壁一面を埋め尽くすグラフィックアートに、思わず息を呑む――。
無秩序にも思える写真やイラスト、テキストのコラージュが、どれも絶妙なバランスで成立している。作品は少なくとも200点以上。これら全てを14歳の少年が描いたと聞けば、驚く人は多いはずだ。
三鷹市の中学生グラフィックアーティスト、SORA(本名:佐藤蒼空)の初の個展がきょう3月31日まで、東京・三鷹の三鷹市桜井浜江記念市民ギャラリーで開かれている。
誰に教わったわけでもない。コラージュ素材はすべてSORA自身が集めた写真やイラスト、テキストなど。その上から、ペンキや絵の具で思い思いのグラフィックを描き込んだ。日常生活で目、耳にする物すべてが作品のインスピレーション源だ。
ただしそれを切り取る感性はかなりユニーク。「リファレンス(制作で参考にするもの)は誰も行かなさそうな本屋の奥の方に置いてある古本や雑誌、新聞や学校の教科書が多いですね。それからいつも聴いている音楽、道路、電車、(大阪の)西成、瘡蓋(かさぶた)とか……。西成には行ったことないんですけど、ホームレスの人たちがダンボールとかで作る“家”がめちゃくちゃかっこいいなと思っています」。
作品には、目が塗りつぶされた人の顔や臓器などのグロテスクな写真やイラスト、“不安”“地獄”“死”といった不安を煽るような単語や不可解な文章があしらわれ、不謹慎なムードがただよう。社会への風刺的な意味合いすら感じさせるが、「構図も素材もほとんどが思いつき」で、気の赴くまま作り続けてきた。
「僕は義務教育が嫌い。やりたくないことを、大人に無理やりやらされるから。だから『やっちゃいけない』と言われることを、好き勝手にやってやるんです」。
大人たちの“ダメ”ができるから楽しい
SORAは小学2年生のころ不登校になった。学校給食をむりやり食べさせる教師が「嫌で嫌で仕方なかった」。がまんの限界を超えて先生、母親とも衝突し、心のバランスが崩れて学校に行けなくなった。それから、部屋にこもって観ていたユーチューブで、グラフィックアーティストに出合い虜になった。
見よう見まねで作品を作り続けた。描く紙がなくなると、部屋にあった机やキャビネットなども画材にした。「世の中には組み合わせちゃいけない、いろんなモノやタブーがある。きれいなものと汚れているもの。正しいものと間違っているもの。現実世界でくっつけちゃだめでも、頭の中や作品でなら、好き放題コラージュできる。それがめちゃくちゃ楽しい」。
両親によると、SORAは物心がつかない頃、子供の輪の中に入って遊ぶのが苦手だった。代わりに強く興味関心を示したのは「国旗のデザインや、電車の機械音」などだったという。
何らかの素質があったのだろう。制作活動を始めて間もなく、家中が作品で埋め尽くされた。はじめは、「何とか学校に行かせたい」と考えていた両親も、SORAの才能を応援することを決めた。少しでも多くの人に目を触れる機会を作ろうと、街中の小さなギャラリーを借り、今回の個展を開くに至った。
芽生え始めた向上心
「いつか渋谷で個展を」
個展が決まると、SORAに挑戦心が芽生えた。グラフィック以外に、映像やコンセプチュアルなアートにもトライした。新聞紙を破り、あたりに敷き詰めた“作品”がお気に入りだ。「事件や事故、不祥事とか、新聞には世の中の大人たちの最悪な部分が詰まっている。だからそれをビリビリにしてやりました」と得意気だ。
「今は、ご飯を食べてる時も、トイレにいるときも、ずっと頭の中でコラージュしています」。アートへの前向きな気持ちも心の助けになり、小学6年生からは徐々に登校できるようになった。中学に入ってからはほぼ毎日学校に行っている。昨年は学校で小さな展示会もした。「みんなに『すごいね』と言ってもらえてうれしかったです」と中学生らしく無邪気に笑う。
SORAの創作の原動力は、義務教育への反抗から、純粋なアーティストとしての向上心に変わりつつある。「いつかは渋谷のどこかで展示したい。僕のあこがれの(グラフィックアーティストの)KAZZROCKさん、(現代美術家の)大竹新郎さんと一緒に作品を並べて、皆に見てもらいたいです」。
■SORA First Exhibition 「graffiti × collage」
場所:三鷹市桜井浜江記念市民ギャラリー
住所:東京都三鷹市下連雀3-42-3 1F
日時:3月29〜31日 10〜18時(最終日は16時まで)