アシックスは、建築家の隈研吾とのコラボレーションシューズ第3弾“アーキサイト・オル(ARCHISITE ORU)”(3万3000円)を4月5日に発売するのに先駆け、隈を招いたトークイベントを3日に開催した。会場は、隈が設計した早稲田大学構内の村上春樹ライブラリー。開発開始から量産までに3年がかかったという同モデルの試作品も多数並べ、学生を含む来場者が開発の裏側を感じられるようにした。
「今日も甲賀(滋賀県)で地鎮祭に参加してきた」と話を始めた隈は、「各国の建築現場に出掛けていくが、地面がぬかるんでいるケースは多い。北半球と南半球を行き来することもよくあり、気温差・天候差は大きく、現場に出た後にカクテルパーティーというスケジュールもある。ただし、荷物はできるだけ少なくしたい。“アーキサイト・オル”なら、1足で(現場からパーティー、ホテルでのリラックスシーンまで)さまざまな場に対応できる」「(見る人に)これは一体なんだろうと思わせながらも、全ての場所で通用するというのが(建築デザインにおいても、靴のデザインにおいても)いい」とコメント。
「このシューズは建築の未来を暗示している」
“アーキサイト・オル”は、19年に発売したコラボ第1弾、21年の第2弾で採用していた、伝統的な竹編みの技法“やたら編み”構造を、高強度ではっ水、防風、軽量などの機能を持つファブリック「ダイニーマ」のアッパースキンで覆っている。アッパースキンを折りたたみ、アシックスならではのタイガーストライプと一体化したオレンジのゴムによって留める作りだ。
「『ダイニーマ』はアシックスから提案されて初めて知った。もちろん機能面も優れた素材だが、僕は見た目の繊細さにも注目した。今日の会場である村上春樹ライブラリーでは、村上作品の相転移を意識して、繊細で軽量なシアー素材のカーテンを仕切りとして採用したが、『ダイニーマ』はそれに通じるものがある」と隈。「建築においても、骨組みの外をガラスなどで覆うカーテンウォール構造という技法があるが、風雨を防ぐためガラスが厚くなりがち。ただ、北海道・十勝で手掛けた建築(メム メドウズ)では、骨組みを薄い半透明の膜のような素材で覆う作りを採用した。分厚い素材ではないのに、外気がマイナス30度でも中は快適。(外側を)ガチガチに固めずに、でも体は守られているというのは、これからの建築で僕がやりたいこと。“アーキサイト・オル”は、建築の未来を暗示しているとも言える」と続ける。
無理難題は「開発者冥利に尽きる」
隈は、建築で普段組んでいるゼネコンや今回組んだアシックスの技術者について話を振られると、「日本の技術者は自身のイノベーティブな側面に気づいていないことも多いが、非常に知識が深く、同時に殻に閉じこもらず、柔軟性がある」とコメント。その後登壇したアシックス スポーツスタイル統括部の担当者は、「隈さんは自身の考えややりたいことをストレートにぶつけてきてくださる。無理難題は多いが、それは靴のスペシャリストであるわれわれにとって開発者冥利に尽きる。なんとか要望に応えたいと試行錯誤を繰り返し、量産までに3年かかった」「『ダイニーマ』は高いはっ水性ゆえに接着ノリまではじいてしまい、ソールとアッパーをどう接合するかに課題があった。そこで、『ダイニーマ』のキワに別の生地を縫い付け、それとソールを接着している。隈さんからアイデアをいただいた素材の使い方や、所作が機能にもなりデザインにもなるという考え方は、今後インラインの製品開発にも生かせる」と、隈から得た刺激を語った。
“アーキサイト・オル”は、日本ではアシックス原宿フラッグシップ、アシックス公式ECのほか、一部のスニーカーショップで販売する。グローバルでは6月に発売予定で、「(第1弾、第2弾の反応も含め)特にに欧州のお客さまからの期待が大きい」(アシックス担当者)という。