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新トレンド“カウボーイ・コア”の実態 ビヨンセの新アルバムやファレルの「ルイ・ヴィトン」など多様化するウエスタン文化

シンガーのビヨンセ(Beyonce)に代表されるウエスタンウエアを取り入れたファッションスタイル“カウボーイ・コア”が注目を集めている

ビヨンセは最新アルバム「カウボーイ・カーター(Cowboy Carter)」を3月29日にリリースした。カントリーとポップを融合した新曲がファンを魅了したのはもちろん、彼女がアルバムのジャケットやリリースのプロモーションで着用したウエスタンウエアにも注目が集まった。ビヨンセは、2024年「スーパーボウル」で通信会社ベライゾンのCMに出演し、最新アルバムからシングル2曲をリリースすると発表。同CMの後、「カウボーイハット」という用語のグーグル検索は世界で212.5%急増したと英アパレルECの「ブーフー(BOOHOO)」は言う。また、「カウボーイブーツ」と「ボロネクタイ」の検索もそれぞれ163%と566%急上昇した。

これまでにもビヨンセはレッドカーペットでの衣装や、手掛けるファッションブランド「アイヴィー パーク(IVY PARK)」のコレクションにウエスタンスタイルを取り入れてきたが、昨今ではキム・カーダシアン(Kim Kardashian)やディプロ(Diplo)、ポスト・マローン(Post Malone)ら、クラシックなウエスタンブーツを履くセレブが相次いでいる。馬の調教師と交際を始めて以来、モデルのベラ・ハディッド(Bella Hadid)もロデオの常連だ。

最新のランウエイでは、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)による「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」2024-25年秋冬コレクションが“ラグジュアリー・ウエスタン”を打ち出した。他にも「スキャパレリ(SCHIAPARELLI)」「イザベル マラン(ISABEL MARANT)」などの秋冬コレクションにウエスタンウエアが頻繁に登場。「クリスチャン ルブタン(CHRISTIAN LOUBOUTIN)」も再解釈したカウボーイブーツを発表した。

数年前からファッショントレンドであるカウボーイブーツやデニムなどのウエスタンウエア。人気急上昇の背景には何があるのだろうか。分析会社やウエスタン・ウエアブランドに話を聞き、米「WWD」が“カウボーイ・コア”の全貌に迫った。

何が人々をウエスタンへと掻き立てるのか

消費者行動の調査会社、サーカナ(Circana)の消費者追跡データによると、米国ではウエスタンブーツの23年の売上総額は8億8850万ドル(約1341億6350万円)で、19年に比べ30%増加した。

ウエスタン小売店「ブーツ・バーン(BOOT BARN)」のクリエイティブ・ディレクター兼マーケティング担当バイス・プレジデントのイシャ・ニコル(Isha Nicole)は、「私たちが今生きている、ものの動きが速いハイテク社会への反応」だと考える。「テクノロジー、過剰な刺激、懐疑主義が急増し続ける中、“素朴さ”は憧れの自己表現、またゴールとして浸透し続けていくだろう。ウエスタンファッションは、アメリカのカウボーイの精神である“縛られない自由”、“粘り強さ”、“反抗の魂”を象徴している」と彼女は語る。

1975年以来、イタリアでウエスタンブーツを作り続けている「エル・ヴァケロ(EL VAQUERO)」社のニコラス・ジュントーリ(Nicholas Giuntoli)最高経営責任者は、“カウボーイ・コア”の魅力はウエスタン文化とファッションの機能性にあると考えている。「時代を超越した品質とクラフツマンシップ、つまりウエスタンウエアの中核をなす品質に対する評価が高まっている」と彼は言う。

高級ブランド「パリ・テキサス(PARI TEXAS)」の創設者でクリエイティブ・ディレクターのアナマリア・ブリビオ(Annamaria Brivio)にとってウエスタンブーツの魅力は、靴が本来持っている汎用性の高さだと言う。ウエスタンウエアは“季節を超えた”ものであって、“いつでも着ることができる”スタイルなのだ。

