今や世界各地で人々の間で人気を呼んでいるエレクトロニック・ダンス・ミュージック。EDM、テクノ、ハウスミュージックなど、さまざまなタイプのサウンドがダンスフロアを沸かせている中、ヨーロッパのアンダーグラウンド・シーンでコアな人気を誇るのが、ルーマニアン・ミニマルシーンだ。
そのシーンをけん引するのが、ルーマニアを拠点に活動をするラドゥー、ペトレ・インスピレスク、ラレッシュの3人のDJから成る音楽レコードレーベル&プロジェクトのアーピアー([a:rpia:r])。エレクトロニック・ミュージックシーンの絶対王者、リカルド・ヴィラロボスの弟分的存在として2000年代中期に登場して以来、個人での活動と並行し、3人が交代で曲をかけていくバック・トゥ・バック(B2B)のスタイルでダンスフロアをロックし、彼らならではの独自の世界観を創り上げてきた。彼らのプレイに魅せられた人々は、コアなダンスミュージック好きから、アートやファッションを好むハイセンスな人まで多岐に渡り、フロアで体験した人々は、口をそろえてその素晴らしい空間と時間を絶賛する。3人による別名義のスペシャルユニットRPR SOUNDSYSTEMでは、世界トップイベントやフェスティバルなどでプレーしてきた。
4月5日に恵比寿リキッドルームで開催される「RPR SOUNDSYSTEM with Dreamrec VJ」では、約5年ぶりの来日となるRPR SOUNDSYSTEMによるDJプレイと、彼らの音楽の世界観を体験型の映像で表現するドリームレックがVJで参加。RPR SOUNDSYSTEM名義でのプレイは、彼らが選ぶパーティーやフェスティバル限定で年に数回しかプレーをしないため、今回、彼らが出演する恵比寿リキッドルームのパーティーは希少な時間となる。よってワンナイトを通じて、良質なエレクトロニック・ミュージックを体験する日になることは間違いない。そこで来日を目前に、世界初となる彼らの貴重なインタビューを届ける。
音楽への情熱を分かち合うために3人でDJプレーを始める
――3人の出会い、またアーピアーが結成された経緯を教えてください。
ペトレ:それまではお互い別々に活動していたんだけど、音楽への情熱が僕たちを結びつけたんだ。3人でレーベルのアーピアーを設立して、そこから一緒にDJプレーをしようと決めたのは、僕たちの音楽への情熱をみんなと分かち合いたいという熱い気持ちからだったんだ。
ラドゥー:ペドロはいつも近くにいたし、ラレッシュは「ゼブラ」ってクラブのレジデントをしていたし、3人ともなんだかんだ同じようなところにいたから知り合って長いよね。それで最終的に一緒にパーティでDJプレーをするようになった。
ラレッシュ:僕らが出会ったのは22年前で、2006年の秋にイビサでレーベル&プロジェクト、アーピアーを立ち上げたんだ。とても自然な流れで、僕にとっても魂を捧げられる大切なプロジェクトになったのは間違いないね。
――アーピアーはレコードレーベルであり、DJプレーを含むプロダクションですが、目指している音楽観について教えて下さい。
ラレッシュ:そもそも時代を超越した良い音楽が全てだから、アーピアーから何かをリリースするときは、その音楽がファッションや特定の音楽トレンドを超越することを目指してる。それは僕らのDJセットにも当てはまる。
ラドゥー:空間に関しては僕ら3人と、VJのドリームレックの4人の力で、安心して没入できる特別な空間を作りだしている。そこにそれぞれが自分の色を出していくというか。
ペトレ:僕たちの音楽に対する考え方はシンプルなんだ。自分たちが好きなもの、面白いと思うものをプレーして、そこに人々を巻き込み、その体験を通して人々を導く。異なる個性を持ち合わせた3人から成り立つプロセスは、注意深くアプローチしなければならないし、DJセットの最初から最後まで正しい認識を持って特別な注意を払う必要がある。それを行うことで観客は全体を把握することができるし、正しい認識を持つことができるからね。もちろんVJを担当するドリームレックは、映像やアニメーションで音楽的な感情を視覚的な側面で描写することで表現をしている。
――ドリームレックさんは3人がDJプレーをする時にVJとして参加されていますが、どのような映像を制作されていますか?
ドリームレック:僕の映像作品では、別世界に足を踏み入れたような感覚を追求しているんだ。子供の頃から父親の仕事場で過ごした経験や、VHSテープを使った初期の実験で磨き上げたことなんだけど、その経験がテクノロジーはクラブの壁ということを超えて没入感のある空間を作り出す魔法の杖だと考えるようになったんだ。僕が目指す映像は、曲のビートに合わせるだけでなく、驚きとつながりの瞬間を創り上げることなんだけど、思い出や感情を映像を通じて具体化しているということだね。アーピアーと一緒に仕事をして、さまざまなサウンドスケープを探求したことで僕のアプローチも深まったと思うし、独学で学んだ技術に、自然や僕たちを取り巻く模様や図柄を敬意を持って融合させるといった感じかな。
音楽好きな人々が多いルーマニア
――ミニマルを中心としたルーマニアのダンスミュージック・シーンが世界的に人気を呼んでいますが、人気が定着したのは何故だと思いますか?
