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成分ブームの火付け役「オーディナリー」CEOに聞く、カルト的人気の裏側

エスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES以下、ELC)傘下のカナダの化粧品会社デシエム(DECIEM)が展開するスキンケアブランド「オーディナリー(THE ORDINARY)」が日本に上陸する。「アットコスメ トーキョー(@COSME TOKYO)」および「アットコスメ オーサカ(@COSME OSAKA)」をはじめ全国の「アットコスメ」約20店舗と、オンラインストア「アットコスメ ショッピング(@COSME SHOPPINNG)」で5月29日に発売する。

同ブランドは成分濃度や配合、価格設定、有効性に関して高い透明性を目指し広告費やパッケージにコストをかけないことで知られ、ヒーロー商品に多機能セラム“ナイアシンアミド10%+亜鉛1%”(30mL、1100円/60mL、1980円)などがある。2016年誕生の新興ブランドながら瞬く間に世界中で熱狂的なファンを獲得。17年にELCがデシエムに最初の投資を行い、21年には10億ドル(約1510億円)で過半数株式を取得した。当時の企業価値評価額は22億ドル(約3322億円)と、ELCにとって(企業価値評価額ベースで当時)過去最大の買収となり話題を呼んだ。来日したニコラ・キルナー(Nicola Kilner)=デシエムCEO兼共同創業者に急成長の裏側を聞いた。

フラストレーションから
生まれたブランド

WWD:「オーディナリー」誕生の背景は?

ニコラ・キルナー=デシエムCEO兼共同創業者(以下、キルナー):2013年に、自社で処方開発から製造、デザイン、クリエイティブまでを行うインキュベーターとしてデシエムを設立した。デシエムはラテン語で数字の10を意味し、さまざまなブランドを立ち上げ始めた。その中で、私たちは大きなフラストレーションと対峙していた。というのも、化粧品業界では商品名にグロー美容液などジェネリック(一般的、総称的)な名称が使われており、その状況で消費者が品質を理解するのは難しく、もっと透明性が必要であると強く感じていたからだ。私たちは化粧品が効くかどうかを決めるのは価格ではないと強く信じていたので、配合成分を商品名に反映するなどしてなんとか自分たちの手で化粧品業界に透明性をもたらしたいと考え、16年に「オーディナリー」が誕生した。

WWD:ローンチして瞬く間に熱狂的なファンがつき、世界的に知られるブランドになった。現在は何カ国で展開している?

キルナー:ウェブサイトを通じて世界中に出荷しており、162の国と地域をカバーしている。北米とヨーロッパのほとんどの国、韓国にも拠点があり、南アフリカやインドでは直営店も展開する。ビジネスの規模としてはアメリカが最大で、非常に大きな成功を収めている。新興市場ではインドと韓国が良い兆しを見せており、将来的に大きな期待が持てるだろう。日本も、高品質なスキンケアと成分に対して情熱的な消費者がいるため大変楽しみにしている。

ELCは製造やサプライチェーン、新規市場への参入をサポートしてくれている。北米のような市場では、私たち自身のチームがオフィスを構えており、ビジネスの大部分が私たちのチームによるものだが、特にオペレーション面や、インド、南アフリカ、日本など新規市場ではELCのサポートが大きな助けになっている。私たちは全商品の製造をカナダにある自社ラボで行っているため、スケールアップするためにサプライチェーンやさまざまなサプライヤー確保の面で専門的な助けが必要だった。

ソーシャルメディアの台頭が
急成長の追い風に

WWD:北米、特にアメリカで大きな成功を収めた要因は?

キルナー:まずはディストリビューションパートナーの寄与が大きい。また、米国のお客さまは非常にパワフルな情熱を持っており、それに支えられて消費者と良い関係性を築けたこともある。北米では特にTikTokの影響が非常に大きく、そのコミュニティー内では消費者が彼らのストーリーや信念、ブランドや商品の使い方をシェアしあっている。Z世代におけるソーシャルメディアの台頭が北米市場における成功に導いた。

WWD:ヨーロッパの商況は?