またコロナ・パンデミック後、アメリカの人口が都市部から南部の州へとシフトしていることへの指摘もある。20年以降、全米成長の大部分はテキサス、フロリダ、ノースカロライナ、ジョージアに集中する一方、カリフォルニアやイリノイ、ニューヨーク、オレゴンなどの州では人口減少が続いている。米国国勢調査局によると、南部地域の拡大は23年の全米成長の87%を占め、140万人以上の住民が増加した。「この国の多くの人々にとって、ウエスタンはファッショントレンドではなく、ライフスタイル。彼らは毎日、田舎での生活に合わせた服を着て生活している」と、テキサス州に本社を置くブーツ会社ツイステッドX グローバルブランド(Twisted X Global Brands)の社長兼CEOであるプラサド・レディ(Prasad Reddy)は説明する。

もちろん、テレビも1つの要因だ。「トニー・ラマ(TONY LAMA)」や「チペワ(CHIPEWWA)」の親会社であるジャスティン・ブランズの南東地域セールス・マネージャー、マイク・ウィニンガム(Mike Winningham)は「近年、アメリカで放送されている現代風西部劇のテレビドラマ『イエローストーン(YELLOWSTONE)』の影響力は大きいのではないか」と語る。「イエローストーン」が18年にCBSで放送開始して以来、家長を演じるケビン・コスナー(Kevin Costner)の牧場一家を描いたドラマは視聴率ヒットを記録している。「Deadline」は、同番組のシーズン5の初回が推定680万人の視聴者を記録したと報じ、2本スピンオフ作品も成功を収めた。80年代の「アーバン・カウボーイ(URBAN COWBOY)」など、いつの時代にも人々をウエスタンに駆り立てるテレビ番組や映画はあるのだ。

拡大するウエスタンスタイル

24年にウエスタンファッションがトレンドであり得るのは、それが地方市場や南部の州だけに集中しているわけではないからだ。実際、「ブート・バーン」のニコルは、「ニューヨークやロサンゼルスなどの流行に敏感な都心部では、ウエスタンのトレンドが人気を博しており、カウボーイブーツの需要が強い」と述べている。そして、以前は好き嫌いが極端だったウエスタンスタイルが、今ではデザイナーやスタイリスト、テイストメーカーらにますます受け入れられている。業界関係者は理由のひとつに、カウボーイの多様な歴史に対する評価が高まっていること、カントリーミュージックやロデオ、乗馬のコミュニティが多様化し拡大していることを要因として挙げている。

例えば、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の24-25年秋冬のメンズ・コレクションで、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)は、彼の前任者であるヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)と同様に、初期のカウボーイたちにインスピレーションを受け、ハイエンドな職人技でウエスタン風のショーケースを作り上げた。ショーのバックステージでウィリアムスは「カウボーイを描くとき、現代ではいくつかの類型しかないように思う。カウボーイは元来、さまざまな姿をしていたが、そのように描かれることはあまりない。彼らは私たちにも、私にも似ている。黒人にも、ネイティブ・アメリカンにも見える」と米「WWD」に語った。

ティンバーランド(TIMBERLAND)」は2月に家族経営のコミュニティー組織であるオクラホマ・カウボーイズ(Oklahoma Cowboys)を起用したキャンペーンを行った。また、21年の「レッドウィング(RED WING)」のキャンペーンでは、馬の調教師であるエリン・ブラウン(Erin Brown)、別名 "コンクリート・カウガール"とフィラデルフィアのアーバン・ライディング・コミュニティーのメンバーが共演した。そして「ツイステッドエックス(TWISTED X)」のブランドアンバサダーの1人は20年にタイダウンローピングで優勝し3人目の黒人ロデオ世界チャンピオン、シャド "マネー "メイフィールド(Shad “Money” Mayfield)が務めている。

