J.フロント リテイリング(以下、JFR)は28日、日本政策投資銀行(以下、DBJ)とイグニション・ポイント ベンチャーパートナーズ(IPVP)との共同出資により、食領域を中心とした事業承継ファンド「プライドファンド」を立ち上げた。
事業承継ファンドは、投資家から集めた資金を元手に後継者不在に悩む中小企業の株式を買い取り、支援を行う。「プライドファンド」は、JFRとDBJの合弁会社J&Dリージョナル・デベロップメント(出資比率は50%ずつ)とIPVPが無限責任組合員となる。資金の運用規模は30億円程度を想定する。
既存のファンドと比較した「プライドファンド」の最大の強みは、企業の成長・経営をワンストップで支援できる点。「北は北海道から、南は九州まで」(小野圭一JFR社長)をカバーする店舗網と優良な顧客基盤を持つJFRグループが、支援企業に対して百貨店の売り場など販売する“場”を提供。「バイヤーなど専門的な知見を有する人材を送り込むことで、商品開発にも役立てていただく」。DBJのファイナンス、IPVPの経営企画や業務効率化などの知見も活用する。
一般に、事業承継ファンドによる出資は10億円以上が相場だが、「プラウドファンド」では「1ケタ億円規模のきめ細やかな支援」にも対応する。支援した企業からは数年後に株式を譲り受けて子会社することを原則とし、「誰に事業が渡るか分からない」という出資先の不安を解消する。
これからの百貨店価値は“ローカル”
「プライドファンド」設立の背景には、小野社長の深謀遠慮がある。「現状、どこの百貨店も売り上げをけん引しているのは海外のグローバルなブランドだ。しかしこの状況が続くのであれば同質化は避けられず、魅力が失われていくだろう」と話す。「今後注目すべきはローカルなコンテンツ。訪日観光客の関心は、すでに東京、大阪といった大都市から地方に向き始めている。日本各地にはたくさんの特色や魅力が眠っている。われわれ百貨店にはそれらを掘り起こし、店舗や顧客というリソースを活用して『届けていく』役目がある」。
食の領域から支援を着手する理由については、「商品開発から売り場での展開まで支援のイメージがしやすく、また投資のリターンが見込みやすいため」であるとする。事業が軌道に乗れば、今後ファッションや伝統工芸などへの支援領域の拡大も視野に入れるという。