PROFILE: (左)齋藤秀行/メローカナリア代表(右)箕輪厚介/編集者、実業家
数々のヒット書籍を生み出し、実業家やコメンテーターとして多岐にわたり活躍し続ける幻冬舎の箕輪厚介氏。2022年には家系ラーメン店「箕輪家」、サウナホテル「サウナランド浅草」をプロデュースし話題を呼んだ。編集者でありながら実業家である彼の次なる照準は、意外にも“古着バー”の開業だと言う。手を組むのは、古着屋やカフェを経営するメローカナリア代表の齋藤秀行氏だ。“古着ブーム終焉”と言われる中、彼らが新たに古着ビジネスを始める理由とは?2人が考える生き残りの道筋を聞いた。
Xをきっかけに古着バー開業へ
初年売り上げ目標は5000万円
WWD:古着事業を始めようとしたきっかけは?
箕輪厚介(以下、箕輪):Xで私に顧問を依頼したい企業を募ったことがきっかけだ。複数の問い合わせがあった中で、古着屋のオーナーである齋藤さんの問い合わせが目についた。私は古着に詳しくはないが、好きなものに対してこだわりを持って語っている人に惹かれる。実際にYouTubeで「ハルキの古着」「さらば森田の五反田ガレージ」など古着コンテンツを見るのが好きだったから、齋藤さんの声掛けはうれしかった。
齋藤秀行(以下、齋藤):4月7日に閉業した古着屋「エブリシング イズ エブリシング 下北沢」の物件は、借りたのがコロナ禍だったことから、今の下北沢では考えられないほど家賃が安い。手放すのは勿体無いし、他にも古着屋を経営していることから、この物件では新たなチャレンジをしてみたいと思った。ファッション界隈の多くの人は、箕輪さんのことを“お金の人”と少し冷めた感覚で見ていると思うし、古着の世界では“売れない方が美しい”みたいなムードも感じる。しかし私達だって、表ではお金のことを話さなくても売り上げが立てばうれしい。“古着ブーム終焉”と言われる中、私自身もこのブームは絶対に終わると考えている。古着業界にとって厳しい時代が来るからこそ、「何か新しい世界が作れたら」と言う気持ちで、あえて“お金っぽさ”を感じる箕輪さんに顧問を依頼した。私自身もアパレルだけではなく、カフェを展開したりなどさまざまな事業を行う部分で、マルチに活躍する彼の考え方に共感できた。
箕輪:まずは5月から1年間で売上5000万円、そこから徐々に1億円を目指す。古着に限らないが、あらゆるブームは5〜7割が本当に好きな人、2〜3割ぐらいが“にわか”、3割ぐらいが投機目的、と言ったバランスによって成り立つ。投機があることによってムーブメントになっていることは間違いないが、その割合が多くなると本来のファン達が離れていき、やがて投機する人もいなくなる。これこそバブルが弾ける瞬間だ。ビジネスとしてただカルチャーに乗ろうとすると、バブルが弾けた時に生き残れないだろう。
コンセプトは“ネオスナック”
お酒を飲みながら古着を買える空間に
WWD:オープン予定日や店のコンセプトは?
齋藤:「エブリシング イズ エブリシング 下北沢」の店舗をリニューアルする形で、5月1日に“古着バー”をオープンする。まだ店舗名は決まっていないし、店長も募集中だ。
箕輪:古着に関する知見が無い私がただ古着屋をやっても、それこそ“時代のブームに乗っかっただけ”みたいな形になってしまうだろう。今38歳の私も含め、普段港区で飲んでいるような40代の人達も下北沢に来ると落ち着くし、ワクワクする。かと言って古着を買うためだけに来るというのは少しハードルが高いし、バーのような雰囲気にしたいと考えた。今流行している、いわゆる“ネオスナック”のようなイメージだ。90年代の懐かしさを感じる空間で、同じ世界観を持つ古着を展開したい。お酒が飲めて、語り合って、その場にある服も買える――つい何となく行ってしまうような場所になるのが理想である。実際に私も飲みに行くし、時には“1日店長”として店に立つ予定だ。
WWD:現在店長を募集中だが、どのような人材を採用予定?
箕輪:自分がサウナを経営する中で、流行に乗って開業した店舗のほとんどは、ブームが落ち着いた頃になくなっていくのを肌で感じた。だから古着に関しても、私の“好きレベル”ではきっとダメになってしまう。そのため当初は「古着大好き!」みたいな知見のある人を店長として立てて、その人にフルベットして好きなようにやってもらおうとしたが、そう簡単に良い人材は見つからない。そこで「ファッションもコミュニティーなのでは」と考えた。ファッションが好きな人は、自分の好きな価値観や人との繋がりを共有するユニフォームのように服を選んでいる。そういった視点で考えれば、私が手がける書籍やラーメン、サウナ、オンラインサロンも基本的にはコミュニティービジネスで、自分が得意とする分野だ。その文脈で言うと、知識がなくてもファッションを楽しんでいて、気持ちの良い接客ができて、一緒に作っていくという意識が持てる人が理想だ。私のラーメン屋は家系ラーメンから始まったが、次に二郎系ラーメンを売り始めて今とても人気がある。業界的には家系の店が二郎系を出すのは邪道らしいが、箕輪家の店長はラーメン業界の人ではないし、ある意味斬新な発想で始められた。そんなふうに、固定観念に縛られていない人の方が面白いことができると考えている。
WWD:商品の買い付けは誰が行う?
