ファッション
特集 東コレ2024-25年秋冬

東京では別格 「世界基準」の「ハルノブムラタ」に望むストレートな“らしさ”の表現

背景にあるカルチャーや形成するコミュニティーも含めて魅力という東京ブランドが多い中で、洋服単体で勝負できるブランドは決して多くない。まして世界で戦うとなると、なおさらだ。そんななか「ハルノブムラタ(HARUNOBU MURATA)」の2024-25年秋冬コレクションは、「世界基準」という言葉を連想させる。潔いミニマルなデザインと、だからこそ引き立つ上質な素材感は、東京においては他の追随を許さない。

革新的に新しいかと聞かれたら、そうではない。ただエレガンスは、いつの時代も変わらない。それが今シーズンの印象だ。今回は写真家オーギュスト・ザンダー(August Sander)による「舞踏会に向かう三人の農夫」という写真にインスピレーションを得たという。肉厚なダブルフェイスのウールで作る、大きな襟を持つリラックスシルエットのコートなどは、3人の農夫の装いにヒントを得たもの。実際、三人の農夫は、流線型のコートなどは着ていない。彼らはいずれもブラックのセットアップに襟高のホワイトシャツ、タイドアップして帽子にステッキという出立だ。そして畑の“あぜ道”のようなところで撮影したモノクロの写真の中で、漆黒のセットアップに合わせた純白のシャツの襟は光輝き、そんな正装をまとった彼らは自信を持ち誇らしく映っている。この襟の輝かしい様、そんなシャツを着た農夫の誇らしい姿を、襟が巨大化したエレガントなコートなどで表現したのだろう。農夫が正装に喜びを見出したように、「ハルノブムラタ」のコートで幸せを感じてもらいたい。そんな思いがうかがえる。モヘアで作ったボアのコートなども、厳しい寒さを耐え抜く農夫たちに想いを馳せることで生まれた。シルクコットンに加えた花柄は、時代によって繰り返される繁栄と退廃を表現すべく、あえて掠れたムードに仕上げた。大きな襟を彩るメタルのボールも、時の流れを表現しているという。

得意の1枚の布を流動的にカットしたクリエイションの真骨頂を発揮した。と同時に、出自でもある「ジル サンダー(JIL SANDER)」が近年脱ミニマリズムする中で空白域になっているスタイルを提案しているようにも思えるし、忌憚なく言えば「ザ ロウ(THE ROW)」なども頭に浮かぶ。こうしたブランドが頭に浮かぶことこそ、すでに「世界基準」なのだろう。

だからこそ、時には“だし”とか“禅”のように奥ゆかしく日本らしい美学を逸脱して、自分らしさをストレートに表現して欲しい。前回、色鮮やかなドレスに魅了されただけに、そんなことも考えた。

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