キルナー:継続的に良い状況にある。特にイギリスは市場シェアのランキングを上げながら順調に拡大している。ハロッズ(HARROD'S)やセルフリッジ(SELFRIDGES)など高級百貨店にコーナーを持つ一方で、気軽にアクセスできるECチャネルまで非常に幅広い流通網で展開している。そのほかのヨーロッパ諸国はセフォラ(SEPHORA)とダグラス(DOUGLAS)が主要なパートナーだが、直営店も展開し、オンライン、百貨店とも提携している。

WWD:今回、日本市場への参入を決めた経緯は?

キルナー:日本市場へは何年も前から参入を考えていたが、ブランドを立ち上げてすぐにソーシャルメディアを通じてあっという間にグローバルな需要を獲得したことが困難の1つになった。また、新規市場に参入するにあたり化粧品の登録手続きにも時間を要した。パンデミック後、私たちは日本を常に最優先市場の1つと位置付け進めてきた。

世界的な”成分ブーム”をけん引

WWD:日本では近年、化粧品購入の際に配合成分を重視する“成分ブーム”が起きている。そのことは知っていた?

キルナー:そうしたトレンドが続いていることを非常にうれしく思っている。「オーディナリー」を立ち上げたのは16年の後半で、その頃はビタミンCやヒアルロン酸などの成分は一般消費者にも浸透していたが、われわれが商品名につけているナイアシンアミドなどはまだなじみがなかった。グーグルトレンド(Google Trends)の推移を見ると、そうしたマイナーだった成分が「オーディナリー」のローンチと時を同じくして伸びているのが分かる。消費者が成分に関する知識を得て、より賢明な判断ができるようになったのは素晴らしいことだ。

WWD:“成分ブーム”は中国や韓国でも数年前から大きなトレンドになっている。グローバルでも同じ状況か?

キルナー:北米やヨーロッパをはじめ世界中でこのトレンドは数年続いており、その勢いが衰える気配はない。過去数年間を振り返ると、グリコール酸が急上昇トレンドになったこともあるし、ペプチドがトレンドになったこともある。成分によってピークはずれるが、とにかく消費者が一貫して成分に着目していることは間違いない。北米やヨーロッパではトレンドというよりスキンケアへの新たな理解が深まったとみることもできる。それは非常にサステナブルなことだ。

WWD:ブランド立ち上げ前から成分トレンドの芽は感じていた?

キルナー:グーグルトレンドの推移を見るとはっきり分かるが、私たちが成分美容を打ち出してブランドを立ち上げた後、それに追随するブランドが出てきて、成分ブームのトレンドが強まっていったと分析している。ブランド立ち上げから7年が経ったが、その間、成分トレンドという追い風が衰えないのは驚くべきことだ。私たちの商品を愛してくれる消費者やプレス、そしてソーシャルメディアなどの力により加速したものでとても感謝している。愛用者が口コミで家族や友人に商品や体験を日々伝えてくれており、追い風はよりパワフルになっている。

WWD:日本では、アットコスメというセミセルフ型の実店舗から販売をスタートするが、グローバルでは主要な販路としてどこにフォーカスしている?

キルナー:消費者がどこで買い物をしているかに注目しがちだが、「オーディナリー」の良いところは年齢やジェンダーを問わないことだ。私たちは「オーディナリー」が全ての人たちのための商品だと信じているため、より幅広い販路を考えることができる。ブランドストーリーをきちんと伝えられるかを重視してパートナーを見つけている。グローバルでは高級化粧品を扱うセフォラ(SEPHORA)や同様の小売店と良いパートナーシップを築いているが、各マーケットのメインプレーヤーであり、ブランドストーリーを伝えられる最適な場を探す。日本ではアットコスメがブランド立ち上げの場として完璧だった。

ウェブ上の処方ビルダーで
教育機会を提供

WWD:消費者が商品を自分でカスタマイズして使う特性上、日本でも百貨店のカウンターでカウンセリングを受けたいニーズがあると思うがそうした選択肢は?

