ビューティ

BTSやEXOのヘアスタイリスト、パク・ネジュ K-POP発のトレンドヘアができるまで

パク・ネジュ/ヘアスタイリスト・「ビット&ブート」共同創業者兼共同CEO

PROFILE:EXOやBTS、パク・ボゴムをはじめ、韓国のさまざまなアーテイスト・俳優を担当しているトップヘアスタイリスト。サロン勤務、アシスタントを経てフリーランスに転身し、名だたる芸能人のヘアスタイリングを約20年間手掛けている。 2018年に韓国・清潭洞(チョンダムドン)で美容室「ビット&ブート」をオープンさせると、清潭洞で売上No.1になるまで成長させた。世界的に活躍する今も、常に新しい技術を研究・提案し、話題のヘアスタイルを作り出している。公式ユーチューブ登録者数は20.3万人(24年3月現在)PHOTO:TAMEKI OSHIRO

芸能人御用達サロン「ビット&ブート(Bit & Boot)」の共同創業者兼共同CEOであるパク・ネジュ(Park Naejoo)は、BTSやEXO、NCT、ルセラフィム(LE SSERAFIM)、パク・ボゴム(Park Bo Gum)ら、数多くのK-POPアーティストや俳優のヘアを手掛ける人気ヘアスタイリストだ。今やK-POPアーティストのヘアスタイルは、トレンドの源泉。MVや音楽イベントではそのヘアスタイルに多くの注目が集まり、瞬時に拡散され、世の中に広がっていく。これまで数多くのヘアスタイルを生み出してきた同氏に、K-POP界のトレンドヘアを生み出すまでの背景や、自身のキャリアについて聞いた。

EXOとBTSはデビューから担当

EXOのベクヒョン
パク・ネジュのインスタグラム(@bit.boot_naejoo)より

WWDJAPAN(以下、WWD):キャリアについて教えてほしい。

パク・ネジュ「ビット&ブート」共同創業者兼共同CEO(以下、ネジュ):ヘアスタイリングに興味を持ち始めたのは高校2年生のころ。卒業後の進路について考えたときに、技術を生かせる業界で働きたいと思ったことがきっかけだ。ヘアスタイリストになってからは、ソウル近郊のアニャン(安養市)のサロンで10年ほど働いていた。その後、ソウルに上京して恩師イ・へヨン(Lee Hye Young)さんに出会い、彼女のアシスタントとしてファッション誌などの撮影に携わるようになった。独立後はフリーランスとして活動しながら、EXOやBTSのヘアなどを担当し、2018年にメイクアップアーティストのウォン・ジョンヨ(Won Jungyo)さんと、ヘアメイクサロン「ビット&ブート」を設立した。

WWD:EXOやBTSを担当することになった経緯は?

ネジュ:フリーランスになって最初のクライアントがEXOだった。当時SMエンターテインメントのクリエイティブ・ディレクターだったミン・ヒジン(Min Hee Jin)さん(現HYBE傘下の新レーベルADOR代表、NewJeansの産みの親)から、「EXOというボーイズグループがデビューするから、チームに加わってほしい」と連絡があり、デビュー前から現在に至るまで担当している。BTSは、ビッグ・ヒット・エンターテインメント(HYBEの旧社名)のビジュアル・ディレクターを通じて依頼を受け、デビューから携わっている。

WWD:ウォン・ジョンヨ氏とサロンを立ち上げた理由は?

ネジュ:彼女とは、お互いTWICEのヘアとメイクを担当していたので、旧知の仲だった。アーティストの担当になると、アルバムや広告など関わる案件が増えるのでチームで動く。関わるチームメンバーも徐々に増えていき、場所を確保するためにも一緒にサロンを立ち上げようという話になった。そして、18年にヘアメイクサロン「ビット&ブート」を設立した。サロン名は、姉のような存在の女性がプレゼントしてくれた名前だ。ビットは韓国語で“櫛(くし)”、ブートは“筆”を意味しており、それぞれヘアとメイクで使う大切な道具。その発音を英語表記にした。6つほどの候補のトップにこの名前があり、最初は店名が「くし&筆」なんてどうかと思ったが(笑)、EXOのベクヒョン(BAEKHYUN)が「すごくいいじゃん!」と言ってくれたことが後押しになった。

アルバム撮影の数カ月前から
徹底したイメージ戦略

ルセラフィム
パク・ネジュのインスタグラム(@bit.boot_naejoo)より

WWD:アーティストのヘアスタイルは、どのようなプロセスを経て作っている?

ネジュ:基本的には、アーティストが所属する事務所のビジュアル・ディレクターとそのチームとやりとりをしながら決めていく。ニューアルバムのジャケット撮影の4、5カ月前から準備に取りかかる。まずビジュアル・ディレクターから新曲・アルバムのコンセプトイメージを伝えられ、それを基にスタイリストやヘア&メイクアップアーティストが各自参考イメージを持ち寄り、パズルのようにはめ込んでいく。方向性がある程度固まってきたら、どのメンバーにどのスタイリングをするかなどを話し合う。対面やオンライン、カカオトーク(韓国のメッセンジャーアプリ)のグループチャットで頻繁にディスカッションして情報共有し、ブラッシュアップしていく。アーティストの意向をくむこともある。

WWD:一番アイデアをくれるアーティストは?

