PROFILE: nina/アーティスト
東京都神保町に3月14日に新しくオープンしたギャラリー「New Gallery」。そのオープニングを飾るのは、YOASOBI「夜に駆ける」やAdo「私は最強(ウタ from ONE PIECE FILM RED)」、山下達郎「さよなら夏の日」などのMVでアニメーションを手掛けた注目のアーティスト、ninaだ。
同氏はMVのほかにも2021、23年に「コーチ(COACH)」のPOPUP展でインスタレーションを担当するなど、アニメーション以外にもイラスト、漫画など、幅広く活動している。2023年11月には、「藍(あい)にいな」からninaへと改名し、新たな挑戦を続けている。意外にも今回が初の個展だというninaに、今の想いを聞いた。
WWDJAPAN(以下、WWD):今回、ninaさんにとって初の個展ですが、活動歴から考えると初個展というのは意外でした。
nina:これまでも個展はずっとやりたいとは思っていたんですが、なかなか腰を据えて自分の作品を制作する時間が取れなかったんです。そんな中で、実際に個展をやろうと決めたのは約1年前で、それと同じタイミングで展示会場である「New Gallery」から「オープニングで展示をやりませんか」とお話をいただいて、このタイミングで初の個展を開催することになりました。初めてということもあって、結構ギリギリまでタイトルを考えたり、作品を作ったりしていました。
WWD:昨年11月には「藍にいな」から「nina」に改名しましたが、どんな理由からだったんですか。
nina:藍は英語で「AI」と書きますが、人工知能の「AI(エーアイ)」と混同されてしまう可能性があって。海外でも活動も広げていきたいというのもあり、AIイラストなどのAI技術が注目されている中で、「AI」と名前ついていることが今後障壁になるかもしれないと思い、ninaにしました。
WWD:なるほど。今回の個展タイトルである「AfterBirth」に込めた想いは? 改名もあって、生まれ変わる的な意味合いもあったのですか。
nina:それはなかったですね。もともと個展の開催を決めた時から「身体性」をテーマにしたいと考えていました。日々デジタルなものやバーチャルなものに囲まれて生きている中で、人間としての軸を失いかけているような感覚があって。そこから、軸である「身体を忘れたくない」という思いが芽生えました。本来の自然を切り離したくない、という気持ちだと思います。
ただ、完全な生身としての身体であったり、ネイチャーとしての自然とはまた 違うと考えています。私自身、幼い頃からコンピューターやインターネットに 触れて育っているので、それも自分にとって自然なものであって、切り離せな いものです。そうした自分が抱えている矛盾や、自然との距離感を考えた時に 「AfterBirth」という言葉に出会いました。
「AfterBirth」はもともと医学用語で、日本語だと後産(あとざん)。出産直後に、子宮から排出される胎盤や胎膜の一部などを指す言葉なんです。生まれる前は自分の一部だったのに、生まれた瞬間から自分とは切り離されている、というのが私の考えるテーマにぴたりと当てはまったので、展示タイトルを「AfterBirth」にしました。
初挑戦の立体作品と油絵
WWD:今回、新たに立体作品や油絵に挑戦しましたが、その理由は?
nina:「身体性」をテーマにした個展の空間を作る上で、まずは実際に対面できるものがあった方がいいだろうと考えて、立体作品を作りました。この作品は東京で1人で部屋に閉じこもって、SNSだったり、いろんなデジタルの情報や視線に覆われて、本当は自由だし身軽でどこにでも行けるはずなのに、どこにも行けなくなってしまっている女の子をイメージして作りました。サイズも等身大で作っているので、私がイメージした女の子が実際に感じてもらえると思います。
実際の制作に関しては、私がデザインを考えて、それを京都の造形師さんにお願いし、立体造形していただきました。そこに私が目や口などの顔の描画と、一部ペイントをしています。
WWD:油絵に関しては?
