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連載 ファッション業界人も知るべき今週のビューティ展望

「感情価値」を形にする花王の挑戦

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ビューティ賢者が最新の業界ニュースを斬る

ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN.com」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。今週は、花王がバラエティーショップなどで展開する新ヘアケアブランドの話。(この記事はWWDJAPAN2024年3月11日号からの抜粋です)

弓気田みずほ ユジェット代表・美容コーディネーター プロフィール

(ゆげた・みずほ)伊勢丹新宿本店化粧品バイヤーを経て独立。化粧品ブランドのショップ運営やプロモーション、顧客育成などのコンサルティングを行う。企業セミナーや講演も。メディアでは化粧品選びの指南役として幅広く活動中

【賢者が選んだ注目ニュース】

日本で初めて「シャンプー」を発売したのは花王だといわれている。1932年、洗髪用の固形せっけんとして誕生した「花王シャンプー」から、100年に迫る花王のヘアケアの歴史は始まった。フケ・かゆみを防ぐという頭皮ケアに着目した初の薬用シリーズ「メリット」や、髪のキューティクルの存在が知られるきっかけとなった「エッセンシャル」など、花王のヘアケアの歴史はそのまま日本のヘアケア市場の歴史といっていいほど、共に進化を続けてきた。

花王の強みは徹底した生活者研究に基づくマーケティング力だ。あらゆる年代のヘアスタイルやヘアケア習慣、ライフスタイルの変遷を見つめ、そこから生まれるニーズを商品の形にするプロセスから、数多くの独自技術が生まれてきた。

バラエティー市場で花王を待つ強者は

花王が手掛ける新ブランド「メルト」はまず全国のロフトから展開するが、同社がバラエティーショップに進出するのはこれが初めてではない。かねて高付加価値ヘアケアに着目していた花王は、2019年に「アンドアンド」を投入。シャンプー、コンディショナーを異なる香りとデザインで3種ずつそろえ、髪質などではなくその日の気分で香りをコーディネートできるというコンセプトで「静かに」「はしゃぐ」といった感情にもとづくワードを商品名につけた。1800円(参考価格)という、当時の花王のヘアケアでは最も高価格をつけたが、バラエティーショップでは高価格帯のサロン専売品も多く展開され、ドラッグストアよりも髪質や仕上がりにこだわる商品が並ぶ。「アンドアンド」の感情価値に振り切ったコンセプトは、バラエティーショップで十分伝わったとはいえない。しかし、花王にとって新しいチャネルを開拓できたことの意義は大きかったといえる。

バラエティーショップで「メルト」を迎え撃つのが、ヘアメイクアップアーティストの河北祐介氏がプロデュースする「アンドビー」のヘアケアシリーズだ。「アンドビー」はライフスタイルブランドとしてデビューし、家族でシェアできるマルチなケアアイテムからスタートした。その後満を持してメイクアップ品を発売して以降、着々とカテゴリーを広げてきた。河北氏本人の発信力に加え、ブランドミューズとして川口春奈、アンバサダーにグローバルボーイズグループ・INIを起用。さらにエイジングケアラインには新たに俳優・草刈民代を起用し、話題を提供し続けている。ブランドを展開するのは「ウォンジョンヨ」「シピシピ」などの人気メイクブランドを擁するレインメーカーズだ。リニューアルオープンした銀座ロフトをはじめ、これら3ブランドが存在感を放っている。「アンドビー ヘア」も今の勢いの恩恵を十分に受けそうだ。

新しさで終わらないベネフィットを

ドラッグストア市場でシェアトップに躍り出たI-neも攻勢を続ける。昨年、主力の「ボタニスト」を全面的に刷新するとともに「ヨル」にも新商品を投入。他にも「ドロアス」「アクオル」などブランド・商品を次々に投入し、シェアを拡大してきた。企業としても上場以来4年連続で売上高・営業利益の過去最高を更新している。この2月には「ボタニスト」のサブブランドとして薬用スカルプケア「ウェルプ」がデビューした。フケ・かゆみなど頭皮の悩みがある人をターゲットにしており、花王の「メリット」に真っ向から挑む形になりそうだ。

「メルト」の話に戻ると、同ブランドは美容意識の高い層に向けたコミュニケーションを行っていくという。スターアイテムの“クリーミーメルトフォーム”は花王のお家芸である炭酸を応用し、シャンプーにパウダーを混ぜるというあえてのひと手間をかけることで、炭酸の豊かな泡立ちと香り、パチパチとはじける泡の音からスペシャル感を演出する。パウダーには1包ずつに台紙がつき、QRコードを読み取ると1包ごとに異なる穏やかなサウンドと映像が再生されるコンテンツまでを作りこむ徹底ぶりだ。

発表会では、商品体験を通じてSNSでの発話を促進するという狙いが明示された。ローンチ当初には登場感を演出すること、バズを作って盛り上げることが必須になるが、炭酸泡を製剤の中で長持ちさせる技術や、「メルト」という商品名にふさわしく、髪をやわらかくときほぐすような仕上がりをもたらす技術は、花王ならではのものだ。スターアイテムと位置づける炭酸パウダーはあくまでスペシャルケアアイテムであり、シャンプー・コンディショナーのベネフィットもしっかりと伝えていく必要があるだろう。継続して使ってもらうためのコミュニケーションを丁寧に続けていくことも、今後のヘアケア戦略に欠かせない要素になるはずだ。

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