荒井一帆デザイナーと高林司ディレクターによる「エフエーエフ(FAF)」は12日、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」でブランド初のファッションショーを行った。ファッションコンペ「東京ファッションアワード 2024(TOKYO FASHION AWARD 2024)」受賞の特典として開催した。
未経験から始まった
アパレルへの挑戦
同ブランドは、共に1995年生まれの二人が2018年に設立した。ブランド名の「FAF」はもともと両者によるDJユニットの名前で、パフォーマンス用の衣装を自ら手掛けたことからブランドが始まった。ファッションの専門教育は受けておらず、初期のアイテムはシルクスクリーンプリントのカットソーのみ。「イラストも、柄も、配置のバランスも、正解か分からないまま、見よう見まねで作った」と二人は笑う。最初はプライベートワークの延長だったが、モノづくりの面白さを知るうちに「本格的にブランドに挑戦したい」と夢を描いた。知人に工場や職人を紹介してもらい、自らあいさつに行き、生産拠点を拡大。21-22年秋冬シーズンに、半年に一度のコレクション形式での発表に切り替えると、音楽アーティストの着用などで知名度を広げていった。10〜20代のファンが多く、現在はビームスやベイクルーズといった大手を含む32のアカウントに卸している。
「東京ファッションアワード 2024」に挑んだのは、さらなるブランドの成長と、海外アカウント獲得のため。荒井デザイナーは「セールス担当に勧められてエントリーしたが、まさか受賞すると思っておらず、自分たちも驚いた。いまだにクリイエイションの方向性が正解かどうかも分からない。それでも、自分たちが培ってきたモノづくりと、ブランドが生んだ人とのつながりを、世界の多くの人に伝えたい」と語る。
身近な人々と臨む
初の大舞台
ショーのモデルは、プライベートで交友のある友人や知人に依頼した。モデルを生業にする人からそうでない人、さらには格闘家の那須川天心やヒップホップアーティストのNENEやYoung Coco、MFSまで、職種もスタイルも個性も異なる27人が集まった。バックステージには和気あいあいとしたムードが漂い、常にコミュニティーを大切にしてきたブランドの姿勢が伝わってきた。ショー直前に荒井デザイナーと高林ディレクターはマイクを握り、「オレらのショーに協力してくれて本当にありがとう。みんなのことだから大丈夫だと思う。思い切りやってください。上げていきましょう」と話すと、モデル全員が拍手で答えた。
ショー会場は渋谷ヒカリエのイベントスペース。客入れのBGMが止まると会場奥のスペースにモデルが一斉に登場し、そこから一人ずつステージに上がり、ウエアを披露した。
国内外の技術と文化を
リアルクローズに込める
コレクションは、ワークやミリタリー、スポーツを軸としたストリートウエアをベースに、高い加工技術と独自の素材選びでオリジナリティーを加えていた。ファーストルックはサーマルのトップスとパンツに、黒のレザージャケットを合わせたスタイル。ジャケットの襟に大きなスタッズを大胆にあしらい、袖には8mmほどの極小スタッズをダイヤ柄に乗せて、職人による繊細な加工技術を伝える。ダック素材のように見えるカモフラージュ柄のセットアップは、実はデニム素材を加工したもの。岡山県で生産したデニムを、京都の職人が色を抜き、その上にプリントしている。ほかにも、弾丸を打ち込んだようなダメージをレーザー加工で表現したジーンズや、太ももにフェード加工を施してビンテージ風にしたスエットパンツなど、技巧派なストリートウエアを連発した。
海外の伝統文化とストリートウエアの融合にも挑戦する。今シーズン着目したのは、インドの伝統的な刺子生地“カンタキルト”。このキルトをカレッジスエットのレタードデザインや、シャツ型のダウンジャケットに落とし込んだ。「世界には面白く、後世に伝えるべき文化がたくさんある。この生地以外にも、さまざまなものを使い、その価値を発信したい」(高林ディレクター)。
全27ルックと比較的コンパクトな分、ブランドの強みを凝縮したコレクションだった。ランウエイでもリアルなスタイリングにこだわったため、ブランドのスタンスは多くに伝わっだろう。一方で、さらに振り切ったコーディネートを加えていくのも面白いかもしれない。
ステージ中央に複数のマイクを置く演出には、“声なき声を届ける”という思いを込めた。終盤に登場したモデル数人は「笑顔あふれる、カラフルな世界を」「フレッシュなエナジー」などのメッセージを伝えた。
ショー後の二人に感想を聞くと「この後の打ち上げが楽しみ。来ます?(笑)」と冗談混じりに答えてくれた。アパレル未経験から急成長を遂げてきた同ブランドは、これからどんな世界を見せてくれるのか。未来に向けて歩み始めた、二人の将来が楽しみだ。