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連載 鈴木敏仁のUSリポート

ECビジネスの頭痛の種「返品物流」【鈴木敏仁USリポート】

アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。アメリカはEC大国であると同時に返品大国である。ECのショッピングでは服のサイズを多めに取り寄せて、自分に合うサイズ以外を返品する手法が常識。積もり積もった返品コストは企業にとって頭痛の種だ。

ECビジネスにとって避けては通れない大きなハードルが返品である。リアル店舗を持っているリテーラーは店舗返品が可能だが、店舗を持たないピュアなECリテーラーにとってはどう効率化するかは大きな取り組み課題だろう。

前々回(アマゾンのAIが「返品天国アメリカ」に投じた一石)に書いたが、とくにファッション系のD2Cブランドは、無料返品を前提とせざるを得ないところがある。私自身が買うときに返品が無料か否かを確認するほどで、逆に言うと返品についての記載がないとおそらく買うことはないだろう。実用衣料なら問題ないが、ファッション性が強く価格も高い商品を試着なしで買うには、返品プロセスについての説明は不可欠だと思っている。

一方、EC企業にとっての頭痛の種となっているのが、これも前々回に書いたワードロービング(Wardrobing)だ。自分のサイズに加えて、上下2サイズ、合計3サイズ買ってしまい、自宅で試着後に2つを返品するといった買い方である。この表現が業界用語で定着するほど一般化しているのである。

店頭での試着は標準的な慣行だが、ECによるワードロービングの問題は当然のことながら増える返品コストである。

この送料問題は各企業とも苦慮していて、送料無料とする買い物総額の閾値(しきいち)を上げる、または有料にしてしまう、といった企業も出ているようだが、業界標準になることは今のところ難しそうだ。返品を受けるか否か、有料にするか否か、といった返品ポリシーは競合環境が決めるもので、強いアマゾンのポリシーがデファクトスタンダード化している現在においては容易なことではないだろう。

つまり返品は存在するものとして取り組むしかない。必要なことは返品物流の効率化ということになる。

アマゾンは商業施設に返品カウンター設置

おそらく世界で一番EC返品が多い企業はアマゾンだろう。

物流効率化のイロハは、物流線が増えたら中間にハブを作って物流線を減らすことである。アマゾンがコールズ店内に返品カウンターを作り始めたときは、なるほどそういう手があるのかと膝を打ったものだ。ユーザーから宅配によってバラバラと大量にセンターに送られる大量の返品物流線を、コールズ店内の返品カウンターをハブとしていったん返品を集約し、物流線を減らすのである。

アマゾンはこの後、アマゾンフレッシュやホールフーズといった自社店舗、UPSオフィス、UPSアクセスポイント(ドラッグストアのCVSや銀行など)、アマゾンロッカーに返品ハブを加えている。

私がアマゾンゴーに返品アイテムを持ち込んだときに、店内の買い物を対象とした割引きクーポンが発行された。来店客に一品でも買ってもらおうという販促目的に加えて、リアル店舗返品を促す目的もあるのだろうと理解した。宅配を使った直接返品よりもその方が低コストだからである。

また高級ブランドなどの高額品をコピー商品にすり替えて返すような不正返品も、対面だとぐっと減ると言われている。リアル店舗での返品は犯罪抑止にもなるのである。

D2Cブランド企業の返品ニーズにいち早く気づいたのがハッピーリターンである。リターンバーと呼ぶ返品専門カウンターをモール内に設置し、契約している企業の返品商品をここで受け取り、返品専用の大型ハブに送り、ハブ内でソートして契約企業に送る。リターンバーで返品をいったん集めて、次にハブでもう一度集めるという、2つの集約ポイントを作ったのであった。

当初はモールからスタートしたのだが、アルタ、ペットコ、ステープルズ、コストプラス等々の大手チェーンストアと契約してリターンバーを増やしている。

興味深いのは2019年にペイパルが買収し、さらに昨年末にはペイパルからUPSが買収している点である。ペイパルの思惑は、決済を利用している企業に返品ソリューションを提供することだったのだが、おそらく想定通りにいかなかったのだろう。

一方UPSによる買収は、宅配企業にとって返品物流が無視できない存在になっていることを意味している。フォワード宅配からリターン宅配までを包括的に取り扱う時代となったのである。UPSオフィスも加わって、リターンバーは1万2000カ所以上になったと発表されている。

新しい返品サービスが続々登場

返品にまつわる新たな取り組みケースは他にもたくさんある。

パッケージハブ(宅配や引っ越しに必要な段ボール等のパッケージを取り扱うフランチャイズチェーン)とピツニーボウズ(Pitney Bowes)が提携したのは1月初頭のことである。ピツニーボウズはUSPSオフィス3万カ所で返品を取り扱っているが、これにパッケージハブ1000カ所を加えることがこの提携の目的と説明されている。

昨年中には即配のドアダッシュとウーバーが返品プログラムをスタートしている。ユーザーから返品ロケーションまで有料で運ぶサービスで、返品の効率化というよりも、返品ニーズの多様化への対応という表現が適切だが、それほど需要があるということを意味している。

高級ファッションの定額制レンタルサービスを提供するレント・ザ・ランウェイは、レンタルアイテムの宅配と集荷を同時に行うライブスワップ(live swaps)と呼ぶプログラムを実施している。行きと帰りをまとめる取り組みで、シッピングコスト削減の一助となっているとCFOがコメントしている。

またアマゾンがフェデックスと返品宅配について昨年中に協議したという情報が報じられている。自前の宅配ネットワークを持っているアマゾンは、年間宅配個数ですでにUPSやFedExを上回っていて、取扱量が激減しているフェデックスはアマゾンとの取引停止をすでに発表している。この返品に関する協議のニュースは、増え続けている返品が大きな取り組み課題であることと、リバース宅配ネットワークを持っていないアマゾンは他社との協業が不可欠なことを示唆している。

アメリカの流通業界ではもともとリバースロジスティックスが確立しており、3PL(サード・パーティー・ロジスティクス、荷主企業に代わって第三者が物流業務の企画・設計・運営を包括して請け負う業態)に加えて3PRL(サード・パーティー・リバース・ロジスティクス)の専門企業も数多く存在し、ウォルマートやアマゾンのように返品専用処理センターを持つ企業も少なくない。

これにEC返品が加わったことになるのだが、EC市場はいまだ成長途上にあるので、この分野はこれからもどんどん進化していくのだろう。

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