東欧モルドバの首都キシナウで3月に開催されたファッションの祭典「モルドバン・ブランズ・ランウエイ(Moldovan Brands Runway)」に参加してきました。友人には「モルディブ?モルドバ?どこ?」と何度も聞かれ、「モルディブじゃなくて、モルドバ共和国。ルーマニアとウクライナに隣接する旧ソビエト連邦で、年に2回ファッション・ウイークを開催している都市だよ」という説明にも慣れました。祭典は今年で12年目を迎えます。昨年から運営を一新し、東欧では注目度の高いファッション・ウイークへと成長しつつあります。
初参加だった前シーズンのゲストは、東欧でよく見るエッジの効いたアンダーグラウンドな装いが多い印象でした。対して今シーズンは、ゴシック調へとやや変化しています。例えば、コルセットやレース、段々が重なるティアードフリルに、今季のトレンドの一つである透け感のあるシアーな素材を取り入れたスタイリングも多数。重ね付けする装飾的なジュエリーが目を引き、特にパールの着用率が高く、中にはカキの殻を模したゴールドのジュエリーも見られました。内陸国のため、海の生き物への憧れが強いのか?それともほかの潮流があるのか。現地のトレンドや若者の感性について興味を引かれたので、来場した2人に声を掛けてみました。
驚きの顔面ウィッグネット
ヴィクトリアの意外な人柄
ヴィクトリアは、現地キシナウ出身でフォトグラファーとして活動中。同イベントには前回に続き2回目の参加で、「若者が集うファッションの祭典が、地元で開催されるようになってすごくうれしい!以前までのイベントは内容がつまらなかったから参加してなかった」とのこと。
ヴィクトリアが着用しているのは、古着屋で見つけたセカンドハンドのアイテムをDIYでリメイクしたビスチェのトップスで、タキシード風のジャケットもプラットフォームサンダルも古着です。憧れのデザイナーは、ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)とリー・アレキサンダー・マックイーン(Lee Alexander McQueen)で、ゴシック調の装いが好みだそうです。「今日のテーマは、憂鬱な未亡人。デザイナーの友人がハンドメードしたジュエリーがお気に入りよ。お葬式みたいなダークムードにしたくて、大きめのウィッグネットを伸ばして、顔に被ってみたわ。大丈夫、網だから全然苦しくないの。伸ばすのが大変だったけどね」と教えてくれました。
キシナウは、旧ソビエト連邦時代の共産主義の建物が多く残り、街灯が少なく、メランコリックな雰囲気です。彼女の装いはそんな街によくマッチする独特なムードですが、現地でほかのモルドバ人と同様に、落ち着いていて温厚で優しく、いい意味でのギャップに魅了されました。
口が動かないほどの渾身メイク
アンナは筆談で夢を語る
会場外で思わず二度見してしまったアンナにも、たまらず声をかけてしまいました。私の質問には「メイクのせいで口があまり動かないから、書く方がいいわ」と、筆談で答えてくれます。口が開かないほど作り込んだメイクは、2時間半かけて完成させたそうです。陶器の人形のような艶のある肌にするため、肌に影響の少ない透明の糊を顔全体に塗ってから、その上にメイクを施したそう。今年1月に「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」が披露した 2024年“アーティザナル”コレクションのメイクを彷彿とさせましたが、「着想源はピエロ」だそうです。
きっとメイクアップアーティストを目指しているのだろうと予想していたものの、「今はインテリアデザインの学生で、将来はその道に進みたい」という意外な答え。着用しているブラウスやスカートは「古着屋で購入したアイテムと、母の古着をDIYした」とのこと。「ジュエリーとベールは友人が趣味で作ってくれた。モルドバにはファッションアイテムを購入できる店が少ないし、古着屋は全然オシャレじゃない。デザインやパターンを学んでいなくても、ファッションに興味のある若者は自分で制作するのが普通」と、淡々と綴ってくれました。
最後に夢について聞くと「私はアニメが大好きでコスプレすることもあるから、コスプレを日常着にしたい。いつか東京のストリートをコスプレして歩くのが夢」と、熱量が伝わるメッセージをくれました。