「チカ キサダ(CHIKA KISADA)」の2024-25年秋冬コレクションは、雑談しながらトゥシューズを履き、入念にストレッチを繰り返す、3人のプリマドンナを目指す小さなバレリーナたちで幕を開けた。元バレエダンサーという幾左田千佳デザイナーのクリエイションは近年、バレエダンサーと舞台芸術に携わる人々への愛とリスペクトを表現しながら、バレエのエレガンスとパンクの生命力にフォーカスしてきた。その姿勢は、今回も変わらない。
洋服は、レオタードのようにボディコンシャスなハイゲージのニットから、フローラルモチーフの生地をたっぷり使ったドレス、MA-1やスタンドカラーのダウンブルゾンまで、その多くがまるでヴェールのように薄い一枚のチュールで覆われた。一枚のチュールは、レオタード姿でストレッチに励む少女たちが憧れる、プリマドンナたちの衣装に欠かせない存在。まるで少女のようにピュアな気持ちで、デイウエアさえチュールを被せてドラマチックに昇華するあたりに、幾左田デザイナーのバレエやダンサーへのリスペクトがうかがえる。チュールは、今シーズンも多用したキー素材だ。ドレスやスカートはレトロなカラーパレットに染めたチュールを横にはヒダを寄せ、縦にはカスケード状に重ねることでボリュームたっぷりに仕上げた。潔いチュール使いは、エレガンスを増幅するのみならず、大胆でパンキッシュなマインドを垣間見せる。
さらにファーストルックのジャケットは、丁寧に忍ばせたダーツを露わにしたインサイドアウト(裏返し)の一着。淑女なムードが漂うブラックドレスは、その上にクリノリン(スカートを膨らませるために忍ばせた骨組み)を重ねたり、背中のファスナーを開けることでブラジャーをチラ見せしたり。細く切り出したデニムを格子状につなげたホルターネックのトップスは下に着たドレスの存在を詳らかにするし、そもそも多用したチュールはモデルの肌を露わにする。普段見えないものを表にしたり、隠すものを露わにしたりの発想は、舞台芸術に携わる裏方へのリスペクトなのだろう。
スタイルをドラマティックに仕上げるチュールやクリノリン使いはそのままに、ストリートなカジュアルウエアにも挑んだのは、今シーズンのハイライトだ。代表例は、上述したチュールで覆ったMA-1やダウンのみならず、背中のスナップボタンで閉じると裾に美しいペプラムが生まれるGジャンなど。やはり一枚のチュールで覆った「イーストパック(EASTPAK)」とのコラボ・ボディバッグは、バッグを背中に回して、チュールをたっぷり外に出すと、まるでドレスのバッスルのようにモデルの背面を美しくドラマチックに飾る。デイウエアにも“らしさ”を忘れず丁寧に仕上げ、些細な日常さえスポットライトを浴びる舞台のようにドラマチックな一日に押し上げようとするデザイナーの心意気が読み取れる。アイデンティティとこだわりを持ち、モノづくりという本質をどこまでも追求する、今シーズンの東京コレクション開幕日のハイライトだ。