アトモスの創業者・本明秀文さんの独自の目線と経験から、商売のヒントを探る連載。サッカードイツ代表のユニホームサプライヤーが2027年から「ナイキ(NIKE)」に変わる。ドイツ発祥の「アディダス(ADIDAS)」と70年以上にわたって続いてきた関係に終止符を打つのだ。にわかサッカーファンである僕ですら、ドイツ代表のユニホームは“スリーストライプス”以外想像できない。相撲のまわしが突然、リーバイス製のデニムになるぐらいの衝撃。ドイツの政治家も「商売が伝統を破壊する」と嘆いている。(この記事は「WWDJAPAN」2024年4月1日号からの抜粋です)
――ドイツサッカー連盟と「ナイキ」との契約期間は、27〜34年までの7年間。現在契約中の「アディダス」はドイツが誇る世界有数のスポーツメーカーだけに、今回のサプライヤー変更は、“愛国心が欠如している”とドイツ国内でも波紋が広がっているようです。
本明秀文(以下、本明):ドイツのサッカーファンだけじゃなく、政治家まで「商業が伝統を破壊した」などと、酷評しているね。ドイツにある「アディダス」の本社と「プーマ(PUMA)」の本社は隣り合わせ。お互いのオフィスが目と鼻の先にある。なぜならドイツでは、創業地で商売を続けると税金が安くなる制度があるから。ダスラー兄弟(「プーマ」は兄のルドルフ、「アディダス」は弟のアドルフが創業)が創業した会社だからもともと近場にあったと理解できる。国としては税金まで免除しているのに、どうしてアメリカの「ナイキ」を選んだのかと。
――「ナイキ」の契約金は、これまでの「アディダス」の年間5000万ユーロ(約82億円)の倍、年間1億ユーロ(約165億円)と推定されています。ドイツサッカー連盟も赤字経営だといわれているので、契約金の違いは大きそうですね。
本明:ドイツ全体で経済がめちゃくちゃ悪い。ドイツ首相を16 年間務めたメルケルは、東ドイツ(出生は西ドイツ)で育った。ロシアのプーチン大統領もKGBの将校として東ドイツに駐在した経験がある。メルケルはロシア語を話せるし、プーチンもドイツ語を話せる。国のトップが直接コミュニケーションを交わせるから、もともとドイツとロシアは友好な関係だった。そのおかげでドイツは、ロシアから石油や天然ガスの大半を輸入できていたんだけど、ロシアがウクライナ侵攻開始後にヨーロッパへのガス供給や石油の輸出を停止した。それに加えて、最大の貿易相手国である中国との関係が悪化し、輸出入ともに大幅に減らしている。メルケルが引退し、現首相のショルツのコミュニケーション不足も、不景気に陥った原因。ドイツもそんな感じで今や“愛国心”なんて言ってられないだろうし、「ナイキ」も業績不振だから、敵の牙城になりふり構わず攻めにいっている感じだね。
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