nina:油絵の方は、当初プリントの上からアクリル絵の具などでペイントするという話もあったのですが、「身体性」というテーマを考えていった結果、今回はよりフィジカルに近い油絵具でやることにしました。
今までアクリル絵の具では描いたことがあったんですが、油絵具は触ること自体初めてで。でもすごく楽しかったですね。アクリルは速乾性が高いので、計画したものをそのままキャンバスに描いていく感覚でデザインに近いんですが、油絵具はドローイングの感覚で絵を描いていけるので、よりライブ感がありました。
油絵作品に関しては、キービジュアルのデジタルの作品と呼応していて、この赤い絵はキービジュアルの女の子を油絵で描いています。人間なのか人間じゃないのか分からない人体に囲まれた女の子。両隣の2作品は、普段は見えない内臓の部分だったり、膿みたいなものがどろどろとあふれ出してしまっている女の子をテーマに描いています。
WWD:こうした女の子を描く時は、イメージだけで描くんですか。それとも何か参考にしているものがあったりするんですか。
nina:完全にイメージだけで描いています。
WWD:ちなみに女性を描く時と男性を描く時の違いは?
nina:女性は自分自身の心情を投影させながら描いていますが、一方で男性を描く時はより俯瞰的に描いています。個人的には、女性の方が、自分の感情がちゃんと乗るのでより自然に描けますね。
WWD:ドローイングは新作ですか?
nina:古い作品だと2年前ぐらいに描いたものもあります。日々、日記的に絵は描いているので、その中からピックアップしたのと、プラスで新作も半分以上はあります。あと、ギャラリーの外から見えるところにアニメーション作品も展示しているので、ぜひそちらも観ていってほしいです。
クライアントワークと自身の作品
WWD:アニメーションもやられて、イラストや漫画も描いていますが、制作に関しては、ご自身の中で考え方を分けていたりしますか?
nina:分けては考えていないです。どのアウトプットになっても軸の部分は一緒で、対人との距離感のような気がします。漫画だと物語を人に伝えるために理性的に作っていく話になるだろうし、ドローイングだったら、自分のプライベートな部分の感情を吐き出すみたいなことになるだろうし。
WWD:一番得意とするのは?
nina:得意というと難しいですけど、人に見ていただけた時に、「見たことないな」っていうものを生み出せるのはやっぱりアニメーションかなと思います。ただ、今回油絵をやってみて、いろんな可能性がありそうだなと感じました。
WWD:以前のインタビューでポップとアートのバランスはすごく考えると語っていましたね。それがすごく興味深かったです。
nina:基本的にはやっぱりどのくらいそのバランスを取るかっていう話だと思うので。かなり伝わりやすくするのか、それよりももっと自分のプライベートな部分をそのまま荒削りの状態で出すのか。それぞれの良さがあると思うので、その都度で考えています。
WWD:ご自身の中でクライアントワークと創作の違いはありますか。
nina:それは全然違いますね。クライアントワークは求められている正解があると思うんですけど、自分の作品に関してはそれがないので。自分がいいと思ったらいい。でも、もしかしたらそれが間違ってるかもしれない。責任が全部自分に降りかかるので、難しいけど、それはそれで楽しいですね。
WWD:ファッションやビューティブランドとのコラボも結構やられていますね。
nina:ブランドとのコラボも楽しいです。求められるものに対して考えて作っていくのは、割と好きな方なんだと思います。だから機会があったらこれからもやっていきたいです。
WWD:イラストを描かれる時にファッションやメイクで特に意識していることはありますか?
nina:逆にファッションやメイクのイメージをつけたくなくて。なるべく自然な生身の状態を感じられるように意識して描いています。
WWD:ちなみに好きな漫画家さんはいますか?
nina:星野桂先生の「D.Gray-man」は小学生の頃から読んでいて、影響を受けていると思います。あと最近だと「宝石の国」の市川春子先生や宮崎夏次系先生が好きですね。
WWD:今回、初めて個展を開催しましたが、今後さらにやりたいことは?
nina:実際にやってみたら、やりたいことがたくさん出てきました。作品としては、やっぱり大きな作品は作っていて楽しいので、今回よりももっと大きな立体作品や絵も作りたいです。仕事面だと、これからもいろんな音楽アーティストと関わってMVなどは作っていきたいですし、本の装丁やブランドコラボなど、今までと変わらず幅広く活動していければと思います。
■nina First Solo Exhibition「AfterBirth」
会期:2024年3月14日〜4月7日
会場:New Gallery
時間:11:00-19:00
住所:東京都千代田区神田神保町1-28-1 1階
料金:無料
主催:New Gallery
展示ディレクション:CON_
https://newgallery-tokyo.com/nina/