キルナー:もちろん百貨店に出店したいし、いつかは東京に直営店を持ちたい。先行して展開する海外では、ブランドのウェブサイトで「レジメン(処方)ビルダー」と呼ぶ商品の使用法や併用に関するガイドを見られるようにしている。また、LINEアプリとも提携し、消費者にエデュケーションの機会を提供するほか、インスタグラムなどのソーシャルメディアを通じて徹底したエデュケーションを提供するとともにコミュニケーションを図っている。店頭ではお客さまがスマートフォンを手にTikTokのレビューやブランドサイトの「レジメンビルダー」を見ているのをよく見かける。店頭で商品を手に取りながらオンライン上の自分の情報にアクセスしており、ニーズをカバーできているのではないか。

小売業者に対しても同様のエデュケーションを提供し、ブランド側のスタッフが小売側に入ることが許可されれば、チームメンバーが小売店に入ることもある。世界中のどの店舗に行っても、消費者体験の観点で、私たちのチームが提供する教育レベルが驚くほど高いことを理解いただけるだろう。この点でさらに存在感を示していきたい。

WWD:「オーディナリー」はSNSのフォロワー数がインスタグラムで約241万人、TikTokで約152万人(2024年4月時点)と新興美容ブランドの中でもトップレベルだ。その要因は?

キルナー:一番は商品力だ。私たちはとにかく化粧品を手に取る際の障壁を減らすことに力を注いでいるため、消費者は使いやすいと感じているだろう。手に入れやすい価格設定にも関わらず、ブランドのポジショニングはクールで今っぽく高級感があり、お客さまは「オーディナリー」を使っていることをシェアするのに誇りを感じている。同様の価格帯の他ブランドのように大衆的な商品を使っている感覚はないだろう。

多くの消費者、特にZ世代やミレニアル世代のお客さまは、個人的な価値観と企業の価値観が一致しているブランドから商品を購入したがっている。「オーディナリー」は人や地球、動物に対するアプローチについてかなりオープンなので、人々は私たちの信念についていこうと思うだろう。私たちはどの投稿においても、声を上げる時は常に「オーディナリー」のコミュニティーの大多数の声を反映していると思っている。だから人々は引き込まれる。そして実際に商品を使って違いを感じることにより、高いエンゲージメントを維持し、周りにも勧める。価格設定に関しては、買いやすさを最優先するとともに、各国でほぼ価格差がないようにこだわっている。

価格はマスブランド
売り場はラグジュアリー

WWD:ベンチマークしているブランドは?

キルナー:「オーディナリー」のポジショニングは非常にユニークで、私たち自身が他ブランドと比べることをしていないため答えるのが非常に難しい。というのも、「オーディナリー」は価格の面ではマスブランドだが、売り場はラグジュアリーやプレステージとされる場が合っている。私たちは価格でラグジュアリーを定義することはできないと信じており、「オーディナリー」は新しいカテゴリーに位置していると思う。セフォラや、イギリスのハロッズやセルフリッジで初めて販売した時も、彼らは自分たちをプレステージの小売業者と考えているため「オーディナリー」の価格帯を気にしていた。プレミアムリテールにおいて商品の高価格化が進む状況の中、変化が見られたことはとても良いことだ。私はチームに対して、他社を意識しすぎると自分たちが特別な存在であることを見失ってしまうといつも伝えている。ただ、今回の来日で「ジェントルモンスター(GENTLE MONSTER)」のショップを訪れたが、そこからインスピレーションを得ることはできると思う。私は彼らのクリエイティビティーが大好きだ。

WWD:ブランドの目的の一つが化粧品業界の透明性を高めることだ。「オーディナリー」の存在は業界に影響を与えたか?

キルナー:そう願っている。私たちは化粧品業界の民主化に取り組み、大きな影響を与えたと感じている。とりわけ商品名、マーケティングにおける成分と科学の強調、研究室からのダイレクトの発信などにおいて、ほかのブランドに影響を与えることができたのではないか。また、科学に特化した重要な問題について自分たちの言葉で発信してきた結果、今では科学に対する議論の余地がある時、消費者が探している答えを持っているブランドとみなされているだろう。私たちは消費者に肌につけている化粧品とその利点について透明性を持って伝え、原材料を商品化し、価格を下げることを実現した。これからも謙虚な姿勢で透明性のある声を発信していきたい。

WWD:今後の成長戦略は?

キルナー:今年後半には日本の商品ラインアップを増やす予定だ。グローバルにおいても新商品の開発を予定している。また、360度視点のブランド体験を提供するポップアップイベントなども検討している。

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