こうしたウエスタンスタイルの多様化は、カントリーミュージック界にも影響を及ぼしているとオーエンズは指摘する。「8~10年前は田舎っぽい印象だったのが、今では最も包括的な音楽ジャンルのひとつになっている」とオーウェンズ。19年にリル・ナスX(Lil Nas X)とビリー・レイ・サイラス(Billy Ray Cyrus)がコラボした「オールド・タウン・ロード(Old Town Road)」や、トレイシー・チャップマン(Tracy Chapman)がルーク・コムズ(Luke Combs)と24年グラミー賞授賞式で「ファーストカー(Fast Car)」を演奏したことなど、「今はジャンル間のクロスオーバーがとても多い」と付け加えた。また、チャップマンは、23年のカントリー・ミュージック・アソシエーション・アワードで、黒人アーティストとして初めてソング・オブ・ザ・イヤーを受賞し、歴史にも名を刻んでいる。

カントリーミュージック界では文化的や党派的な問題をめぐる衝突がいまだに目立つが、ケイン・ブラウン(Kane Brown)、ジミー・アレン(Jimmie Allen)、ダリウス・ラッカー(Darius Rucker)、ミッキー・ガイトン(Mickey Guyton)、ザ・ウォー・アンド・トリティー(The War and Treaty)ら、有色人種のアーティストが放送される機会が増えている。

各ブランドの反応

ウエスタンウエアに対する消費者の関心の高まりは昨年フットウエアのカテゴリーにブーツの大きなトレンドを巻き起こし、「スティーブ・マデン(STEVE MADDEN)」から「プラダ(PRADA)」までがカウボーイスタイルを提案した。そして、この分野の中核ブランドもその恩恵を享受している。

「モカシンブーツやその他ウエスタンアパレルの需要が大幅に増加したことを目の当たりにした」と「エル・ヴァケロ」のジュントーリ。「この急増により、従来の市場だけでなく、ウエスタンウエアへの評価が高まっている新しい地域にも販売チャネルを拡大することができた」と語った。

「ツイステッドX」は、高級レザーとエキゾチックな素材を使用した、よりエレガントで唯一無二のブーツシリーズ、“リザーブ・コレクション”を発表。1月に3種類のメンズスタイルで発売を開始し、今年後半にはウィメンズも2型追加される予定だ。

「ジャスティン・ブランズ(JUSTIN BRANDS)」では伝統的なスクエアトゥのシルエットだけでなく、より先の尖ったカッタートゥやスニップトゥのバージョン、そして若い男性をターゲットにしたラウンドトゥのブーツも展開。「友愛会の子供たちはみんな、おじいちゃんの服を着るのが好き。ロデオに行くと、彼らはラフアウトブーツを履いて歩いていたり、古い『フライ(FRYE)』のブーツを履いていたりする」とウィニングハムは語った。

「ディンゴ(DINGO)」は、Z世代の消費者も視野に入れている。「私たちのブーツは、履き心地の良さを追求したものなので、ウエスタンというよりはファッション。若い女性たちはトレンドかもしれないが、スニーカーやビーチサンダルで育った35歳以下の女性たちにハードなブーツを履いてもらうのは現実的ではないと思う」とオーウェンスは語った。

2024年の見通し

23年末、複数のアパレル小売会社は“カウボーイ・コア”が下火になったと報告した。サーカナ社は、昨年のアメリカでのブーツの売り上げが8%減少したと指摘。また、ブートバーンは第3四半期に予想以上の伸び悩みを報告し、通年の売上見通しを下方修正した。

しかしその後、新たな潮流が到来し24年のファッションの展望が変わった。
「ビヨンセがカントリーミュージックを取り入れたり、ファレルが『ルイ・ヴィトン』でカウボーイにインスパイアされたテーマを探求したりした。影響力のある人物を目の当たりにすることで、ウエスタンウエアのトレンドは単なる一瞬の出来事ではなく、進化していくムーブメントであると確証した」とジュントーリは語る。「グローバル化した世界を反映し、ストリートウエアやハイファッション、ワールドワイドなスタイルとウエスタン要素の融合が増えるでしょう」。と、“カウボーイ・コア”のこれからに前向きだ。

「ブート・バーン」のニコルもまた、ウエスタンと他の要素の融合に期待している。「ファッションやポップカルチャーのスタイルアイコンがウエスタンのルーツに傾倒していくにつれて、ファッションは新たな市場を拡大する。それにより、カウボーイ文化に光が当たり、より西部の世界が注目されるだろう」と語った。

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