3月22〜24日にアジアで初開催されるポップカルチャーの祭典「コンプレックスコン(COMPLEX CON)の取材で香港を訪れた。
世界的にスニーカーがダウントレンドとなる中、コンプレックスコンは次なる「ハイプ」を求めている。おそらくその最有力候補がアートなのだろう。米国以外で初開催となるコンプレックスコンが香港を選んだ背景には、同国がアートシティとして世界で存在感を高めていることがある。アジアでも屈指の規模のギャラリーや美術館が集積し、今月28日からは、アートの世界的イベント「アート・バーゼル」も開幕を控えている。
そんな香港で、コンプレックスコン取材の合間に、個人的に一度は訪れてみたいと思っていた施設への訪問がかなった。それが2019年に開業した、物販とアートを中核とした複合施設「K11 MUSEA(以下、K11)」だ。開業してすぐにコロナ禍に突入してしまったため、まだ目にしたことがないという日本人も多いだろう。結論から言えば、まさにアートシティ香港を象徴するようなラグジュアリーっぷりに衝撃を受けた。
ハーバービューもそっちのけ
建物がアートの佇まい
「K11」は香港最大手デベロッパーの新世界発展が運営し、香港の中心地・尖沙咀のウォーターフロントにそびえ立つ。海岸沿いのウッドデッキでは、ヴィクトリア・ハーバーの眺めもそっちのけで、K11にスマホカメラを向ける観光客もちらほら。それもそのはず、K11はその佇まいからして普通の商業施設とは全く違うのだ。有機的な曲線と直線を組み合わせた建築自体がもはやアート。館に足を踏み入れる前からワクワクさせてくれる。
海外ラグジュアリーは網羅
MZ世代に人気の韓国ブランドまで
まずK11の“商業施設”としての基本ステータスを紹介すると、延べ床面積は約32万平方メートル(地下3階〜地上7階)。ここには映画館などのエンタメ施設、オフィスなども含まれるが、単純比較では同じ複合施設である東京ミッドタウン(約28万平方メートル)を上回る規模だ。
テナントのラインアップも文句なしの充実度。有名どころの海外ラグジュアリーブランドは、いちいち名前を挙げるまでもなく網羅している。「チャールズ&キース(CHARLES & KEITH)」など比較的リーズナブルなブランドから、アジア圏のMZ世代の女性に人気の韓国ブランド「マルディ メクルディ(MARDI MERCREDI)」まで、ファッション、ビューティ、ライフスタイル問わず充実する。個人的には、日本では薬事規制で難しいような、その場で肌診断&処方してくれる化粧品ショップが気になった。
150点以上のアート作品を展示
美術館顔負けの空間設計
K11は中文表記で「人文購物藝術館」。日本語に直すと「買い物ができる美術館」といったところだ。近年は日本でも、アートを客の呼び水にする商業施設がある。ただ、K11はアートを付け焼き刃で使うのではなく、設計段階から建物の隅々まで染み渡らせている。K11の建設には100人以上のデザイナーや建築家が携わり、施設全体では150点以上のアート作品があるそうだ。
美意識は館の中に滲み出し、リアルの場で買い物をする楽しさを思い出させてくれる。K11ではフロアごとにテーマを設けて編集するだけでなく、「MUSEA EDITION」という館を縦割りした独立区画が存在する。この区画には、ウォールアートやオブジェが共用部の随所に散りばめられ、その中にアートやカルチャーを扱うイケイケなセレクトショップが並んでいる。
スーベニアショップのように
買い物心をくすぐられる
個人的な話になるが、美術館に行くと、スーベニアショップに必ず立ち寄るフシがある。作品をたっぷり鑑賞した後に関連グッズを見ると、ついつい「記念に」とポストカードや図録などを買ってしまう。まさに、それに近い感覚だ。K11という美術館の世界観に浸ったあと、「せっかく来たなら、自分用ではなくてギフトでも……」。そんな気持ちにさせられる。
一つリクエストがあるとすれば、建物の広さの割に案内サイネージが少ないこと。日本の百貨店のような、どこを切っても金太郎飴のような内装(失礼)とは違うため、「自分が今どこにいるのか?」が分からなくなり、結構迷ってしまうのだ。
ただ長所は短所の裏返しとよく言ったもの。これも個人的には「回遊する楽しさ」に感じられたので結果オーライだ。美術館で作品鑑賞に夢中になっていると、いつの間にやら順路から外れてしまうことがよくある。ウロウロした末に、「あ、ここはまだ通ってないエリアだ!」と気づいたときにテンションが上がる感覚といえば、分かってもらえるだろうか。それともこれは、勘が悪い自分だけが感じられる特権だろうか。
コスパはともかく業界の関係者は必見!
歩いて回るだけでも一苦労のK11だが、幸い飲食業態が館のいたる所にあり、休憩や小腹を満たすのには事欠かない。しかしもともとの価格相場が高い上に、円安も相まって財布にクリティカルヒット。記者が食べたクラブサンドは日本価格で3000円ほどだった。これでも一番安いものを選んだのだが......。
訪日客への買い物スポットとして、手放しでは勧められないのは事実。懐事情と十分に相談した上で決めてほしい。ただ「美術館巡りも一緒にできる」という強引な理論で考えれば(しかも“入館料”は無料)、実は“お得”なのかもしれない。
もちろんK11の贅沢な空間設計と内装は、大手の資本力、富裕層が集まる香港だからできること。ただそれを抜きにしても、商業施設開発や店舗の空間設計に携わる方々にとって、一度は訪れる価値のあるラグジュアリーモールであることは間違いない。