ビジネス

多角的なアプローチでコミュニティー活性化へ インスタグラムやスレッズの現在地は?

フェイスブック(Facebook)やインスタグラム(Instagram)など、2021年にフェイスブック(Facebook)から社名変更したメタ(Meta)が保有するSNSプラットフォームは、時代とともにアップデートを重ねてきた。テキストベースの新プラットフォーム・スレッズ(Threads)の登場のほか、新VRヘッドセット“メタクエスト(Meta Quest) 3”も発売し、人々の生活にさらなる変化をもたらしている。これらは全て、メタが掲げるミッション「コミュニティーの活性化」へとつながる。メタの日本法人フェイスブック ジャパンで「グローバルパートナーシップ」チームに所属する大平かりん氏に、コミュニティーに対する取り組みを聞いた。

PROFILE: 大平かりん/メタ グローバルパートナーシップ担当

大平かりん/メタ グローバルパートナーシップ担当
PROFILE: (おおひら・かりん)マガジンハウスが発行する「ブルータス」「ギンザ」のエディターとして活動後、2022年からメタの日本法人フェイスブック ジャパン(Facebook Japan)で「グローバルパートナーシップ」チームに所属。趣味はファッションで、365日違うコーディネートをまとうことを公言。インスタグラムは@ko365d

オンライン&オフラインを両立した取り組みで
コミュニティーの活性化を実現

WWD:さまざまなSNSプラットフォームが登場する中で、メタのソーシャルアプリはどのようなテーマを掲げるか?

大平かりん(以下、大平): メタは“コミュニティーづくりを応援し、人と人がより身近になる世界の実現”をミッションとして掲げる。特にインスタグラムは“ビジネス活用の面において「好き」と「欲しい」をつなぐ自分ごと化プラットフォーム”として、利用者の興味・関心と関連性の高いコンテンツを高い精度で表示し、アクションにつなげることが可能だ。

WWD:所属する「グローバルパートナーシップ」チームではどのような取り組みを行うのか?

大平:「グローバルパートナーシップ」は、プラットフォームでのコミュニティーを盛り上げることが目的だ。私達がパートナーとして組むのは、著名人、文化人、アスリートと言った、メタのプラットフォームを使用するクリエイター達とメディア。クリエイター達がプラットフォームを活用する中で、夢や目標がかない、ビジネスが成功するための支援を行う。

具体的には、クリエイター向けのオンラインセミナー「Master Class」の開催をすることでクリエイターやメディアのソーシャル担当向けに、新機能や活用事例などを紹介したり、受講者から寄せられる質問に答えたり、「こういう機能があったらうれしい」などの要望をヒアリングし、プロダクトチームへ伝えるほか、クリエイターと企業の協業のサポートを行うこともある。この際、ただクリエイターを紹介するだけではなく、コラボレーションすることで双方が目指すゴールを実現するための方法を一緒に考え、ベストな方向へ導くための支援も行う。

また、クリエイターとファンがリアルで交流でき、新たな挑戦をする場として、オフラインでのイベントも行ってきた。昨年3月には渋谷109(8階)に“クリエイターコラボレーションスペース”を設置していた。

さらに、今年は文化服装学院での特別講義「Meta 次世代クリエイター支援プログラム」もスタートする。6月から開講する全6回の講義で、約20人を対象としている。自身のブランドを立ち上げたファッション系クリエイターや、生成AIやNFTなど新しいテクノロジーを取り入れたアート表現に挑戦するクリエイターなどを特別講師として招く予定だ。

インスタグラムにおいて昨年見られた成長と新機能

WWD:この一年、インスタグラムではどのような成長が見られた?

大平:メタのプラットフォームは、23年9月時点で利用者数が全世界で39.6億人を突破するなど、国内外で順調に拡大している。広告売上高も全体として前年同期比24%増と増加傾向にあるように、多くの企業がインスタグラムやフェイスブックを活用してビジネスを成長させてきた。

20年8月にリール機能をローンチして以来、インスタグラムの利用時間が40%増加(※23年第3四半期決算時点)し、プラットフォーム全体の成長に大きく貢献している。 特に昨年はリールが最も成長した年で、フェイスブックとインスタグラム全体で1日あたり2000億回以上再生(※23年第2四半期決算時点、以下同)され、ビジネスでの活用も増えている。22年10月から11 月に実施したオンライン調査によると、リールを見たあとにビジネスアカウントをフォローしたことがある利用者は56%、リールを見た後に商品やサービスを購入したことがある利用者は53%と言う結果になった。マネタイズも順調に進み、アプリ全体の年間売上高は22年秋から23年春にかけて、30億ドルから100億ドルへと成長している(※)。

WWD:2023年に追加されたインスタグラムの新機能について知りたい。

大平:利用者がインスタグラムを開く理由のひとつに、クリエイターによるコンテンツを楽しむ目的がある。私たちはクリエイターが自分自身を表現して、ファンを獲得し、コミュニティーを育くむことで収益を得られるプラットフォームを作るためにさまざまな機能を継続して開発している。昨年は「サブスクリプション」「一斉配信チャンネル」「ギフト」機能を追加した。

