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「10 アイヴァン」が2年ぶりの新シリーズ デザイナー・中川浩孝が見出した「非合理的な工程から生まれる美しさ」

10 eyevan,アイヴァン

「10 eyevan」は、「美しい道具」をコンセプトに2017年にスタートしたアイウエアブランドだ。シーズンごとにコレクションを発表するのではなく、「良いものができたら発表する」というスタンスを貫くが、そんな同ブランドから2年ぶりとなる新シリーズが登場した。今回メイン素材に採用したのは、板状のメタルをカットして作るシートメタル。これまでのイメージからは、少々意外なアプローチともいえる。そこで今作のクリエイションについて、中川浩孝デザイナーに話を聞いた。

シートメタルをクラシカルな
スタイルとして捉える試み

「10 アイヴァン」は、これまで4つのシリーズをリリースしてきた。細身のラインで構成されたメタルフレームからスタートし、フチ無しのリムウェイ、セルロイド製フレーム、そしてサーモント。ここに今回5つ目のシリーズとして、シートメタルが加わった。

「僕が眼鏡業界に入った2000年代初頭は、シートメタルの人気が全盛でした。板状のメタルをカットして作るんですが、まず1990年代後半ぐらいにドイツでステンレスシートを使ったブランドが登場し、その後、日本でチタン製のシートメタルが作れるようになりました。僕はもともと眼鏡や時計、靴などでもクラシックなものが好きだったので、当時モダンなイメージがあったシートメタルには、あまり惹かれなかったんですね。ですが、登場から四半世紀が経った今、シートメタルの作りもクラシックなものとして捉えられるんじゃないかと思ったんです。僕自身も掛けたくなってきているし、ならば一度『10 アイヴァン』で製作してみたいと考えるようになりました」

美しくて強い
特別な素材を目指して

シートメタルを、「10 アイヴァン」を構成する“機能的で美しいパーツ”とするために、中川は素材作りの行程から見直しオリジナルのシートチタンを制作した。

「シートメタルは、通常メタルフレームに使用される“リム線”という細い線状のパーツより面積が広いため、表面をきれいに磨くのが難しいとされています。ですが『10 アイヴァン』でやるからには、美しさも妥協はできません。そこで工場との打ち合わせを重ねた結果、最終的に到達したのが“圧延”という方法でした。大きなシート状の段階で全体に圧をかけ、厚みを落とす工程を経ることで、粗かった表面をぐっと滑らかな状態にすることができました」
 
次に、フロントの形に成型していくプレスの行程を経て、より素材の密度が高まり強度が向上する。さらに裏側には繊細な10柄のレリーフを施すことで装飾性も加味した。こうした手間のかかった工程を経ることで、シートメタルを美観性と機能性を備えた特別な素材へと昇華させたのだ。

シェイプや表面加工に表れる
ブランドの“らしさ”

シートメタルの質感を高めるために、今作ではカラーを施す表面加工にも新たな試みがなされている。

「メタルの表面加工にIP(イオンプレーティング)という手法があるんですが、これはもともと宇宙開発技術の一環としてアメリカで開発されたもので、はがれにくいという利点があります。今回最新の技術により、これまで難しかった深い黒の表現が可能になりました」

深黒の表面にはヘアライン加工も施され、シックななかに表情を添える。そのほか、ゴムのようなマットな質感を湛えた塗装など、いずれも無機質なメタルに手触りを感じる豊かな風合いを持たせているのが魅力だ。

さらに今シーズンは4年ぶりに9つ目の玉型(レンズシェイプ)としてオーバルが加わったのも特筆すべき点だろう。

「靴は木型が命じゃないですか。とはいえ足の形はさまざまあるわけではないので、老舗のシューズメーカーでも木型の数は限られていますよね。それは顔も同じだと思っているので、必要と感じたときにしか新しい玉型は作りません」

新たに加えられたオーバルは、柔らかな楕円をベースにしながら、どこかほかのシェイプの要素も感じられるような趣のあるラインを描く。ここにもまた、ブランドの“らしさ”が感じられる。

非合理的な工程から
生まれる美しさを大事にしたい

インダストリアルなシートメタルを用いながら、その佇まいはどこかクラシカル。その印象をさらに後押ししているのが、ヨロイに施されたシルバー925製のリベットだ。

「セルロイドのシリーズでも使っていたカシメ蝶番を採用しました。通常メタルフレームの場合、パーツはロウ付けといって溶接のような手法で接合するのですが、これはシルバー925製のリベットでかしめて作っています。フレームの色と異なるので、パーツの存在感が出ますよね」

ノーズパッドには、真珠貝を使用。こうした上質な天然素材との組み合わせもまた、どこか温かみがあり、このフレームを“美しい道具”たらしめている所以だ。

「『美しい道具』は僕のもの作りの一貫したテーマでもありますが、実は言葉として矛盾しているんですよね。そもそも道具は本来使いやすくて壊れにくいものであるべきなのに、そこに美しさを求めるのは邪道じゃないですか。とくにシートメタルは工業品的な側面があるなかで、リベットやパッドも合理的に考えれば無駄な作業だと言えるでしょう。でも、こうした手間を経た工程からこそ生まれる表情があると思っています。見た目はあくまで普通なのですが、使っていて心地いい、そして気持ちが高揚するようなものを作りたい。それが今作を含め『10 アイヴァン』が目指す方向であり、これからも追求していきたいと思っています」

問い合わせ先
アイヴァン PR
03-6450-5300