ペトレ:ルーマニア人は幅広い音楽的背景と歴史を持っていて、音楽の歴史と面白さに夢中になる人々が多い。その中で、僕たちはエレクトロニック・ミュージックの発展の初期からその魅力に触れ、少しずつ自分たちのキャラクターを形成していった。人々は楽しんでくれて、その楽しみを周りに向け表現することでフロアへやってきた多くの人々を刺激して、そこで得た興奮を通じて音楽を違った角度から捉えることの心地よさを感じたんだと思う。その現象は、海外でも同じことが起こっているようだけどね。
ラドゥー:それと情報の必要性にも関係しているよね。僕の友達や知り合いは、みんな音楽に興味があって、好きな曲を集めたりしている。音楽はお互いの情報を交換するツールでもあるしね。
ラレッシュ:プロモーターやアーティストなど、関係者全員が特別なものにしようと努力している情熱があるしね。僕たちもその一員になれてうれしい。
――ルーマニアのアンダーグラウンド・ミュージックシーンの現状はいかがですか?
ラレッシュ:パンデミックの影響で、一時期はアーティストたちも店も活動することができなかったけど、ルーマニアのアンダーグラウンド・ミュージックシーンの現状は変わらない。新しいプロモーターや、若い世代のダンスフロアで踊るダンサーによって、状況はすぐに正常に戻ったしね。
ラドゥー:進化しているけど、人気という点ではアンダーグラウンドではなくなっているかな。だけどまだ抽象的な感覚や、驚くべき可能性は残っていると思う。
ペトレ:社会そのものが変貌を遂げているように、音楽シーンも進化しているよね。もちろんそれは良いことでしかないし、だけど世の中の良いものや、質の高いものは、忍耐を必要としてこそ生まれてきたものだということも忘れてはいけない。
エレクトロニック・ミュージックもファッションも、目指すところは「美」
――これまでに過去に3回ほど恵比寿リキッドルームで公演をされましたが、どれもが本当に素晴らしい特別なものだったと聞いています。4月5日の公演に向けて、日本の人々へメッセージをいただけますか?
ラレッシュ:数年前の東京での公演は本当に楽しかった! パーティーは本当に特別なものになったし、日本の人達が僕達を歓迎してくれたのがうれしかったな。またあの良いサウンドの中でプレイするのが待ちきれないよ。
ペトレ:リキッドルームは空間、サウンドシステム、マネジメントと、あらゆる面で素晴らしい会場だよね。僕たちだけでなく、他の多くのアーティストたちが日本は素晴らしいと感じているけど、それは日本は秩序と組織がきちんと成り立ち、互いへの敬意が細部に渡り行き届いていて、それが高く評価されている国だからなのではないかな。他の社会はそれが著しく欠けているからね。今年もリキッドルームでプレイできることをとても嬉しく思っているし、ファンのみんなと一緒に楽しめると確信しているよ!
ラドゥー:リキッドルーム自体が歴史のある特別な場所だと思うし、細かい部分まで目が行き届いているので、みんなを心地良くいい気分にさせてくれる。
RPR SOUNDSYSTEM with Dreamrec VJ - 2017.04.01 at Liquidroom
――最後にパーティーへ遊びに来る人々のファッションの傾向や好きなスタイルを教えてください。
ラレッシュ:僕はファッションにはほとんど興味がないんだけど……(笑)。シンプルで、できるだけカジュアルな服装が好きだよね。
ラドゥー:僕も快適で実用的なファッションが好みだけど、周りの人達がファッションで自己表現している姿を見ると、みんなそれぞれの個性のあるスタイルを持っているような気がする。
ペトレ:ファッションとエレクトロニック・ミュージックの関係は、常に人々を優雅な気持ちにさせているんじゃないかな。異なる道だけど両方とも美と善を目指すものだし、一方(ファッション)は視覚的な側面を通して自己の個性を浮き彫りにして、もう一方(音楽)は説明不可能な現象の下で一体化するものであったと思う。それを今はパーティーで見ることができるよね。人々はさまざまなタイプの服を着ているけど、音楽という同じ呪文の元で自己を現している。どのような種類の人々も、同じ大きな目的のために集まり、音楽とダンスという最高の意味で一体化するという、素晴らしい現象を生んでいるのではないかな。ルーマニアでは「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」などの日本のブランドが人気で、デザインだけでなく、縫製や生地の良さもクリエイティブな側面も評価されているよね。個人的には「アンダーカバー(UNDERCOVER)」「カラー(KOLOR)」「カヴァル(KAVAL)」などにも興味がある。
ドリームレック:スタイルとは、その人のアティチュードに根ざしているものだと思う。多様性に有り難みを感じるし、さまざまなスタイルの人々がパーティーにやってきて、盛り上がっている光景を見るとうれしい。各々の表現をしたバラエティー豊富なスタイルが色鮮やかな集まりとなり、人々をつないでいくからね。
■RPR SOUNDSYSTEM with Dreamrec VJ
日程:4月5日
会場:LIQUIDROOM
住所:東京都渋谷区東3-16-6
時間:23:30~
入場料:6000円(前売STAGE2)/ 7000円(当日)
公式サイト:https://linktr.ee/rpr2024tokyo
COOPERATION:RAHA