「ピガール(PIGALLE)」の創設者兼デザイナーで、今年パリで開催する夏季オリンピック・パラリンピックのフランスチームのアーティスティック・ディレター兼シニア・デザイナーを務めるステファン・アシュプール(Stephane Ashpool)が、同チームの公式ウエアを公開した。
アシュプールは、同大会の公式サプライヤー「ルコックスポルティフ(LE COQ SPORTIF)」と共同開発。ファッションとエレガンスの象徴、華の都パリのきらめきに着想し、スポーツや文化を通じた“多様性”と“団結”をたたえるデザインが、アスリートたちの身体を彩る。
「国旗を壊したい」というアシュプールの意向を反映したグラデーションカラーは、フランスの多様性を表現。トリコロールの各色を線で区切らずシームレスに混ぜ合わせることで、玉虫色にも見えるブルーから深いレッドへと変化する鮮やかなグラデーションを作り出した。アシュプールはデザインについて、「イギリスなどと同様に、私たちは多様性に満ちている。この色味は、肌の色だけでなく、身体の多様性も表現している」と語っている。
こだわったのはウエアの現地生産
フランスの工業活性化への布石となるか
「ルコックスポルティフ」が同大会の公式サプライヤーとなったのは、アシュプールにとって最大の懸案事項だった「ウエアの現地生産」をブランドが約束したことが大きい。特殊なファブリックの生産に地元の工場を採用するのは大変だったが、生産管理の点からも利点は多く、再工業化を推し進める国の意向ともうまく合致した。
例えばフランスは、柔道競技で56個のメダルを獲得してきたが、道着をフランスで生産したことはなく、日本からの調達でまかなってきた。そこでアシュプールと彼のチームは、道着のパターン制作に取り組み、地元のスポーツチームとの試作を経て、オリンピックの公式仕様に合わせて生産した。
アシュプールは今回の事例が今後、他のブランドも生産拠点を国内に戻す刺激になることを期待している。「この仕事が成功すれば近い将来、ファッションの現地生産が可能になるだろう。すぐ近くに刺しゅう技術のある工場があれば、地球の裏側の工場に依頼しようとは思わないはずだ。私たちの産業をフランスに取り戻したい」とアシュプールは言う。
国内で存在感を高める
ステファン・アシュプールの今後は
オリンピックの準備のため「ピガール」は1年間休止しているが、「ピガール ショップ(PIGALLE SHOP)」は若いデザイナーズブランドを紹介すべく営業を続けてきた。そんな「ピガール ショップ」も現在は改装のため休業中で、オリンピック・パラリンピックの大会期間に合わせて再度オープン予定だ。
アシュプールは近年、「ピガール」のブランド名ではなく自身の名前を頻繁に使うようになっており、間もなく大手メゾンのサポートを受けることになるという。今年1月の時点で米「WWD」のインタビューに対し、「その発表は間もなく」と語っている。3月27日からパリの19Mギャラリーで開催されている展覧会「自由なかたち:ステファン・アシュプール(Figure Libre. Stéphane Ashpool)」では、そんなアシュプールの仕事が紹介されており、今後の活動からも目が離せない。
なお公開イメージの中には、各競技連盟と共同で開発した60種目以上のオリンピック・パラリンピック競技用ウエアのほか、アスリートたちが選手村や表彰台、開閉会式やメディア対応などで着用するウエアも含まれている。2年の歳月をかけて開発した選手村用のフリースウエアは、エコロジカル・フットプリントを大幅に削減するなど、環境に配慮している。これらのウエアはパリ五輪の公式ショップおよび「ルコックスポルティフ」のブティックで購入可能だ。