箕輪:店長が決まり次第、店長と私、齋藤さんで買い付けに行きたいと思っている。最初の買付先はタイだ。
齋藤:タイは、今世界で1番古着が集まっている国。アメリカやヨーロッパの古着が集まっていて、最近の古着の多くはタイの業者から仕入れられている。パキスタンにも古着は多いが、一般的にはアクセスがしにくい国だからこそ、パキスタンの業者もタイに卸に来るほどだ。昔は一部の人しか知らなかったが、今はどんな人でも買い付けに行きやすい環境になった。
箕輪:知人がちょうどタイに移住するのと、キックボクシングをやっているのもあり、ムエタイ合宿もしたいなと思っていて(笑)。買い付けと言っても、私は何を選べば良いかわからない。でもみんなで一緒に買い付けに行って、みんなで売るというストーリーがこれからの時代は大事なんだと思う。
WWD:古着バーの次に挑戦したい事業は?
箕輪:いつもその場で「これやりましょう」と話が決まることが多く、思った時点でスタートする。だからこそ、今の時点で次に考えていることは特にない。とは言え、鈴木おさむさんの引退を身近で見ていて、「変わったことをやりたい」と改めて感じた。普遍的に続くものを作りたいとは思わないが、将来過去を振り返った時に「よく分からなかったけど一時期そういうブームあったよね」みたいな現象を生みたい。“古着バー”にしても、下北沢で他の人達が真似してやり始めるような流れになると理想的だ。
ファッション誌の広告営業経験やブランド企画の出演も
箕輪氏が見るファッション業界の可能性
WWD:箕輪さん自身は普段、どんな服を選んでいる?
箕輪:一時期はペンキで服にペイントするのにハマってペンキばかり買ったり、“たけしセーター”に夢中になったり、本当に訳のわからない買い物をしていると思う(笑)。少し前はグレーのスエットが好きで、メルカリで“グレー”“スエット”で検索をして買い集めていた。その時にたまたま買った「ヒューマンメイド(HUMAN MADE)」のスエットをよく着ていたら、ブランドの関係者から人伝で「箕輪さんは『ヒューマンメイド』が好きなんですか」と聞かれて。「グレーのスエットだから」という理由で買っただけだったから、本当に恥ずかしかった(笑)。
WWD:過去にはファッション企業の企画に起用されたが、自身はどのように感じている?
箕輪:これまでにビームスやエストネーションが企画で私を起用してくれたことがある。ファッション好きな人達がなぜ私を起用するのか不思議だったが、ビームスの設楽洋社長が言うには「ファッションというのは片方で“それは違うでしょ”と否定されるようなことをやり、もう片方で“わかっているな”とお客さんが共感し喜ぶこと、両方をやらないとすぐにダサくなり、批判される」のだそうだ。きっと僕を起用する企業は既存のイメージを壊したいとか、変わったイメージをつけたいのだろう。
WWD:ファッション誌の広告営業の経歴を持つ箕輪さんは、ファッション業界をどのように見ている?
箕輪:そもそも、ファッション業界そのものが独特で、ビジネスとしてすごく今っぽい。今は品質や実用性のみで買うことがなくなってきている時代だ。その中で多くの企業が商品そのものの意味を考えたり、熱量の高いコミュニティーを作ろうとしているが、ファッション業界は昔から商品のストーリーや表現、コミュニティーを追求してきた業界だ。別の種族の人から見たら全く訳わからないような商品が、一部の人には魅力的に感じられる――ある意味宗教っぽくもあるが、すごく理想的だ。信者ビジネスとか揶揄されてしまうこともあるが、お客さんがファンになり、ファンが信者になってくれるような商品やブランドでなくては、将来的には価値がなくなっていく。そういった意味でファッション業界はとても先鋭的で、今の時代に合っていると感じる。
WWD:多様な業種に携わる中で、今後ビジネスのカギとなるのは何だと思う?
箕輪:昨今“居場所”“溜まり場”みたいなものの需要を強く感じる。“食うために稼ぐ”のは辛くても、その目的があるだけ、実は幸せだ。将来、AIが仕事の多くを担う時代に突入し、食うために稼ぐことが不要な世界になったら、自分達のコミュニティーに貢献することに生きる意味を感じるのだと思う。金銭的なものを介さない価値の交換や、それぞれが自分に合った方法で貢献する“溜まり場”、すなわちコミュニティーが求められるだろう。例え話として「高級レストランか、バーベキューか」とよく挙げられるが、バーベキューは自分達で火をつけたり、肉を焼いたり、それぞれに役割があるからこそコミュニティーが生まれる。今回始める“古着バー”でも雇う店長やスタッフのアイデアを取り入れたり、お店側とお客さん側の垣根を超えて、みんなで“溜まり場”を作っていくバーベキュー型の店にしていきたい。
PHOTO:KAZUSHI TOYOTA