英小売のフレイザーズ・グループ(FRASERS GROUP以下、フレイザーズ)は3月7日、傘下の英ラグジュアリーECマッチズ(MATCHES、旧マッチズファッション)の事業を終了することを明らかにした。同社は2023年12月、ラグジュアリー分野を強化するため、マッチズを英投資会社アパックス・パートナーズ(APAX PARTNERS)から5200万ポンド(約98億円)で買収したばかりだった。
フレイザーズがロンドン証券取引所に提出した文書によれば、「マッチズは事業計画の目標に届かないことが続き、損失が積み重なっていた。事業再建にはあまりにも多くの変更が必要であることが分かり、それにかかる資金は実現可能な範囲を超えている」ため、管財人の管理下に置くことを決断したという。
フレイザーズは、1982年にロンドン郊外にあるスポーツ用品店からスタート。後に名称をスポーツ ダイレクト(SPORTS DIRECT)に変更し、買収などによって事業を拡大。創業者のマイク・アシュリー(Mike Ashley)は大富豪となった。2018年には、破綻した英老舗百貨店ハウス・オブ・フレーザー(House of Fraser)を買収し、19年12月から現在の社名となっている。現在、スポーツ ダイレクトのほか、紳士服の「ギーヴス アンド ホークス(GIEVES & HAWKES)」などアパレルブランドを複数保有しているが、23年10月には傘下の英ファストファッションブランド「ミスガイデッド(MISSGUIDED)」をグローバルSPAの「シーイン(SHEIN)」に売却している。
マッチズは、1987年にロンドンでオープンしたセレクトショップ。2007年にオンラインストアを始め、業績を伸ばした。17年にアパックス・パートナーズが買収。ラグジュアリーブランドを含め、およそ650のブランドを取り扱っているが、近年は赤字が続いていた。なお、マッチズの23年1月通期決算は、売上高が1.7%減の3億8010万ポンド(約722億円)で、純損失は前年の3980万ポンド(約75億円)から7090万ポンド(約134億円)へと大幅に拡大している。
今回のマッチズの事業終了は、ラグジュアリーECビジネスの難しさや時流の変化を示す1つの証左だろう。23年12月15日には、高級ECのファーフェッチ(FARFETCH)が経営破綻の瀬戸際にあることが明らかになり、18日に韓国の大手EC企業クーパン(COUPANG)が買収を発表。また、コンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT)は、傘下のラグジュアリーEC大手ユークス ネッタポルテ グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP以下、YNAP)の株式の47.5%をファーフェッチに売却する予定だったが、ファーフェッチが買収されたことを受けて取引を中止。現在、YNAPの株式を100%売却することも視野に入れて新たな買い手を探しているという。