ネジュ:EXOのベクヒョンやルセラフィムのサクラはいろいろなアイデアを出してくれるので、意見を交換してやりとりしながら決めることも多い。逆に、EXOのカイ(KAI)やBTSのジョングク(JUNG KOOK)は、こちらが準備したアイデアに「いいね!そのアイデアで行こう!」と乗ってくれるタイプだ。

WWD:綿密なイメージ戦略は韓国独自のもの?

ネジュ:昔からある韓国独自のシステムというよりは、ようやく定着したと言えるかもしれない。ビジュアル・ディレクターが指揮を執り、アイドルやアーティストのイメージを作り込んで売り出すコンセプト戦略が、この5、6年で本格的に取られるようになっていった。俳優の場合も、次の映画やドラマの出演作の役柄に合わせたスタイリングで雑誌の撮影やプロモーションを行う。彼らの従来のイメージを覆すきっかけにもなり、有効的だ。

WWD:グループだと人数も多いので大変だ。

ネジュ:おっしゃる通りとても忙しくなるので、「ビット&ブート」では各担当アーティストのチーム内で分業している。私のチームは7人で、その他ヘアスタイリストとしてメインで動くスタッフが15人ほど在籍している。彼らの下でもろもろの作業をするメンバー、そしてスケジュールを管轄するマネジメントチーム12人を含め、合計約70人のチームだ。それぞれが世界中を飛び回っているので、国内では顔を合わさないメンバーも多い。昨年の11月末に日本で行われたK-POPイベント「MAMA AWARDS」で、私はホストを務める俳優パク・ボゴムのヘアを担当し、同じ会場にルセラフィムのチームもいて、約2カ月ぶりに再会した。こういったことが珍しくない。

WWD:「ビット&ブート」の強みをどう捉えている?

ネジュ:アーティストを担当すると、ワールドツアーやプロモーションで世界中を一緒に回ることになる。海外活動を含むスケジュール管理や、現地対応に長けたサロンは、韓国にはまだ少ない。「ビット&ブート」ではスタッフ教育に力を入れていて、カラーやカットはもちろん、撮影時のスタイリングやシーズンごとのトレンド共有を徹底している。グローバルに活動する芸能人を担当することが多いので、海外の会場での動線や進行に慣れており、経験値に基づいたマネジメント力や現場での対応力には韓国以外の芸能事務所も信頼を置いてくれていると感じる。

ウェス・アンダーソン作品や
アニメをヒントに

BTSのジョングク
パク・ネジュのインスタグラム(@bit.boot_naejoo)より

WWD:ヘアトレンドを生み出す側として意識していること、そしてインスピレーション源は?

ネジュ:パリやミラノ、ロンドン、ニューヨークのファッション・ウイークは常にチェックしている。個人的にはヨーロッパのヘアスタイルに注目することが多い。映画からはあまり影響を受けないが、ウェス・アンダーソン(Wes Anderson)監督作品のファンタジックな世界観は好きでよく見ている。女性のヘアスタイルは、日本のアニメがテクスチャーや色を考える際に参考になっている。ヘアスタイルは2Dで考えることが多く、アニメのキャラクターのヘアのテクスチャーをアングル別にチェックし、3Dに落とし込んでいく。集約したイメージを分類していくと、自分がどのようなヘアスタイルが好きで、どこに価値を置いているかが見えてくる。それがヘアスタイリスト独自のスタイルにつながっていくと思う。

WWD:ヘアスタイルで意識していることは?

ネジュ:それぞれの個性を生かすカスタマイズ技術はもちろん、ファッションとどうリンクさせるか、そして形を決め込むよりも、質感や雰囲気を重視している。ナチュラルだがテクスチャーがあり、どこかしらにポイントのあるヘアが私のスタイルだ。誰が見ても“パク・ネジュが手掛けたヘアスタイル”だと分かるように意識している。

WWD:アーティストのヘアスタイルで印象に残っているエピソードは?

ネジュ:BTSのジョングクが兵役前に急きょLAでの撮影が決まり、私は日本での「MAMA AWARDS」の仕事が終わり次第LAに向かった。すると、ジョングクが前髪だけすごく短く切っちゃっていたんだ(笑)。そのヘアをきれいに整え、丸刈りにするところまでを私が担当した。

WWD:世界的に人気のK-POPアーティストたちは自身にとってどのような存在?

ネジュ:私が担当しているBTSやEXO、ルセラフィムらは世界的なアーティストだが、特別視はしていない。私にとっては、第一線で活躍しているアーティストというよりも、ノーメイクで帽子をかぶり、スリッパを履き、リラックスして現場に入ってくる印象の方が強く、一緒に仕事をする仲間だ。有名になり、肩に力が入っているアーティストほど長続きしないことをすでに見てきたので、謙虚な姿勢が大事だと常に話している。それはスタッフにも通じることだ。

WWD:今後挑戦したいことは?

ネジュ:私がプロデュースしたヘアケアブランド「ネジュ(NEJOO)」を昨年7月に韓国で発売した。洗い流さないヘアトリートメントで、ありがたいことに大変反応が良く、日本での展開も進めているところだ。3月下旬に日本の皆さんに発表できることを楽しみにしている。

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