ピーター・ドゥ(Peter Do)による新生「ヘルムート ラング(HELMUT LANG)」が店頭に並び始めた。日本では、伊勢丹新宿本店(すでに終了)や渋谷パルコ(5月6日まで)でポップアップを開催。伊勢丹のポップアップに合わせて、デザイナーが来日した。ニューヨークで発表した2024年春夏、24-25年秋冬コレクションを含め、話を聞いた。
「WWDJAPAN」(以下、「WWD」):今、店頭に並んでいる2024年春夏コレクションは、「ヘルムート ラング」のアーカイブに大きなインスピレーションを得ているように感じる。そもそも「ヘルムート ラング」との出会いは?また、どんなイメージを持っていた?
ピーター・ドゥ「ヘルムート ラング」クリエイティブ・ディレクター(以下、ピーター):「ヘルムート ラング」との出会いは、学生の頃。仲間たちの間でも圧倒的な人気だったけれど、私が一番感銘を受けたのは、「着る人とリンクする」洋服を生み出そうとする姿勢だった。「ヘルムート ラング」が登場するまでの1980〜90年代は、「more is more」の時代。多くのデザイナーは自己表現を追求し、結果デザインが先行していたように思う。けれど「ヘルムート ラング」の洋服は、全然違う。たとえばデニムは、「リーバイス(LEVI’S)」の“501”にインスピレーション源を得て誕生したと言われている。“501”は長らく、着る人とリンクしているからだろう。こうして生まれたジーンズやTシャツ、クリエイティブではあるけれど日常着ばかりの洋服で、ランウエイショーを開催することが革新的だった。そして、着る人とのリンクを模索するから、「ヘルムート ラング」の洋服は使い捨てられることがない。着る人は洋服と一緒に成長し、洋服も着る人と共に齢を重ねていく。そんな考え方自体に感銘を受けたことを覚えている。
「WWD」:「着る人とリンクする」という「ヘルムート ラング」のアイデンティティをどう再解釈して、今のコレクションに盛り込むのか?
ピーター:「着る人とリンクする」から、私は「ヘルムート ラング」で人々の装いをドラスティックに変えたいなんて思っていない。むしろ今の時代、長く愛されるには機能的だったり、現代のシステム・社会構造にフィットしたりすることで、着る人に「生活が少しでも良くなるかもしれない」「この洋服を着たら、毎日少し快適かも」と予感させることが必要だ。アーカイブが、どうしたら現代に息づくのか?そう考えた時の1つのアプローチは、昔のパターンを現代の素材で蘇らせることだった。たとえばデニムは、当時のパターンそのまま。普遍的なアイテムのパターンは、これからも「ヘルムート ラング」のオリジンに忠実でありたい。それを先端の素材で作ったり、異素材で切り替えたりすれば、機能的で、長く愛され、結果「着る人とリンクする」洋服になるのではないか?と思っている。と同時に、今は少しノイズが多い時代だと思っている。だからこそ、作るべきは“ウルサい”洋服ではないと思っている。
「ヘルムート ラング」と「ピーター ドゥ」
2つを無理矢理差別化する必要はない
「WWD」:自身が手掛ける「ピーター ドゥ」も、ミニマルなスタイルやモノトーン中心のカラーパレットなど、「ヘルムート ラング」との共通点が多いように感じる。どう差別化するのか?
ピーター:私が手掛ける以上、2つのブランドに共通点があるのは当然のこと。2つを無理矢理差別化する必要はないと思っている。クリエイションの舞台をパリからニューヨークにヘルムート・ラングと、夢を抱いてベトナムから来日してニューヨークにたどり着いた私は、共にニューヨークに魅力を感じたわけだから、共通点もあるだろう。「ヘルムート ラング」と「ピーター ドゥ」のクリエイション・プロセスやポジショニングを差別化するため、ロジカルに考えようとも思っていない。ただ、2つのブランドはビジネス規模も違うし、価格帯も異なっている。「ヘルムート ラング」にはアーカイブに基づくスタイルコードがあるから、双方を私が手がけていても、結果は異なるものになるだろう。「プラダ(PRADA)」と「ミュウミュウ(MIU MIU)」のような関係になれば、と思う。ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)は2つのブランドを自由に行き来しているし、ファンにはそれぞれの違いを感じ取った上で「プラダ」も「ミュウミュウ」も大好きという人がいるだろうから。
「WWD」:伊勢丹新宿本店で開催したポップアップには、朝からファンが来店した。ファースト・コレクションの初速は順調なようだ。
ピーター:私が感銘を受けた「ヘルムート ラング」を、もう一度多くの人たちに知ってほしい。ここ数年、「ヘルムート ラング」は迷走したり、少しおとなしかったりの時が長かった。若い世代には「ヘルムート ラング」を知ってほしいし、昔ファンだった人たちにはかつてのアイデンティティやスタイルコードを取り戻しつつあることを訴えたい。デザインチームも、新しい挑戦を共に楽しんでくれている。私も、「ヘルムート ラング」と「ピーター ドゥ」の両立に慣れてきたところだ。