2023年7月にローンチした新プラットフォーム
スレッズの展望

WWD:昨年は新たにスレッズが登場したことも話題になった。

大平:23年7月に提供を開始したスレッズは、インスタグラムのチームが開発したテキストでつながる新しいアプリだ。アカウントはインスタグラムとひも付き、双方のプラットフォームを行き来することができる。そのため、使い始めてすぐにある程度のオーディエンスを獲得でき、コミュニティーを構築しやすい。また、1投稿で使える文字数が500文字と他のテキスト型プラットフォームと比べて多いのも特徴だ。現在スレッズの世界のアクティブ数は1.3億に達し、大きな盛り上がりを見せている。特に日本はテキストでの表現を好む人が多い国でもあるため、非常に好調だと言える。

インスタグラム責任者のアダム・モッセーリ(Adam Mosseri)が、利用者に「どんな機能が欲しい?」などスレッズで呼びかけを行い、実際に新機能を拡充している。メタがコミュニティー活性化を大切にしているわかりやすい一例だ。インスタグラムでは交流がなかった利用者同士の間でも、スレッズをきっかけに新たな会話がたくさん生まれている。

将来的には非中央集権型のSNSプロトコル、アクティビティ・パブ(ActivityPub)に対応することにより、ドイツのソーシャルメディア・マストドン(Mastodon)や、コンテンツ管理システムであるワードプレス(Wordpress)といった他のアプリとの相互運用も可能になる予定だ。

WWD:現在スレッズには収益化機能がないが、今後拡充していく可能性は?
大平:広告を含むプラットフォームの収益化は、利用者体験を充分に構築した後に導入する予定だ。インスタグラムでもそうだったように、まずは利用者にとっての体験価値を構築することが優先事項であり、その上で利用者体験を損なわない形でビジネスに対する価値を提供する方法を検討するだろう。

リアルイベントや誌面との連動も
クリエイターと企業の協業事例

WWD:コロナ禍が明け、オフラインイベントの開催も増えた。SNSと連携することでどのような効果を得られるか?

大平:オフラインイベントの場合、現地に足を運べる顧客の数やキャパシティーなどの関係で、リーチできる人数が限定されてしまう。その様子をインスタグラムの公式アカウントや来場者のアカウントで発信する手法は一般的になっている。オンライン、オフラインで包括的に取り組むことで、より幅広い層ヘアプローチするのが効果的だろう。

SNSとリアルイベントを連動させ、より立体的に1つのストーリーを伝えることができている事例として私が印象的だったのは「ヴォーグ ジャパン(VOGUE JAPAN)」 のオフラインイベント「VOGUE ALIVE」。出演者である女性ダンスチーム・アバンギャルディのリール告知動画を最初に見た後、誌面のインタビューを読み、イベントのことを知った。その後オフラインイベントでのパフォーマンスがあり、その様子がリール動画として投稿された。この事例はリアルとSNS、さらに誌面までが効果的に連動し、それぞれのプラットフォームの強みや役割を活かしている。多くの人にリーチできるインスタグラムで企画の認知を広げ、誌面ではインタビューが展開。イベントでは会場に来た人だけが得られる特別体験を提供し、最後にまたインスタグラムでその様子を発信することで、より体験価値を高めることができた良い事例だ。

WWD:クリエイターを起用する上で企業が考えるべきポイントとは?

大平:まずは企業のターゲットが属する層に響くクリエイターを深く理解すること、そしてそのクリエイターのファンに届けるという考えを軸におくことだろう。「どういった表現方法が起用するクリエイターのファンに響くのか」を根底に持つことが、エンゲージメントを高めるための基礎になるはずだ。

例えば私が昨年サポートしたプロジェクトのひとつに、「レイ ビームス(RAY BEAMS)」とファッション系クリエイター数人にコラボしてもらい、同ブランドの商品を使ってコンテンツを制作してもらった事例が挙げられる。そのうちの1人、よしみ氏は起用したクリエイター達の中で突出してフォロワー数が多いわけではないが、彼女が制作したリール動画はエンゲージメントが非常に高く、取り組みをスタートした春夏シーズンだけでなく、秋冬シーズンでも継続してコラボをするに至った。

場合によっては、そのクリエイターが普段から一緒にコラボすることが多いビデオグラファーやヘアメイクなど、周囲のコミュニティーを巻き込むことも効果的だろう。渋谷パルコの50周年を記念した企画として「バーバリー(BURBERRY)」のアイテムを着用したクリエイター数名のリール動画を制作した際には、Miyu氏やKazuho Monster氏などダンサー達に参加してもらい、撮影は普段からダンサーの撮影を手掛けることが多いOTOME氏に依頼した。ファッションという、 ダンサーにとって異なるジャンルのコンテンツであっても、彼らの魅力を最大限に表現できるクリエイターを巻き込むことで、質の高い動画を制作することを可能にした。

WWD:今後、クリエイターやインフルエンサーを活用したマーケティング方法の需要はどうなっていくと考える?

大平:先述した通り、“利用者は企業からの発信と同じくらい、他の利用者やクリエイターの声を参考にしている”という結果が出ていることから、クリエイターマーケティングの重要性は年々高まっている。また、ブランドやビジネスからの一方的な情報発信だけでなく、クリエイターや利用者などのコミュニティーから各自の声で商品やサービスの良さを発信してもらうことで、意見や評価を共創し、相互性を持ちながらブランドの価値を高めることができるだろう。

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