「ヴァレンティノ(VALENTINO)」は、ピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)のクリエイティブ・ディレクター退任を受け、6月にメンズとオートクチュールのショーを開催しないと発表した。「創造力でメゾンを先導し、ブランドの遺伝子や象徴的なコード、比類なきイタリアの伝統を高めながら、新たなコレクションを作っていく」として、クリエイションへのこだわりによる中止を強調している。
ピッチョーリはすでにメゾンを去っており、2024-25年秋冬プレタポルテ・コレクションが最後の仕事となった。ショーの中止に踏み切ったのは、デザインチームがピッチョーリのアイデアから次のメンズとクチュールを制作するのではなく、新たなデザイナーが白紙の状態から仕事に取りかかりたいと希望していることを示唆している可能性が高い。後任の就任まで、さほど時間がかからないと予想される。
パリ・メンズ・ファッション・ウイークは6月18日から23日まで、オートクチュールは24日から27日まで開催される予定だ。
ピッチョーリの後任をめぐって飛び交う憶測
ミケーレ体制の「ヴァレンティノ」始動か?
米「WWD」は3月22日、関係者からの情報に基づいて、ピッチョーリ=クリエイティブ・ディレクターの退任をいち早く報じた。また同関係者は後任として、「グッチ(GUCCI)」のクリエイティブ・ディレクターをつとめていたアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)が「ヴァレンティノ」と交渉しているのではないか?と睨んでいる。ミケーレは22年11月に「グッチ」のクリエイティブ・ディレクターを退任。今月には競業避止義務が切れると言われている。
ミケーレが主導して15年に発表した「グッチ」のコレクションは、彼の前任フリーダ・ジャンニーニ(Frida Giannini)の突然の退任に伴い、わずか数日で制作したと言われている。だが関係筋は、「今回は、15年のように即興でコレクションを作るのは難しい」と主張する。「当時のミケーレには、失うものは何もなかった。だが今、彼はセレブリティ・デザイナー。『ヴァレンティノ』での初コレクションは、完璧でなければならない」。情報筋によれば、ミケーレにとってオートクチュールは悲願。一方のメンズウエアはウィメンズに比べると不得手としていることから「彼が『ヴァレンティノ』の初仕事として、メンズ・コレクションを避けたいのは頷ける」という。
22年11月に「グッチ」を退任した後、ミケーレの将来についてはさまさまな憶測が飛び交い、具体的に「フェンディ(FENDI)」や「ブルガリ(BVLGARI)」「ジバンシィ(GIVENCHY)」などのブランドがウワサに上がっていた。これらのブランドはすべてLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)の傘下にある。ミケーレは次のステップとして、退任した「グッチ」の親会社であるケリング(KERING)のライバルLVMHを選ぶだろうと思われてきた。
一方ケリングは、「ヴァレンティノ」の親会社であるカタールの投資会社メイフーラ・グループ(MAYHOOLA GROUP以下、メイフーラ)の株式の30%を保有し、今後「ヴァレンティノ」の株式の100%を取得するオプションを保有している。このため「グッチ」を突然去ったミケーレが「ヴァレンティノ」に加わるのは難しいとみる向きもある。しかし情報筋によれば、ピッチョーリの後任として彼を熱望しているのは、メイフーラのラシッド・モハメド・ラシッド(Rachid Mohamed Rachid)最高経営責任者(CEO)と、「ヴァレンティノ」のヤコポ・ヴェントゥリーニ(Jacopo Venturini)CEOという。