている方の「楽しい」「もっと見たい」を引き出せるコンテンツを作りたいですね。
SNSでのSNS疲れを感じさせる投稿、矛盾しているようですが確かに潮流があります。昔と比べ、煌びやかでおしゃれな生活をアピールする投稿やフォトジェニックな写真などは減ってきていて、リアルで嘘がない素の姿を見せる時代に変化しつつあります。例を挙げると、日常の中でなんとなく撮影した写真を時系列など関係なくまとめて投稿する「Photo Dump」的な投稿が増えています。リアルな姿を投稿する「BeReal(ビー リアル)」がZ世代で流行っているのも同様の流れでしょう。
村上:そういえば昔、インフルエンサー育成企画があったんです(笑)。1年で1万フォロワーを目指すみたいなテンションで、その過程で映える写真や共感される文章作り、目にとまるハッシュタグなどのテクニックを伝えようとした企画でしたが、インフルエンサーの卵はキラキラした写真を撮ろうと頑張っていましたねぇ(笑)。もう、そういう時代じゃないかもですね。
「WWDJAPAN」で連載している販売員に向けたインスタ講座でも、講師の木村麗さんは気軽にできる、毎日続けられるノウハウを伝授しています。ちょっとだけキラキラできるテクニックはあるものの、等身大+αくらいな印象です。そのほうが、インスタ疲れせず、長く付き合っていけますもんね。
次回はビューティのトピックをお送りします。
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