非営利シンクタンクのグローバル・ウエルネス・インスティテュート(Global Wellness Institute以下、GWI)とウエルネス業界の国際会議グローバル・ウエルネス・サミット(Global Wellness Summit以下、GWS)が発表した「ウエルネスの未来 トレンド2024」および「世界のウエルネス経済:国別ランキング」に関する最新レポートによると、パーソナルケアや美容、スパ、オフィスウエルネスなどのカテゴリーはコロナ禍後の回復がやや遅れており、ウエルネスツーリズムは完全には復調していない。しかし同機関は、米国のウエルネスツーリズム市場は今年回復し、コロナ禍前の水準を超えると予測している。市場規模の国別ランキングは上位から米国、中国、ドイツ、日本、イギリスの順だった。
ウエルネス不動産やメンタルウエルネス領域が急成長
スージー・エリス(Susie Ellis)GWS・GWI会長兼最高経営責任者(CEO)は、「世界のウエルネス市場は22年に5兆6000億ドル(約840兆円)に達した。昨今、ウエルネス不動産やメンタルウエルネスなどの主要カテゴリーが急成長していることから、27年までに8兆5000億ドル(約1270兆5000億円)に達するだろう」と予想している。
リラックス系とハードコア系に二極化
24年のウエルネストレンドは、Z世代を中心に注目を集めるベッド・ロッティング(ストレス解消を目的に一日中ベッドで過ごすセルフケア)やホット・ガール・ウォーク(ポジティブ思考に集中しながら行う散歩)などのリラックス系と、バイオハッキングや長寿クリニックなどのハードコア系の二極化が進む傾向が顕著で、どちらも今年は成長が見込まれるという。
「ウエルネスの未来 トレンド2024」
1. 気候変動への適応
昨年の記録的な猛暑や現在も続く山火事などの気候変動を受け、ウエルネス業界は温度調整機能のある衣類や建築デザイン、都市計画、公衆衛生政策を通じて、暑さに対処する方法を模索している。“クールケイション(cool-cationing)”として、涼しい地域でのバケーションや、フルムーンヨガ、天体観測などの夜間のアクティビティーの人気が高まりそうだ。
2. 巡礼道を歩くリトリート体験
昨年、ホット・ガール・ウォーク(ポジティブな思考に集中しながら行うウォーキング)がトレンドになったように、ウエルネスリトリート(非日常の環境に身を置き自分の心の内側に目を向けること)はさらに進化を続け、最近は古代の巡礼道を利用した新しいコースが次々に誕生している。GWIのベス・マクグロアーティ(Beth McGroarty)調査・予測担当副社長によると、「スピリチュアルな探求と文化遺産を満喫できる数日間のハイキングに訪れる旅行者は記録的な数に達している」という。
3. 男性向けウエルネスツール
男性がウェルビーイングを実践するためのツールの普及は発展途上だが、最近は「エヴリマン(EVRYMAN)」や「ジュント(JUNTO)」など男性向けウェルネスプラットフォームや男性専用メンタルヘルスアプリが定着しつつある。
4. 産後ウエルネス
米国では産後ケアにまつわるウエルネスサービスが確立しつつある。出産する妊婦を対象とする骨盤底筋トレーニングやメンタルヘルスアプリ、出産する両親を対象とするリトリートなどがある。
5. 長寿
近年、「長寿」というキーワードが注目を集めている。通常の医療がリアクティブ療法(症状が出た時に症状を抑える治療)に重点を置いているのに対し、「ファウンテン ライフ(FOUNTAIN LIFE)」などのウエルネスクリニックや家庭用検査サービスの登場により、質の高い生活をより長く送ることを目標とする積極的なアプローチが注目されている。
6. 肥満治療薬の進化
医薬品「オゼンピック(OZEMPIC’S)」の大幅な進化や、製薬会社イーライリリー(ELI LILY)による安価な肥満治療薬「ゼップバウンド」の開発など、ボディーポジティブ運動の影響によりしばらく下火になっていたダイエットに関する話題が再び注目を集めている。新薬や服用者に向けて開発されたフィットネスプログラムが今後成長すると予想される。
7. スポーツ×ホスピタリティー
フィットネスやアクティビティー、ウエルネスをコンセプトにしたホスピタリティーリゾートホテル「シロ(SIRO)」の登場や、ラケットスポーツのピックルボールの米国におけるブームにより、ホスピタリティー業界ではスパなどの伝統的なサービスと並びスポーツとホスピタリティーの融合が注目されている。
8. 健康ハブとしてのハイテク住宅
ウエルネス不動産市場は27年までに8875億ドル(約133兆1250億ドル)に達すると予想されており、住宅はデバイスやスマート家具を備えたハイテク化がさらに進むと見られる。今後5年間で、さまざまなヘアルスケアの45%が自宅で行われるようになるだろう。
9. 多感覚没入型アート
ウエルネスとアートが融合し、新たなタイプのインタラクティブ体験が生み出されている。美術館でのインタラクティブな展示やウエルネスプログラム、病院にウエルネスやアートセラピーの推進が期待される。
10. 昨年から続くトレンド
エリス=会長兼最高経営責任者は、23年に開催したGWSから今後数年間に主要なトレンドとなる可能性があるものを指摘している。シンガポールが新たなブルーゾーン(長寿地域)として台頭することや、メンタルヘルスがウェルビーイングの重要なテーマであることから10代の若者がウエルネストリートメントを受けられるようにすることなどを挙げた。