ファッション業界のご意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。アパレルSPA(製造小売業)の売上高1位に君臨する「ザラ」のインディテックス(本社スペイン)の2024年1月期決算が発表された。売上高の成長もさることながら特筆すべきは圧倒的な収益力である。どんな秘密があるのか、小島氏が詳しく分析する。
「ザラ(ZARA)」を運営するスペインのインディテックス(INDITEX)が3月13日に発表した24年1月期決算は売上高から純利益まで過去最高という絶好調で、H&Mやファーストリテイリングを引き離して圧倒的な強さを見せつけたが、決算報告を仔細に読んで過去の業績と比較すれば「揺るぎない強さ」の秘訣と限界が見えてくる。
増収増益でリードを広げた24年1月期決算
インディテックスの24年1月期決算は売上高が10.4%増(現地通貨ベースでは14.1%増)の359億4700万ユーロ(5兆4618億円※)、営業利益(EBIT)が23.4%増の68億900万ユーロ(1兆346億円)、営業利益率は2.0ポイント上昇して18.9%、当期純利益は30.3%増の53億9500万ユーロ(8197億円)、純利益率は2.3ポイント上昇して15.0%と、圧倒的な強さを見せつけた。
23年11月期のH&Mの売上高は5.6%増の2360億3500万SEK(3兆1256億円)、営業利益は102.8%増の145億3700万SEK(1925億円)、営業利益率は3.0ポイント上昇しても6.2%、当期純利益は145%増の87億2300万SEK(1155億円)、純利益率は2.1ポイント回復しても3.7%と、ようやくコロナから回復した病み上がりは否めない。売上高はコロナ前をようやく超えても収益力は戻らず、インディテックスの背中はさらに遠くなった。
23年8月期のファーストリテイリングにしても、売上高が20.2%増の2兆7666億円、営業利益が28.2%増の3811億円、営業利益率は0.9ポイント上昇して13.8%、当期純利益は10.7%増の3152億円、純利益率は1.0ポイント低下しても11.4%と、全ての指標がコロナ前を大きく超えて再拡大に転じているが、国内ユニクロ事業が足を引っ張っている。売上高の差は多少縮まっても収益力の格差は依然大きく、容易に縮まらないままだ。
※為替レートは23年平均で統一し、ユーロは151.94円、SEKは13.242円で計算
損益構造もリードを広げた
粗利益率は57.8%と0.8ポイント上昇してH&Mの51.2%(前期比0.5ポイント上昇)、ファーストリテイリングの50.9%(前期比0.5ポイント低下)との格差はさらに開いた。後述するようにメーカー発祥のインディテックスのモノ作りは小売発祥のSPAとは次元を画して生産プロセスに踏み込んだもので、コスパよりタイパを優先するロジスティクスもあってロスも限定されるから粗利益率が高い。小売系SPAとも競合するアジア生産のカジュアル単品はともかく、パーツ供給して工賃払いするミルクラン圏※1.生産のテーラード/ドレスアイテムは60%を超えていると思われる。
販管費率も38.8%(おそらく上場来最低記録)と1.1ポイント低下して、単品セルフ販売のファーストリテイリングの38.1%(前期比1.0ポイント低下)と大差なく、1.5ポイント改善されても45.9%と運営コストのかさむH&Mを突き放している。両社と比較しての商品単価の高さに加え、売上の25.3%を占めるオンライン販売をFC※2.(フルフィルセンター)出荷でなく店舗在庫引き当ての店舗受け取り・店舗出荷に徹していることも販管費率を抑制している。
インディテックスの営業利益率は18.9%と2.0ポイントも上昇して13年1月期の19.5%に迫り、6.2%に回復したH&M、0.9%上昇して13.8%となったファーストリテイリングを依然、大きく引き離している。メーカー系と小売系のモノ作り体制の格差、オンライン販売の店舗在庫引き当てとFC在庫引き当ての格差がある限り、収益力の格差は縮まらないのではないか。
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